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「カゲツさん!」
ティアは思わず声を上げてしまった。
人探しの際に協力してくれた、カゲツ、トーカ、ハルアキがここにいる。
それが嬉しく、パッと笑みを浮かべた。
「ティアちゃん、久しぶり。おじさんのこと、覚えてくれていて嬉しいよ」
「ティアじゃない。あなたも、このイベントに参加していたのね」
「ちぃっす。お久しぶりです」
三人とも覚えていてくれた。あのとき一緒に戦った人たちとまた出会えるなんて。
「三人とも、お久しぶりです。こんなところで出会えるなんて」
「偶然ってすごいよねぇ。次に会ったら運命だね」
「適当なこと言ってんじゃないわよ。ティアは一人で参加していたの」
カゲツの言葉をバッサリと切ったトーカが聞いてきた。
「ううん、本当は三人で参加していたんだけど、逸れちゃって」
「そういうことなの。なら、私達と組まない? タンクはハルアキだし、ヒーラーならカゲツがいるからね」
思ってもいないお誘いであった。パーティーのバランスも良い。
見知った人同士で組めるなら、それが良いに違いない。
「よければ、ぜひ」
「よし。てことで、ハルアキはジャンジャン、ヘイトを取ってきて。私とティアが片っ端から倒していくから」
「えっ? いや、そこまで私強くないし」
「被弾したなら、カゲツが回復するから大丈夫よ」
随分とこき使われているように思えたカゲツだが、本人は満足そうな表情だったので、これでよいのだろう。
「それなら、大丈夫。頑張る」
四人でパーティーを組んでモンスターを討伐していく。
ダンジョンでの戦いとはまた違う戦いに心躍るティアであった。
◇
夕暮れを迎えたところで、戦闘は散発的になった。モンスターが後退し始めたのだ。
ティアはカゲツ達と最後まで戦場で戦い抜いたので、もうヘトヘトであった。
「ティアちゃん、お疲れ様。最後まで大変だったね」
ボトル入りの水を差しだしてくれたのはカゲツであった。
それを受け取り、一口飲んだティアは笑みを浮かべて返す。
「まさか、一日中、戦うことになるとは思いませんでしたよ」
「夢中になると止めどきを見失っちゃうよね。でも、経験値結構稼げたでしょ?」
あっ、とティアは言うと、ステータスを表示させた。
そこにはレベルが50とあった。一日頑張って2レベルも上がるのか。
それにゴールドも増えており、アイテム欄を見ると色々なアイテムが入っていた。
「すごいです。一日でこんなに稼げちゃうなんて」
「開催期間はそんなに長くないから、参加できる日も限られちゃうかもだけど。貰える物も多いから頑張っていて損はないよ」
「本当ですね。カゲツさんは明日も参加するんですか?」
「うん。もうちょっとでトーカちゃんとハルアキくんがレベルカンストするからね。それまで頑張りたいかな」
カゲツが少し離れた場所で休んでいる二人を見て言った。
「カゲツさん、優しいんですね」
「急に褒められると、おじさんビックリしちゃうよ。二人とも頑張り屋さんだからついつい助けたくなっちゃうよね」
「そうなんですね。なかなかできないことだと思います」
「ありがとう。ティアちゃんも頑張ってるから、色々な人と繋がりできてるんじゃない?」
そういわれて気づいた。ハクトとケーゴのことを忘れていた。
終わったら合流する予定にしていたから、集結ポイントに行かなければ。
「カゲツさん、私もう行かないと。今日は本当にありがとうございました。あの、よければフレンド登録してもらえませんか?」
「もちろんさ。あの二人も一緒に登録しよう。おーい、トーカちゃん、ハルアキくん、ちょっと来て―」
二人に来てもらい、それぞれとフレンド登録を交わした。
フレンドが増えるたびに、楽しさが増えていくように感じたティアは、名残惜しさを感じながら別れを告げて集結ポイントへと向かった。
◇
ティアはイライジャの北壁の入り、地図を片手にピン止めされた地点まで彷徨いながら歩いていた。
こっちの方角であっているはずだが、自信がない。なにせ方向音痴なのだから。
着実に終結ポイントに近づいていると、そこかしこでキャンプの火が灯されていた。
幻想的な風景を眺めながらティアは歩いていると、ハクトとケーゴの姿を見つけた。
「ハクトさん、ケーゴさん」
そういうと、二人はティアに気づいたようで、こちらに駆け寄ってきた。
「ティアちゃん、迷わへんかったか? 方向音痴やったの忘れとったわ」
「まさか一日、戦い続けるとは思ってなかった。疲れただろう。キャンプで休もう」
ハクトとケーゴに促されて、大きなテントが張られているキャンプ地に到着した。
そこには、シゲンとアパッチが料理をしている姿があった。
「シゲンさん、アパッチさん。こんばんは」
「おう。邪魔してるぜ」
「姉さん、こんばんわです」
二人が作っている料理の匂いがとても香ばしく、食欲をそそられるものであった。
「お二人は料理得意なんですね」
「まあな。キャンプでまずい飯食いたくないからな。なぁ、アパッチ?」
「です。せっかくだから姉さんのために、ヴェア族秘伝のスパイスを使いますよ」
料理の匂いがさらに香しいものへと変わった。正直、お腹が鳴ってしまいそうだった。
各々が座ると料理が並べられる。いただきます、と言って食事を始めた。
夜空の下で食べる食事の美味しさに酔いしれ、今日あった出来事を思い出した。
再び出会えた、カゲツ、トーカ、ハルアキ。普段では体験できない大規模戦闘。
このゲームで何度心を踊らされたことであろう。
このような思いがあと何度あるのだろうか。楽しみでならない。
談笑は夜中まで続いた。
◇
テントで一夜を明かしたティアは起き上がると、ドッと疲れに襲われた。
昨日、頑張りすぎたせいだろう。一日中、戦っていたらこうもなるのだ。
テントから外に出ると、ハクトとケーゴが朝食の準備をしていた。
「ハクトさん、ケーゴさん、おはようございます」
「ティアちゃん、おはよう。早速やけど、今日は観戦にせぇへんか? 昨日、一日中戦い続けて疲れたやろ」
「実はちょっと疲れてるので助かります。観戦って何を見るんですか?」
「スノーフレークとその傘下ギルドの戦いや。ワイらが経験した乱戦とはまた違うものが見れるで?」
「そうなんですか? 見てみたいです」
ティアが賛同すると、ハクトも頷いた。
「滅多に見れるものではないからな。楽しみにしていると良い」
「はい。ありがとうございます」
アンネマリーが率いるスノーフレーク。傘下のギルドを含めると千名を超える規模と聞いている。
どのような戦いが見れるのか楽しみであった。




