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終わった。全てが終わった。
私を苦しめ続けていたことが遂に終幕を迎えた。
紗友里は学校内にあるベンチでぐったりと背もたれにもたれかかっていた。
「おーい、紗友里! どうだった?」
離れた場所から手を振る美羽を見て、親指を立てて見せた。
「やったじゃん。無事に乗り切れて偉い偉い。頑張ったねぇ、紗友里」
「うぇーん、頑張ったよー! これで単位落としてたらどうしよう?」
「大丈夫だって。あんたの頑張りは私が見ていたんだから。テストも終わったことだし。ユニティに専念できるんじゃない?」
美羽の言うとおり、ここ最近はログインせずに勉強を頑張っていた。
その反動で、今、ここにいる時点でやりたくてうずうずしている。
「美羽はいつユニティやれそう?」
「うーん。まあ、早くても八月の終わりかな」
「もうちょい先だね。早く美羽とも遊びたいよ」
「はいはい。でも、私が入ったら、ハクトさんとケーゴさん、取られちゃうかもよ?」
意地の悪い笑みを浮かべた美羽が言った。二人は優しいから、もしかしたら、そういう事態になるかもしれない。
でも、それは寂しい。せっかく今まで一緒にやってきたのだ。これからも続けたい。
「美羽のキャリーは私がするから大丈夫です!」
「おっ、強気に出たね。今、レベルはいくつ?」
「48だから、もうボチボチシーズン1のストーリーが終わるよ」
ユニティは現在、シーズン3までアップデートさらており、年明けにシーズン4が配信される予定だ。
メインストーリーも順調に進んでいるので、美羽が始めてもしばらくはキャリーができるし、同じところまで行けば、今度はストーリーの楽しさを分かち合える。
今からの楽しみに胸を踊らせていた。
「じゃあ、私はバイトあるから、先に帰るね」
「うん!美羽が来るのを楽しみに待ってるよ」
二人は別れを告げると、それぞれの帰路についた。
◇
ユニティにログインした。
ティアはギルドハウスに行くと、ハクトとケーゴ、カーミラがいた。
ティアは挨拶をすると、カウンター席に座る。
三人にテストが終わったことと、友達がユニティを始められそうと伝えると、三人とも笑顔を見せてくれた。
「ティアちゃんもぼちぼちシーズン1も終わるからな。ちょうどええタイミングかもしれへんな」
「ああ、四人になるなら色々なコンテンツにも行きやすくなるしな」
確かにダンジョンなどは四人パーティーで組むことになるし、色々なイベントも四人パーティーで行くことが多かった。
それなら、私とハクトとケーゴに美羽を加えての四人でプレイできる。
「良かったです。皆でまだ楽しめるのが嬉しいです」
「せやな。ティアちゃんの友達が良ければギルドにも入って欲しいもんやけどな。そうなると、ここも狭くなってしまうなぁ」
ケーゴの言う通り、小さなバーがモチーフのギルドハウスなので、全員が揃うと少し窮屈になってしまう。
「ギルドハウスをどこかに作るのもありだろうな。ただ、ギルマスの許可を得てだが」
ハクトが言って思い出した。スプーキーのギルドマスターって誰なんだろう。
「あの、ギルマスさんって、ログインされてるんですか?」
今まで一度も顔を合わせていない。もしかしたら、隠居しているのかもと思った。
ティアの言葉にカーミラがため息をついた。
「してるわよ。極たまーに顔を見せるし。なんか今は別件で忙しいって言ってたわ」
「じゃあ、ギルマスさんとお話ししてからが良いですね」
「そうね。ダメとは言わないだろうけど、一応はね」
カーミラがくすりと笑うと、ハクトとケーゴも小さく笑った。
何か面白いことを言っただろうか。少し困惑しているとハクトが言った。
「うちのギルマスは結構ふざけててな。良い人だし、器も広いが、どこか抜けた感じで面白いんだ」
「そうなんですね。早くお会いしたいです」
ギルマスがどんな人なのかを想像していると、ケーゴが、あっ、と言葉を発した。
「ぼちぼち悪鬼王の襲来の時期やないか?」
「もうそんな時期か」
二人の会話についていけないティアは悪鬼王なる存在について確認する。
「あの、悪鬼王ってなんですか?」
「ああ、ティアが知らないのも無理ないな。悪鬼王デストーンというやつがいてな、モンスターの王様みたいなもんだ。大量の部下を引き連れて、襲いかかってくるんだ」
「え? 大丈夫なんですか? それ」
「そこに俺達冒険者が立ち向かうのさ。経験値も多く貰えるし、ゴールドや、レアアイテムも手に入るぞ」
「そういうイベントなんですね。私、行ってみたいです」
「大勢の冒険者が集うビッグイベントだからな。皆で行こう」
ハクトの提案にティアは頷くと、どんなイベントなのか思いを馳せた。
サバイバルゲームで手に入れたアバターの取引金額はとんでもないものだったので、ゴールドについてはしばらく問題は無い。
欲しいのは経験値の方だ。早くレベルを上げてストーリーを進めたい。
美羽がユニティにやってくる前にできるだけのことをしておこう。
そう決めたティアであった。




