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 悪鬼王デストーンの襲来を告げる通知が来たのは、ハクト達と会話をした数日後であった。

『全冒険者、集え』という通知文から、余程大きなイベンドなのだろう。

 ハクト達と一緒に向かったのは、森の都ヘリオットから数日以上掛かる、長い城壁。


 イライジャの北壁と呼ばれる、そこに到着し、まず目を疑ったのは、人、人、人。人で埋め尽くされたイライジャの北壁には、様々な露店も出ていた。

 さながらお祭りといった感じがする。イベントでここまでの規模のものはなかった。大規模イベントを前に緊張していると、見知った人が近づいてきた。


 シゲンであった。


「よう、お前さんたちも来たんだな」


「シゲンさんもイベントに参加されるんですか?」


「いや、俺は参加しねぇよ。ポーターギルドとしての仕事できたのさ」


「ギルドのお仕事ですか?」


 いまいちピンと来なかったティアにシゲンが返す。


「悪鬼王の襲来はかなり効率のいいイベントってのは知ってるよな?」


「はい。経験値やゴールド、レアアイテムも手に入ると聞きました」


「そうだ。だから、レベル上げなんかにはピッタリなんだが、敵も弱くはねぇ。オマケにここにはワープポイントになる神殿もねぇ。となると手持ちのアイテムだけじゃ回復なんかが追いつかねぇ感じになるんだよ」


