69
ギガントワームから放たれた風を見た瞬間、死の言葉が過ったカイはたまらず無敵技である『クリスタルソウル』を発動してしまった。
その直感は当たっていたようだ。ダメージが入らなくとも、その一撃の強さくらいは容易に想像できる。
伊達にダークハウンドのメンバーではない、との自負がカイにはあった。
だからこそ、迫りくるギガントワームと己の身一つで戦わねばならないのだ。
あのメンバーだけでは、今のギガントワームと戦うのは難しい。
クロウ達が追いつくまで、なんとしてもあのメンバーを生かす。それが命令であり、信頼の証でもあった。
クロウは人を信じるまでが長い男だ。慎重すぎると言ってもいい。
人の神経を逆なでする物言いなのも、警戒心のようなものだと思っている。
任せる、の一言を引き出すのに、これほど大変な男もそうはいまい。
だから、その信頼に応えたい。そう思わせてくれるクロウという男には魅力があるのだ。
ダークハウンドは幻獣狩りを目的としているため、加護が漆黒のものだけを対象としている時点で加入者は絞られる。
その条件で集まった三十名ほどの中規模ギルドを、世界トップレベルのギルドに成長させたのは、間違いなくクロウの実力があってのものである。
なぜ、クロウは幻獣狩りを目的としたギルドを立てたのかは知らない。
おそらく、サブマスターのアドネでも知らないだろう。
それでも良い。一緒に戦いたいと思わせてくれることが重要だ。
だから、俺は戦う。
負けるわけにはいかないのだ。
目前に迫ったギガントワームが再び、体を膨れ上がらせる。
ワンパターンの攻撃だが、その威力はすさまじい。
単体に絞っての攻撃であれば、防御力を上げるスキルなしでは致命傷であろう。
地面に風をぶつけた範囲攻撃であれば、それなりのダメージを食らうが立て直しは可能だ。
先ほどの攻撃は、あのメンバーを狙ってのもので、たまたま射線上に俺がいて防ぐことができた。
そう考えると、次の攻撃は範囲かもしれない。
「セイントウォール」
カイを中心に、光の波動が広がる。
その光に触れたものにバリアが付与された。
セイントウォールはパラディンのスキルの一つで、全体の生存率を上げるものだ。
だが、これではまだ足りない。
あのピンク色の髪の毛のファントムフェンサーは、レベルが他の者たちと比べてかなり低い。
もう一つ手を打たなければ。
「ホワイトナイト」
そう声を発すると、カイの体が輝きを放った。
その光はカイから離れると、馬に跨った騎士の形となりファントムフェンサーの前に立った。
防御スキルの二枚張りだ。
最善の手を尽くしたと思ったとき、ギガントワームから風の砲弾が飛ばされた。
着弾点はカイの後方、ヒーラーの直前であった。
その暴風にタンクを除く全員が吹き飛ばされた。
だが、戦闘不能になっているものはいなかった。
それぞれが素早く立ち上がっている。
ならば、俺も次の手だ。
「チェーンバインド」
光の鎖がカイの体と、ギガントワームの体を繋いだ。
このスキルはどんな攻撃も一度だけ、自分が受けるというものだ。
タンク以外が受けたら戦闘不能になる攻撃を代わりに受けることができる。
ギガントワームの次の攻撃を俺が受け止めれば、パーティーを立て直す時間は生まれる。
たとえ、あの風の砲撃が来ても、まだ防御力アップのスキルは残っているのだ。
一撃死ということはない。
ギガントワームがカイに向けて巨体の後方を、尻尾のように振り上げた。
そして、その巨体をしならせて、カイにぶつけると同時に宙へとすくいあげた。
宙に高々と舞い上がったカイは視界が回転する中で、見てしまった。
ギガントワームの体が膨張していく様を。
◇
まずい。
ティアはギガントワームの攻撃で宙を舞っているカイを見て思った。
地面に叩きつけられれば落下ダメージが入ってしまう。
もし、そうなったら、次の攻撃で。
そう思ったときには駆け出していた。
落下してきたカイを受け止めることができれば、ダメージは最小で済むはずだ。
カイの落下地点を予測していると、ギガントワームの体がボコボコと膨らんでいった。
まさか。
ティアは青ざめた。あの状態で風の攻撃を受けてしまったら。
死という言葉が脳裏をよぎる。
カイを助ける。そのためにはどうしたら良いのか。
ソニックステップでは空を飛べない。空を飛べるような手でもない限り助けることは不可能。
空を飛ぶ。その言葉が頭に浮かんだとき、ティアは声を上げた。
「行け! ファントムソード!」
ティアはファントムソードを一斉に宙へと向けて飛ばした。
空を割くような速度でファントムソードがカイへと向かっていく。
カイが落下し、ギガントワームが風を放つ、その刹那。
切っ先ではなく、剣の柄を先に向けたファントムソードがカイの体にぶつかった。
その衝撃で跳ね飛ばされたカイのすぐ横を暴風が抜けていく。
やった。風の攻撃を避けることができた。
ティアは次にソニックステップを使って、カイの落下地点へと向かった。
地面を背に落下するカイの下へと回り込んだティアは、勢いのついたカイを受け止めると地面を二人で転がった。
「カイさん! 大丈夫ですか!?」
「うっ! ああ、大丈夫だ。ありがとう、助かった」
「いえ、大丈夫なら――」
ティアが言いかけたとき、ティアとカイを影が覆った。
見上げると、ギガントワームがその体を地面へと叩きつける瞬間が見えた。
潰される。思わず目をつぶったティアの耳に届いたのは、衝撃でも轟音でもなかった。
「ええタイミングが残っとったなぁ! なぁ、ハクト!」
ケーゴの声。目を開けると、ケーゴがギガントワームの巨体を両手で押しとどめていた。
「銀弾装填、シルバー・ノヴァ」
今度はハクトの声がした。
ハクトの一撃がギガントワームにダメージを与えたのか、悲痛な叫び声を上げた。
「妖狐さん! エクスプロージョン!」
次に聞こえたのはモカの声であった。
妖狐の吐き出した炎がギガントワームに着弾すると爆発を起こした。
その攻撃にギガントワームがのけ反るように、巨体を曲げた。
「おらっ! タイガースマッシュ!」
ケーゴの拳がギガントワームにめり込んだ。
三人の流れるような連撃によって、ギガントワームとの間に距離が生まれた。
「どや? お邪魔虫、ってわけやなかったやろ?」
ケーゴが言い放った先を見ると、クロウ達がギガントワームを囲むように立っていた。
「ふん……。腐っても狼か。ここでケリをつけるぞ、ギガントワーム」
クロウの言葉を皮切りに、ダークハウンドの者たちが一斉に攻撃を開始した。




