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春先の暖かな日差しが差し込むカフェに、二人の女性がいた。
一人はセミロングの黒髪に大きな目と泣きホクロが特徴的な少女だ。
もう一人はボブヘアーで少し気怠そうな雰囲気の少女。どちらも可愛らしい顔立ちをしている。
「――てことがあったんだよ~」
そういったのはセミロングの少女だ。
「ふ~ん。でも、良かったじゃん。結局フレンドも増えたわけだしさぁ」
「そこも大事だけどさ。危うく死にかけたり、超デカいデビルを間近で見たり、初日から大変だったんだから」
「ま、一日にデビルを二回も見るなんて早々ないみたいだしね。良い経験だったんじゃない?」
「そりゃそうだけどさぁ~」
そういうとグレープフルーツジュースを少し飲んだ。
「事前情報なしでやってみて正解だったでしょ?」
ボブヘア―の子が、意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「うん。すごいテンション上がったよ。序盤も序盤だけどね」
「初見ってのが大事だからさぁ。あ、でも、ジョブとかは事前にやりたいやつを調べておいた方がいいかも」
「ジョブ?」
セミロングの少女は少し首を傾げた。
「うん」とボブヘア―の子は言う。
「『ユニティ』には今、確か20個くらいジョブがあるはずだから、どれやるか考えとかないと、いきなり選ぶのは大変だよぉ」
「ジョブかぁ。どんなのが良いかなぁ」
「紗友里は背が高いから攻撃ジョブとかやったらどう?」
「背は関係ないでしょ! 167センチって、そんなに高くないし」
セミロングの少女――紗友里はぷいっと顔をそむけた。
「145センチの私からしたら十分高いよぉ」
「美羽は小柄だから羨ましいよ……。ん~、ジョブねぇ」
「まあ、しっかり悩みなよ。なんなら、お兄さんに相談したら? お兄さんが『ユニティ』やってるから、始めたんでしょ?」
「そうだけどさぁ。教えてくれるかなぁ。お兄ちゃん、意地悪だし」
「可愛い妹だから意地悪してると思うけどねぇ。私、一人っ子だから羨ましいわ」
そういうと、美羽は紅茶を口に含んだ。
それにならって、紗友里もグレープフルーツジュースを飲む。
「ていうか、美羽も『ユニティ』やろうよ~」
「お金が貯まったらねぇ。あんたみたいに体力馬鹿じゃないから、そんなにバイトできないし」
「誰が体力馬鹿だ!」
◇
家に帰ってきた紗友里は兄の部屋のドアをノックした。
「お兄ちゃん、いる~?」
「いませ~ん」
声が聞こえたのでドアを開けた。
「いるじゃん」
紗友里はベッドに寝転がる青年に呆れたように言った。
青年は体を起こすと、ダルそうに返す。
「ん~? なんか言った?」
「もう……。ねぇ、お兄ちゃん、『ユニティ』のことについて教えて欲しいんだけど?」
「いやだ」
「はやっ! 少しは考えてくれても良いじゃん」
頬を膨らませて抗議する紗友里。
青年はあごに手を当てて、考える素振りを見せた。
「いやだ」
「も~う。そういえば、昨日から『ユニティ』始めたんだけどさ、すっごい大変だったんだよ?」
「へー」
「最初にデビルに襲われるし、おっきいデビルは出てくるしでさぁ」
「ふーん」
「でも、どっちも倒してくれたんだぁ。私のフレンドが」
えっへん、といった具合に腰に両手を当てた。
先ほどまで適当に相槌を打っていた青年が、少しだけ硬い表情を見せた。
「お前のフレンドって、エクソシストなの?」
「え? うん。そう言ってた」
「ふーん」
「なに? 何か気になるの?」
紗友里の疑問に青年はまともに答える気がないのか、またベッドに寝転がった。
「もう、何なのよ! お兄ちゃんのケチ」
「おー。人生の倹約家と言ってくれ」
減らず口を叩いた青年に紗友里はプリプリと可愛らしい怒りを見せた。
「もういい。自分で調べるもん」
そう言った紗友里を青年は一瞥して、ダルそうに手だけを振った。
兄の部屋のドアを力任せに閉めると、自分の部屋に向かった。
◇
紗友里はベッドに寝転がると、携帯端末を取り出しネットで検索を始めた。
「ユニティ、ジョブ、っと」
ネットの検索はすぐに終わると、公式のホームページを選択した。
ジョブの一覧のページに行くと、一つ一つに目を通していく。
「タンク、アタッカー、ヒーラーかぁ……。うーん」
タンクとは、最前線で敵と戦う役割で、豊富な体力が特徴である。
アタッカーはタンクに比べると体力が低い代わりに、攻撃力が高い特徴がある。
ヒーラーは文字通り、味方を癒すことに特化しているものだ。
「え~、どれが良いかなぁ。最前線で戦うって、なんか怖いかも」
タンクはなし。じゃあ、あとはアタッカーかヒーラー。
「うーん。ヒーラー……」
想像すると、魔女っ娘のような恰好をした自分が出てきた。
みんな、元気にな~れ。
自分で想像して、ちょっと不気味な気がしてきた。
可愛らしいものは好きだが、自分が可愛らしい恰好が似合うとはちょっと思えない。
悩んだ紗友里はアタッカーのページを開く。
アタッカーが一番選択肢が多く、ここでもまた悩まされる。
「あ、ガンスリンガーって」
拳銃を使うジョブ。ハクトはたぶんこれだ。かっこいいけど、一緒のものもなぁ。
「うーん……。あっ、これ良いかも」
一つのジョブで紗友里の目が止まった。
早速、『ユニティ』にログインしよう。紗友里はヘッドギアを頭にかぶると『ユニティ』の世界へと飛び込んだ。