「なるほど。シゲンさん達にアイテムを運んでもらって、在庫を確保するってことですね」


「ご名答」


 どれくらいの規模のものかは分かっていなかったから、驚きしかない。

 何となく来たが良かったのだろうか。


「ハクトさん、持ってきたアイテムで足りるでしょうか?」


「まあ、全日出るつもりもないし、イベントを味わって貰いたかっただけだからな。割高だか回復アイテムも売ってるし、長丁場になっても大丈夫だがどうする?」


「うーん、できれば経験値が欲しいところですけど」


「ぼちぼちの参加で構わない。ここにはガチ勢も大勢いるからな。適当なところで撤退しても良いんだ。あまり気負うな」


「分かりました。じゃあ、ぼちぼち頑張ります」


 せっかくの大規模イベントなら参加しておきたい。ティアはガチ勢のつもりはないが、できるならしっかりやりたい。

 参加の意志を固めていると、少し離れた場所に見覚えのある人がいた。

 こちらの視線に気づいたのか、目が合うと爽やかな笑顔を見せ近づいてきた。


「ティアさん、お久しぶりです」


 モンドであった。


「モンドさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」


「おかげさまで。ティアさんもご健勝のようで何よりです」


 相変わらず礼儀正しい。好印象の人だなぁと思っていると、私達に近づいてくる影があった。

 ギルド、スノーフレークのマスターである、アンネマリーだ。

 ティアの顔を見ると、パッと笑みを見せた。


「ティア。久しぶりだな」


「お久しぶりです。アンネマリーさん。スノーフレークも参加されるんですね」


「このイベントは我々の力を結集させるいい機会なのだ。傘下にあるギルドも集まっての大イベントになる。壮観になるだろう」


 そういえば、スノーフレークを頂点にして様々なギルドを傘下に従えていると聞いていた。

 総数で千名を超えるとの事だったので、それがまとまって動くのは想像するだけで心が踊る。


「アンネマリーさん達の活躍、すごく楽しみです。私も負けないように頑張ります」


「ああ、お互いに頑張ろう」


 アンネマリーはそういうと、モンドを連れて去っていった。

 これ程の大規模イベントは初めてだ。緊張してきた。

 イライジャの北壁の城門が開かれると、ぞろぞろと冒険者達が北壁の外側へと向かっていった。


 その波に乗るようにティア達も城門をくぐった。そこには圧巻の光景が広がっていた。

 ずらりと並ぶ冒険者達。何万人いるのか分からないくらいの人が並んでいる。

 これから何が起こるのか全く想像できない。キョロキョロしていると、城壁の上からピンク色の煙が上がったのが見えた。


「始まるでティアちゃん」


 ケーゴが言うと、角笛の音が高々と鳴った。平原の先から黒い何かが迫ってきているように見える。

 まさかあれが。


「あれが悪鬼王の軍団ですか?」


「せや。こっからはごちゃごちゃになる。離れ離れになると思うから、今のうちに集結ポイントを決めとこか」


 そういうと、マップにピンを立ててくれた。


「戦いに疲れたら、そこに戻ろう。日が暮れれば戦いは一旦休止されるから、最後まで見ていたい場合はそれでも構わない」


「分かりました。いっぱい倒して経験値をゲットしますね」


「その意気だ」


 平原の先から向かってくる大軍の姿がハッキリ見えるようになると、冒険者達が声を上げて突撃を開始した。

 その勢いに飲まれたティアはハクトとケーゴと離れ離れになってしまった。全員が前に進むなら、私も。

 ティアはそう考え、流れに置いて行かれないよう駆け出した。


 前線でぶつかり合いが始まったのか、剣戟の音や魔法の爆音が鳴り響いた。

 あの中に自分も飛び込むのか。一つ呼吸をして、神経を集中させ、ファントムソードを顕現させる。

 冒険者とモンスターのぶつかり合いでできた隙間から姿を見せたモンスターに、ファントムソードを放つ。


 ファントムソードに貫かれたモンスターはティアに向け、突進を仕掛けた。

 モンスターのレベルは低いわけではないということだ。迎え撃とうと細剣を構えたところで、接近するモンスターを別の冒険者が殴りつけた。

 強烈な一撃にモンスターは崩れ落ちて消滅した。


「あ、ありがとうございます」


 ティアは横から現れた冒険者に礼を言った。


「どういたしましてだ。ここでの戦いは初めてか?」


「はい。とりあえず、モンスターを倒した方が良いんですよね?」


「もちろんだ。だが、タンク、アタッカー、ヒーラーの概念は通常のダンジョンと同じだ。タンクがヘイトを取っているのを見て、アタッカーは攻撃を仕掛ける。ちゃんと見て戦えば怖くないぜ」 


「分かりました。ありがとうございます」


 ティアの礼を受けた冒険者は、次の戦いの場へと駆けだした。

 基本は変わらない。なら、装備している武器からジョブを想定して戦うしかない。

 ティアは敵と対峙している大小の盾を持つ、シールドガードが敵のヘイトを取っているのを確認すると、ファントムソードを向けて攻撃を行った。


 続けて細剣でモンスターを切り刻んで倒す。


「サンキューな。助かったぜ」


「こちらこそです。頑張りましょうね」


 声の掛け合いをして、ティアは次の敵を探しに行った。

 まさに乱戦。誰が誰と戦っているのかをきちんと見極めないと、無駄にヘイトを買ってしまうかもしれない。

 無秩序に見えて、必要最低限の戦いのルールが残っている。それを忘れないようにしなければ。


 そうして、ヘイト管理をしている者を見分け、モンスターを狩っていく。

 普通のダンジョンでは味わえない戦いに少し興奮を覚えていると、ティア達の上空を通り過ぎる影が見えた。

 その姿かたちからドラゴン族のモンスターであることが分かった。


 ドラゴンはティア達の上空を旋回すると、そのくちばしのように伸びた口から炎が漏れているのが見えた。

 炎のブレスが来る。空を飛ぶ相手への攻撃は限られている。それが分かっているティアは、素早くファントムソードを一列に並べて、シューティングスターを放った。

 ドラゴンに突き刺さったファントムソードだが、勢いを止めるほどではなかった。


 ドラゴンの口に凝縮された炎が一気に吐き出された。

 炎に焼かれると思った。そのとき、ティア達の前に透明の薄い膜のようなものが広がっていた。


「これって?」


 そう思っていると、冒険者達の中から一つの影が宙に上がった。


「ダイブ!」


 ドラゴンの頭部を槍が貫いた。強烈な一撃で地面へと落下していったドラゴンを追撃するように、大きな剣を背負った男が力任せに竜の首に大剣を叩きつけた。

 首が刎ねられたドラゴンは沈黙した。わっ、と歓声が上がった。その歓声の中心を見たとき、ティアは声を上げた。


「トーカ? ハルアキ?」


 その声に気づいた二人がティアを見ると、軽く手を振った。

 近づこうとしたティアの肩がトントンと叩かれた。

 振り返ると、そこにはカゲツがいた。

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