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 自由都市候補の土地に先に到着したティア達は、エルフとドワーフ達に二手に分かれて情報収集をしようということになった。


 エルフにはティアとミフユがあたり、ドワーフはハクトとケーゴ、コテツの三人で行った。

 森に足を踏み入れて少し経ったとき、止まれ、という声が聞こえた。

 声の方へ目を向けると、女性のエルフが弓に矢をつがえた状態でこちらを見ていた。


「何者だ?」


「怪しい者ではないです。私達、冒険者なんですけど?」


「冒険者?」


 女性の視線がティアとミフユの首のチョーカーへと向いた。

 女性のエルフは、ふむ、というと。つがえた矢を緩めた。


「冒険者が何用か? 薬でも買いに来たのか?」


「いえ、お話したいことがありまして。もしよければ、お時間いただけないでしょうか?」


「敵意はないようだな。よし、我々の集落に案内しよう」


女性のエルフの後を付いていっていると、首だけを後ろに向けてきた。


「私の名前はマリール。君たちは?」


「私はティアです。よろしくお願いします」


「私はミフユだよ。よろしくね」


 自己紹介を交わしていると、森の中にツリーハウスがいくつも作られている場所が見えた。

 ここがエルフの住む場所なのだろうか。そう思っていると、鼻に少し甘い香りが流れてきたのを感じた。


「なんかいい匂いしない?」


 ティアの問いかけに、ミフユは深呼吸をした。


「ほんとだ。すごい、優しい香り。なんだろうね」


「それは我々エルフが使っている、香水の匂いだな。私達は匂いに敏感なところがあってな。こうしていろいろな香水を調合している」


「へぇー。すごくいい匂いだと思うよ。買って帰ろうかな」


「冒険者なら喜んでだ」


 会話を交わしていると、一つのツリーハウスの中に通された。

 そこでマリールと他に三名のエルフが集まる。それぞれと自己紹介をしていると、物腰柔らかに返しの言葉をもらった。

 何故、こんなに優しい人達とドワーフが上手くいかないんだろう。


 きっと根深い何かがあるに違いない。


「あの、すごく言いづらいことだったら、申し訳ありません。どうしてエルフの皆さんは、ドワーフと仲が良くないんですか?」


 恐る恐る聞いたティアの言葉にエルフ達の間にピリッとした空気が流れた。

 これは思った以上に重い話が出てくるに違いない。

 エルフ達は互いを見あって、マリールが頷いた。


「ドワーフを嫌う理由だが……。臭いんだ」


「えっ?」


「あいつ等の体臭が我慢できないんだ」



 エルフとの会談を終えたティアとミフユはストーンサークルの中に作ったキャンプ地に戻ってきた。


 同じ頃、千鳥足のコテツとケーゴ、渋い表情のハクトが戻ってきた。


「ハクトさん、そちらはどうでした?」


「ああ。冒険者と言ったら、歓待を受けてな。それで二人はこれだ」


 ハクトが指さした先に、地面に寝転がるケーゴとコテツがいた。


「なんとなく想像できますが……。ドワーフがエルフを嫌う理由ってわかりました?」


「ああ。それがなんというか……。エルフ達の匂いがダメらしいだ」


「えっ!? 私達の方もそうでした。エルフの方々は、ドワーフの体臭がダメだって」


「体臭か。確かに汗臭かったし、むわっとした空気だったな」


 眉間にしわを寄せるハクトを見れば、それだけの臭いを感じたことが分かった。

 エルフ達は甘い香りの漂う香水をつけている。まさか交わらない点が、匂いだったとは。


「解決方法はお互いが匂いを感じなければ良いわけだが。生理的に無理と言った感じだからな」


「匂いですもんね。ドワーフの方々に香水をつけてもらったら、どうでしょうか?」


「それが一つの手だろうな。幸い、友好的だったから話は聞いてくれるだろう」


 ミフユの作る料理を食べながら、簡単に解決するものなのか悩む。


「ティア、眉間にしわが寄っているよ?」


「ミフユはドワーフが香水つけてくれると思う?」


「んー。言ってみないことには分からないけど、そんなに簡単ならもうつけているような」


「だよねぇ」


 野原に寝転んだティアは思う。匂いが我慢できないことが本当の理由なのだろうか。

 他に何かあるのでは。ティアは悩みながら次の日を迎えた。

 


 ティアはミフユとハクトと共にドワーフの住む、山の麓に向かった。


 二日酔いになっているケーゴとコテツは置いてきた。

 あれからずっと考えているが、生理的に無理なことをなんとかするのは難しいのではないか。

 どちらかが譲れば、解決するかもしれないが、それで本当に良いのか。


 悩んでいるとドワーフの街へと着いた。

 そして街中に入って分かった。これはエルフの里と真逆だ。

 砂っぽい空気に、すれ違う人の汗臭い体臭。これはエルフにはきついかもしれない。


「ハクトさん、エルフが嫌うのもなんか分かった気がします」


「そうか……。鉱山で働いているものも多いから、水で体を洗うこともあるのだが」


 ハクトが指さしたところには井戸があり、ドワーフの一人がそこから桶に水を張る。

 すると、その桶を持ち上げて、頭からかぶった。それを終えると、意気揚々といった感じで井戸を離れていった。


「あれだ。汗を流せれば良いみたいな考え方のようだ」


「あれじゃあ、臭いは取れませんよね」


「だな。とりあえず、族長に話をしに行こう」


 ハクトに連れられてドワーフ族の長の住む屋敷へと向かった。

 昨日の飲み会が効いているのか、快く向かい入れられた。


「昨日はありがとうございました」


 頭を下げたハクトを見て、ドワーフの族長はカカと笑った。


「気のいい奴らは好きじゃ。それで、今日は何の用じゃ?」


「エルフのことで聞きたいのですが、何故、ドワーフはエルフのことを嫌うのですか?」


「ふむ。簡単な話じゃよ。あやつらの甘い匂い。あれが鼻にこびりつく様に甘いのがいかん」


 お互いの匂いに嫌悪感を抱いているということだ。

 では、どうしたらエルフと仲良くできるのか。せめて自由都市の中だけでも上手くやっていく方法はないだろうか。


「あの、エルフが好む香水をつけるっていうのはダメでしょうか?」


 ティアが族長に頼むが、族長は首を横に振った。


「多くの者達があの甘い匂いが苦手じゃ。自ら望んでつけるものはおらんじゃろうな」


「そうですか……」


 そこから少し族長と話をして、ティア達は帰路についた。

 ティアは悩みながら歩いていると、後ろからミフユが声を掛けた。


「匂いって、人それぞれ好みがあるから、難しい話だね」


「うーん、そうなんだよね。ミフユは香水とか詳しい?」


「少しはね。だけど、皆が好きな匂いって言われると思いつくやつはないかな」


 ミフユの言うとおりだ。好き嫌いは人によって違う。

 それが種族全体で嫌っているとなると、すべての種族にとっていい匂いでないとだめだ。

 いい匂い。ティアの頭の中で、少し気になる言葉が過った。


「ねぇ、ミフユ。なんとかなるかも」


「え? ほんと?」


「うん。匂いがダメなら、消臭だよ」


 ティアの言葉にミフユは顔を明るくした。


「確かに。匂いがなくなればいいもんね」


「そうそう。あとはどうやって匂いを消すかだけど……」


「匂いを消すだけならなんとかなるかも。キャンプに戻ったら、作戦会議しよう」


「ありがとうミフユ。自由都市、絶対に作り上げようね」

 

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