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ダークハウンドのメンバーの攻撃が始まると、ハクト達がティアの傍に駆け寄ってきた。
「ティアちゃん、少し離れよか? ここはあいつらに任せとこうや」
ケーゴが言うとティアは心配するように、ギガントワームと戦う者たちに目を向けた。
「ありがとうございます。でも、ケーゴさん達は加勢に行った方が……」
「まあ、そうしたい気もあるんやけどな。あっちにはあっちの事情があるみたいやし。なぁ?」
そういったケーゴの視線がカイへと向いた。
「あんたとワイらで、ティアちゃん達を護衛する。それでええんやろ」
「そうしてもらえると助かる。それと、先ほどは助かった。ありがとう」
「気にせんでええで。礼なら、あのマスターからもらいたいところやけどな」
ニッと笑みを浮かべたケーゴを見て、カイが曖昧な笑みを浮かべた。
その笑顔の意味がティアには分からなかったが、ケーゴが歩き始めたので、それについていくことにした。
視線の先にはコテツとミフユが手を振り近づいてきていた。その後ろにテトラがいる。
「ティア、無事でよかったよ。急に飛び出すんだから」
「無茶をするわい。で、そちらの者たちは?」
胸を撫でおろしたミフユとコテツが言った。
コテツの問いかけにティアはケーゴとハクト、モカのことを簡単に紹介した。
「なんと。お主たちがティアのギルメンか。今回の件といい、助太刀感謝する」
「ええて、ええて。ティアちゃんの頼みやしな」
二人が言葉を交わしているところに、ハクトが割り込む。
「話なら、この戦いが終わってからにしよう。今は、ギガントワームだ」
「せやな。注意して見るとしよか」
全員の視線が死闘を繰り広げる、ダークハウンドのメンバーとギガントワームに向いた。
◇
クロウの二刀流がギガントワームの脇腹を切り裂いた。
絶叫するギガントワームに、他の者たちの攻撃が続いた。そろそろ終いになるだろう。
ギガントワームの消耗具合を確認していると、ギガントワームの体が膨張した。
口を向けたのは、カイ達のいる方向だ。
あちらには、カイだけでなく金狼と銀狼がいる。攻撃が向かっても対処できるだろう。
こちらに攻撃が来ないなら、一気に攻めかかる。
「全員、攻め時だ!」
クロウは指示を出すと、両手に握った刀を大きく振り上げた。
「黒獅子!」
二刀から繰り出された連撃がギガントワームの体を切り刻んだ。
周りの者たちも大技を繰り出し、嵐のような攻撃を繰り出した。
その状態でもギガントワームはカイ達に向かって攻撃を放った。風の砲弾の前に、カイと金狼が立ちはだかる。
周囲の防御力を上げるスキルを使用した光が見えた。
地面に着弾した風の砲弾が発した暴風がカイ達に襲い掛かったが、大ダメージを負った者はいないようだ。
クロウは黒いオーラの消えた刀を鞘に納めると、背中に背負っている二本の刀を引き抜く。
再び刀を振るって切りつける。
「いい加減、落ちろ!」
飛び上がったクロウはギガントワームの頭部に刀を突き立て、力任せに振りぬいた。
ギガントワームが一際激しく叫ぶと、その巨体がずしんと音を立てて地面にだらりと倒れた。
身動き一つしなくなったギガントワームを見て、クロウは片手を高々と上げた。
「俺達の勝ちだ」
この言葉を待っていたかのように、メンバーが歓声を上げた。
幻獣ギガントワーム、討伐完了。
◇
ギガントワームが崩れ落ちて、ダークハウンドの者たちが歓声を上げたことで戦いが終わったことを知ったティアは、地面にへなへなと腰を下ろした。
「ティア、大丈夫?」
ミフユの言葉で、安心しきってしまった自分がいたことに気づいた。
「うん、大丈夫。すごいね。あんな大きな幻獣を倒したんだから」
「そうだね。本当にすごい戦いだった」
「だよね。あっ!」
ティアは重要なことを思い出すと、立ち上がってコテツに呼びかける。
「コテツさん、ギガントワームの中にいた皆さんは!?」
ギガントワームを見ると、体が塵のように散っていく姿があった。
あの中に納まっていなかったとすると、どこにいるのか。不安が過っているとハクトが驚きの声を上げた。
「アドネさん、本当か? ああ、分かった」
誰かと通信している様子のハクトが、ティアに視線を送って砂丘の先を指さした。
その顔には笑みが浮かんでいる。ティアはそれが何を示しているのか分かった。
砂丘を駆け上り、てっぺんまで到達すると、そこにはギガントワームの中で見た建物が並んでいた。
建物から人々がぞろぞろと姿を見せた。
皆、一様にまぶしそうに眼を細めている。そして、歓喜の声を上げた。
ティアの横をコテツが駆け抜けていく。走る先には、コテツが外に出すと約束した少女がいた。
コテツが笑みを浮かべて少女を抱きしめている。その頬に一筋の涙が流れていた。
◇
ティアとコテツが駆け出した背中を見ていたハクトとケーゴの傍に、クロウ達が近づいてきた。
「取り決め通り、宝は俺達がもらうぞ」
「なんや、礼に来たんかと思たわ」
「ふん……。カイが世話になった。そのことには礼を言う」
思わぬクロウの言葉に、ケーゴが毒気を抜かれたような表情を浮かべた。
「俺達こそ世話になったな。おかげでギルメンの願いを叶えることができた」
ハクトは言うとティアの背中に目を向けた。
視線を辿ったクロウが言う。
「あのファントムフェンサーがギルメンか?」
「ああ、そうだ」
「なかなかの機転だった。あいつにも礼を伝えておいてくれ」
「自分で言えば良いんじゃないか?」
「これ以上、慣れあうつもりはない。じゃあな」
そう言ったクロウはメンバーと共にテレポートで消えていた。
ハクトは肩をすくめると、ティアのもとへ駆けていった。
◇
コテツがギガントワームの中に閉じ込められていた人達と喜びを分かち合っているのを見ていると、ハクトがティアの横に並んだ。
「良かったな。上手くいって」
「ハクトさん。はい、ありがとうございます」
「助けたのは良いが、これからどうしたものかな」
「これから?」
ティアは助けた先のことを考えていなかったことに気づいた。
中にいた人達を助けたは良いが、この砂漠で暮らしていくのは難しいのではないか。
「ど、どうしましょう?」
「元はマハトリク王国の人々だからな。故郷に住めれば良いが、今は廃墟だ。さすがに生活を送るのは難しいだろう」
ハクトの言っていることは正しい。今のマハトリク王国はただの廃墟。人が住むには適した場所ではない。
「どこかの町に行くとか、どうでしょうか?」
「これだけの規模の人の衣食住を用意するのは難しいぞ? リンデンやヘリオットなどの大きな都市でも、受け入れてくれるかどうか……」
「そんな……」
今まで一緒になって暮らしてきた人達を離れ離れにすることには抵抗がある。
助けたから、あとは自分達で考えて、などと無責任なことも言えない。
どうしたら良いのか。考えを巡らせるティアは、一つの言葉を思い出した。
「ハクトさん! 受け入れが難しいなら、作れば良いんですよ!」
「ん? 何をだ?」
「自由都市! 冒険者の作る街です」




