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 夏のはじまりを感じさせる眩い日光を避けるため、紗友里と美羽はカフェの奥の席に座っていた。

 もうすぐテストが始まる前に勉強をする、という真面目な美羽の誘い、というか命令に従ってここに来ている。

 勉強しながらも考えてしまうのは、ゲームのことである。それを察したのか、美羽がため息をついた。


「紗友里? もっと勉強に集中しなよ。ゲームが楽しいのは分かるけど、今の私達に必要なのは単位なの? 分かる?」


 ごもっともです。という気持ちになり、しゅんとする紗友里。


「夏休みになればいっぱいゲームできるんだから、それまで勉強頑張ろ? 私も夏休みにバイト頑張ってゲーム買えるようにするからさ」


「ほんと!? 買える予定たったの?」


「お父さんが半分出してくれるって。その代わり勉強も頑張れってさ」


「それなら、私も頑張らなきゃ。美羽はどんな感じにキャラクリするのか楽しみだよー」


「はいはい。なんにせよ、勉強が先でしょ?」


「はーい」


 勉強を再開した二人は一時間ほどたつと少し休憩に入った。

 紗友里が話すユニティ・オンラインの話を興味深そうに美羽は聞いていた。

 リアルの友達と遊ぶのも楽しそうだなぁ、と今から想像が止まらない。


 自分が楽しんだことを、美羽にも体験して欲しい。そうして同じ気持ちを分かち合いたい。

 その気持ちを抱きつつ、勉強が再開された。



 夕方に家に帰ると、リビングで兄がくつろいでいる姿があった。

 普段は仕事をしているので、休日に話すくらいだが、ユニティ・オンラインについてはあまり話していない。

 というか、話しても、返ってくる言葉が、へぇー、だの、ほーん、だの気のない返事のため話すのが馬鹿らしくなったのだ。


 確かに、ユニティ・オンラインを兄がやり始めたのがサービス開始時からなので、もう四年くらいやっている。

 だから、紗友里の話す事が目新しく感じないのだろう。そのせいで生返事になるのも分かる気がする。


「ただいまー。お兄ちゃん、今、休憩中?」


「おーう、お帰り。そう、休憩中。お前、勉強してきたんだろ? 学生の本分だからな、頑張れよ」


「分かってるよ〜。お兄ちゃんは頭も良いし、勉強あんまりしてなかったよね? 羨ましいなぁ」


「馬鹿か。俺も苦労してたよ。苦労してるからゲームが楽しいんだろ」


 確かに、その通りだ。頑張ったご褒美と考えれば、もっと勉強に打ち込めるかもしれない。


「だよね。もうちょっと勉強頑張るよ」


「おう。しっかりやれよ」


 自室に入った紗友里はゲームのヘッドギアの誘惑を受けながら勉強を始めた。

 勉強、勉強、勉強。

 念仏のように唱えながら勉強をしたが一時間足らずで、紗友里はユニティの世界に飛び込んでしまった。



 ギルド『スプーキー』のギルドハウスに来たティアを出迎えてくれたのはモカであった。


「モカちゃん、お疲れ様」


「ティアさん、お疲れ様です。少し疲れてないですか?」


「分かる? 今日、勉強漬けだったからさぁ。疲れちゃったよ」


 モカの座るカウンター席の横に座ると、カウンターに突っ伏した。


「学生には避けて通れませんよね。私も勉強はするようにしてます」


「モカちゃんも真面目そうだから大丈夫そう。私は勉強苦手なんだよね」


「そうでしょうか? ゲームのことならしっかり覚えられてますから、勉強が苦手では無いと思いますよ?」


「ゲームは楽しいから覚えちゃうんだよね。勉強が楽しくなる魔法をかけて欲しいよ」


 他愛のない話をしていると、ドアベルがカランと鳴った。

 入ってきたのはケーゴであった。


「ティアちゃん、モカちゃん、お疲れさん。ハクトはまだみたいやな」


 ケーゴはギルドハウス内を眺めると、ティアの席の横に座った。

 ケーゴは勉強が好きなのだろうか。聞いてみたくなったので、今日の勉強漬けだったことを伝えた。


「ティアちゃんも勉強苦手なんやな。わいも苦手やから教えてやれることはないわ」


 カラカラとケーゴが笑った。何となくそんな気がしていたことは言えない。


「ハクトさんはどうなんでしょうか?」


「あいつは真面目くんやからな。勉強はしとると思うで」


「え? ハクトさんとケーゴさんって、リアルでも友達なんじゃないんですか?」


「せやで。今は時々おうとるけど、ネットの付き合いから始まったんや」


 そうだったのか。あまり二人の過去については聞いたことがなかったので、新鮮であった。

 ケーゴが席を立ってカウンターの内側に入ると、ドリンクをティアとモカの前に差し出した。


「最初はクソ真面目で面倒なヤツやと思おとったんやけどな。付き合って行くうちにええ所があった感じでな。やから、今でも続いとるんや」


「そうなんですね。私ももっと人と出会って、仲良くなって行きたいです」


「せやな。それがゲームの醍醐味かもしれへんな」


 三人でしばらく談笑していると、今度はハクトがギルドハウス内に入ってきた。


「お、クソ真面目のご到着や」


「おい、いきなりなんだ、その言い草は。ティア、モカ、お疲れ様」


 カウンター席に座ったハクトに、ティアが先程まで話していたことを伝えた。

 それを聞いてハクトが呆れるようにため息をついた。


「クソは余計だが、真面目なのは確かだ。どこかの女たらしと違ってな」


「おまっ! あれは全部不可抗力やて。わいも好きであんなことになった訳やないで」


「どうだかな? 二人とも気をつけろよ」


 言われたティアとモカはくすくすと笑った。


「皆といると楽しいです。勉強の疲れが癒される気がします」


「たまには息抜きも大切だ。そういえば、今度のイベントは息抜きにはちょうど良いぞ」


「どんなイベントなんですか?」


「夏恒例の水着イベントと、灼熱ゾンビとのサバイバルゲームだ」


「水着は分かりますけど、灼熱ゾンビって?」


 サバイバルゲームといえば、エアガンで敵を撃つものという認識しかない。


「燃えるゾンビに水鉄砲で水を当てて火を消すんだ。普段の戦いとはまた違った感じで楽しいぞ」


「へぇー! 面白そうですね。楽しみになってきました」


「プラネテスのメンバーも誘うと良い。皆でやるともっと楽しいからな」


「はい! じゃあ、早速、連絡してみますね」


 新しいイベントに心躍らせながら、ミフユに連絡を入れた。

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