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「あ、ありがとうございます」


 レディに何と返せば良いのか分からなかったティアはお礼だけを伝えた。

 男はそれに満足そうに頷いた。


「さて、ここにいるのも危険だから、上に行かないかい?」


 ビルに迫って来ているゾンビ達もいるので、ここは先に行くべきだろう。

 ティアはモカとミフユの目を見て意思を確認すると、男に向けて頷いた。


「OK。じゃあ行こうか」


 男に連れられてエレベーターホールに来たが、そこをそのまま抜けて、更に奥に走った。


「あの、エレベーターは使わないんですか?」


 ティアが男に問うと、男は「ノンノン」と言った。


「エレベーターはランダムでゾンビが大量に入っているのさ。登れる階数もランダムで決められているから、乗るのはリスクがある」


 そう話していると、非常口のランプが見えた。そこを開けると男は俊敏な速さで階段を登っていく。

 追いかけるだけで精一杯のティア達が男を見ると、非常階段にも配置されているゾンビを蹴散らしがなら上へと登っていっていた。

 一体何者なのだろう。


 そう思いつつ必死に階段を登っていると階段の1番上まで到達した。

 あとはこの扉を開けて、タワーの頂上を目指すだけ。そう思っていたが、男は険しい表情を見せた。


「ここのドアを開けたら、ボスがいる。俺一人では相手にするのは難しい。レディ達に助けを乞うのも気が引けるけど、助けてくれるかい?」


 圧倒的な強さを見せた男が言うほどの相手。正直言って、怖い気持ちが強い。

 でも、ここまで助けられっぱなしだったのだ。少しでも力になれるなら。

 ティアは頷いた。


「頑張ります!」


「OK! じゃあ、行くよ」


 バンッとドアを開けると、そこには大型のゾンビと複数のゾンビが待ち構えていた。

 男が先陣を切ってゾンビ達を着実に減らしていると、大型ゾンビが胸を大きく膨らませた。


「避けろ!」


 男の声を聞いて、ティア達は慌てて壁の端に体を当てた。

 次の瞬間、ティア達のいた所に大型ゾンビが火を放った。今までにないゾンビの攻撃方法だ。

 炎を放ったことによりできた隙をついて、男は水鉄砲を放つが鎮火させるには至らなかった。


 絶え間なく動き続ける男が鬱陶しいのか、大型ゾンビは置かれている椅子やテーブルを投げて、男の動きを止めようとする。

 だが、男はそれを紙一重で避けると水鉄砲を連射する。

 それでも、大型ゾンビには効果が薄いのか、攻撃を続けている。


 何かないか。あの戦いの中に入るのは難しいにしても大型ゾンビの動きを止める方法は。

 辺りを見回したティアの視線がある一点に止まった。

 消化器が設置されている。これなら大型ゾンビにも効果があるに違いない。


 消化器を手に取り安全ピンを抜いて、暴れる大型ゾンビに向けて消火剤を噴射した。

 これが効果的だったのか、大型ゾンビが苦しみ出した。


「今だ、レディ達!」


 ミフユとモカが水鉄砲を撃つ。じわじわと大型ゾンビの炎が小さくなっていく。

 よし、このままなら倒せる。そう思った矢先に、大型ゾンビから盛大な火の手が上がった。

 まさか、第二形態もあるの。


 消化器から噴射していた消火剤も消え、発射している水鉄砲ではあの業火の前では焼け石に水だ。

 大型ゾンビはドシンっと足音を立てながらゆっくり近づいてくる。

 勝てない。目をつぶりかけた、そのとき男がこちらに向かってかけてきているのが見えた。


「時間を稼いでくれて助かったよ、レディ達。あとはこいつで」


 男の手にはホースが握られていた。見れば消火栓と繋がっている。

 男の持つホースから勢いよく水が噴射された。かなりの水量に大型ゾンビの炎がみるみる小さくなっていく。

 ティア達も加勢にと水鉄砲を乱射していると、ついに大型ゾンビが地面に倒れ込んだ。


「やった……?」


 ティアの口からこぼれた言葉に、男が反応する。


「バッチリさ。俺達の勝ちだ」


 男が親指を立てると、ティア達はワッと歓声を上げた。

 喜んでいると、男が奥にある扉を開けて、ティア達に先に行くように促した。


「え? 良いんですか?」


「もちろんさ。君達がいなければ俺も勝てなかったからね」


「あの、じゃあ、行かせていただきます」


 ティアを先頭にミフユとモカも扉の先へと向かった。

 そこはヘリポートになっており、ゾンビはもういなかった。ヘリポートの中央に向かうと、大きな声が響いた。


「コングラチュレーション! サバイバルゲームを制したのは、ティア、ミフユ、モカの三人だー!」


 実況者の声を聞いて、ヘリポートに繋がる扉を見ると男が手を振って去っていく姿があった。

 私達に勝ちを譲ってくれた。何を考えてなのかは分からないが、ティアはどうしても伝えたいことがあった。


「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


 その声を背中に聞いた男は、手をヒラヒラと振って、その場を去っていった。



 サバイバルゲームの勝者を称える声を背中に聴きながら非常階段のドアを開けると、階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。

 ヨハンはそこで立ち止まると登ってきた三人の男女に気楽に声をかけた。


「残念、もうクリアされてるよ」


 ヨハンが言うと、一人の男が食ってかかる。


「お前、またか!? また女の子を助けに行ったのか!?」


「ああ。ピンチに駆けつける男ってカッコよくない?」


「アバター取られてるじゃないか!」


「俺って求めるより求められたいタイプだからさ」


「ああ、もう! 何言ってるか分かんねぇ」


 憤る男を見てヨハンは笑った。

 あの子は面白そうだったな。

 ヨハンはそう思いながら、階段を降りていった。



 サバイバルゲームの勝者になったティア達は賞品のアバターをもらい、サバイバルゲームは幕を下ろした。

 お疲れ会ということで、スプーキーのギルドハウスに集まった面々で今日の成果を話していた。


「まさか、ティアちゃん達が優勝するとは思わんかったで。頑張ったんやな」


「いえ、それは私達の力じゃなくて、男の人が加勢してくれただけで。あれ、名前聞いてなかったなぁ」


「物好きもいたもんやな。でも、最後まで頑張れたのもティアちゃん達の頑張りがあってこそや。今日はたのしんでいこうか」


 皆で食べ物を持ち寄り、お疲れ会で賑やかな夜を過ごした。

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