表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/99

 『ユニティ・オンライン』とは全世界でプレイヤー数一億人を突破したフルダイブ型のMMORPGである。

 


 『ユニティ』にダイブした紗友里はティアとなって、ゲームの世界に降り立った。


 ログアウトした場所からのスタートのようで、リンデンの傍にいることが分かった。

 まずはリンデンに行こうと思ったとき、リーン、リーン、と頭の中に音が響いた。

 ビクッとしてしまった。またデビルの襲来かと思っていたところ、視界にケーゴの名前と着信中という文字が浮かび上がった。


 ホッと胸を撫でおろすと、通話をするためのアイコンを選択する。


(ティアちゃん、お疲れ様~)


「お疲れ様です、ケーゴさん。どうして私がログインしたこと分かったんですか?」


(フレンド登録したからなぁ。ログインしたことが表示されるようにしとったんや。昨日、クエストの途中やったろ? 良かったら、クエスト進行の手伝いするで?)


「ほんとですか? 嬉しいです。どこに行ったら良いでしょうか?」


(せやなぁ。冒険者ギルドでどうや?)


 冒険者ギルドなら昨日行ったことがある。

 セーヌへのクエスト報告もできるし、そこがいいだろう。


「分かりました。では、冒険者ギルドで」


(は~い。ほな、また後でなぁ)


 通話を終えると、ティアはリンデンの街の中へと向かった。

 が、足を止めた。


 ステータス画面を開き、フレンドリストからケーゴを選択した。

 TELを選ぶと、ケーゴの声が聞こえた。


(ティアちゃん、どしたん?)


「……冒険者ギルドって、どこでしたっけ?」


(あ……)


 方向音痴であったことを思い出した二人であった。



 結局、リンデンの南門で集合ということになり、ティアは南門の傍に立ってケーゴの到着を待っていた。


 行きかう人々を見ていると、首元にチョーカーを着けている人を何人も見かけた。

 冒険者も結構いるのね。私も慣れてきたら、ああやって冒険に出るんだろうなぁ。

 しみじみと見ていると、こちらに近づいてくる人の存在に気付いた。


 ケーゴとハクトだ。


「やあ、ティアちゃん」


「お疲れ様」


 ケーゴとハクトが言った。


「お疲れ様です。すみません、迎えにきていただいて」


「ええてええて。方向音痴だったの、すっかり忘れとったわ。ほな、行こか」


 ケーゴとハクトに連れられる形でリンデンの街を歩くティア。

 今日は霧が掛かっておらず、街の様子が良くわかる。産業革命時代のヨーロッパを彷彿とさせる街並みは、とても興味深いものだった。

 しばらく歩くと冒険者ギルドが視界に入った。


 クエストの報告に行かなきゃ。

 思わず走り出しそうになったが、グッとこらえた。

 テンションが上がると、すぐに行動に移してしまうの良くない。


 うずうずしてしまうが、なんとか自分を抑えて冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者ギルドに入ると、奥のカウンターで冒険者と話しているセーヌがいた。

 話が終わったのか、冒険者がカウンターから離れたので、セーヌの元へと行く。


「あら、ティアさん、加護は分かった?」


「はい。分かりました」


「良かった。じゃあ、次のクエストをお願いしたいけど、大丈夫かしら?」


「はい!」


 次のクエストにワクワクしてしまい、声を大にしてしまった。

 セーヌがくすりと笑った。少し恥ずかしくなった。


「あなたのジョブはまだノービスなの」


「ノービス……ですか?」


「初心者ってことよ。使えるスキルも装備できる武器も最低限のものしかないわ。だから、好きなジョブに転職することをお勧めしているの」


「もう、好きなジョブに変われるんですか!?」


 もっとゲームを進めてからかと思っていたティアは、思わぬ話にテンションが上がった。

 再びセーヌにクスクスと笑われ、また恥ずかしくなってしまった。


「そうよ。大きな都市にはジョブ会館っていうのがあるの。ジョブ会館にはそれぞれのマスターがいて、そこで師事を受けることができるのよ」


「じゃあ、リンデンにも、そのジョブ会館が?」


「そう。あるのよ。次のクエストは、ノービスから別のジョブに変わること。受けてくれるかしら?」


「はい! もちろんです」


「ふふっ。場所は……ケーゴさんとハクトさんがいるからいいかしら?」


 私が方向音痴って覚えてる。

 三度、恥ずかしくなったティアは顔を手で覆った。


「ええで~。最初から、そのつもりやったからな。ティアちゃん、行こか」


「はい。セーヌさん、ありがとうございました」


 そう言って冒険者ギルドを後にした。



 ジョブ会館に向かっていると、ケーゴが語り掛けてきた。


「ティアちゃん、まだジョブのことよう分かっとらんのちゃう?」


「公式ページで調べた知識くらいしかないです。一応、やりたいジョブは決めて来たんですけど」


「お~。ちなみに何にしたん?」


「秘密です」


「なんや、もったいぶるなぁ。ロールくらい教えてや」


 ロールって役割のことよね。それくらいなら良いか。

 

「アタッカーにしようと思ってます」


「アタッカーかぁ。意外やなぁ。ヒーラーかと思っとったわ。なぁ? ハクト}


「女性のヒーラー率は高いからな。だが、アタッカーも楽しいと思うぞ。敵に大ダメージを与えることができるし、爽快感も高い」


 ハクトが言うと、ケーゴが肩を落とした。


「タンクは人口少な目やからなぁ。でも、パーティーの壁になるんやし、かっこええと思わんか?」


「どのジョブもカッコいいさ。違うなと感じたら、ジョブチェンジすることもできるしな」


「そうなんですか?」


 ティアがハクトに問いかける。

 頷いたハクトが言う。


「俺もタンクのグラディエーターをやったことがある。ただ、性に合わないところがあってな。ガンスリンガーにジョブチェンジしたんだ」


「銃使いですね。かっこいいですよね。ケーゴさんは?」


「わいは最初は槍が使いたくてな、アタッカーのランサーにしとったんや。まあ、色々あって今はタンクのバトルマイスターや」


「バトルマイスター?」


 タンクについては興味が向かなかったため、ジョブを調べていなかった。

 ケーゴは大げさにため息を吐いた。


「タンクには興味なしかぁ。バトルマイスターってのは、拳で戦う超近接戦闘ジョブや。グラディエーターやパラディンよりも防御力は低めやが、素早い動きができるのが特徴やな」


「そうなんですね。バトルマイスターもカッコいいと思いますよ」


「ティアちゃんはええ子やなぁ」


 泣きマネをしたケーゴを見て、ティアは乾いた笑い声をあげた。

 そうこう話していると、ジョブと英語で書かれた看板のある建物が見えた。

 あれがジョブ会館なのだろう。


 二人に連れられてジョブ会館に入ると、大きなホールが出迎えてくれた。

 ジョブ会館は四階建てで、案内板を見ると一階がタンク、二階と三階がアタッカー、四階がヒーラーとすみ分けているようだ。


「ほな、二階に行こか」


 階段を使って二階へと向かう。


「で、ティアちゃんがなりたいジョブってなんなん?」


「ファントムフェンサー(幻影剣士)になろうと思っています」


 そういうと、ハクトがピクリと反応し、ティアを一瞥した。


「ハクトさん? どうしました?」


「いや、なんでもない。ファントムフェンサーなら三階だな」


 そっけない反応であった。何かあるのだろうか。

 三階への階段を上るハクトを見て、そう思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