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 ギガントワームの動きは体格通り、緩慢ではあるが力強さがある。

 タンク以外が攻撃を受けてしまえば、大ダメージは間違いない。

 ヒーラーがタンクのライフ管理を怠らなければ、安定して戦えそうだ。


 気がかりな点は、ギガントワームが奴らのお友達を狙っているかだ。

 ギガントワームとの戦闘条件を満たしたのは、あの四人だ。無視し続けてくれる確証はない。

 クロウは冷静に状況を分析し、大声で指示を飛ばした。


「アイロス! メインタンクはお前だ。カイ! お前はサブだ。あいつらに攻撃が行った際には、お前が守れ。任せたぞ」


 今、集まっているメンバーは八人。うまい具合にタンクが二人集まってくれたおかげで、落ち着いて戦える。

 メインタンクのアイロスは慎重な男だ。初見の戦いでもそつなくこなすことができる。

 サブタンクのカイは視野が広い。不意の動きにも対応できるため、この編成が手堅いだろう。


 ヒーラーが三人集まっているため、回復には事欠かない。

 あとはアタッカーだが、運が良いことにダークハウンドでも上位の者たちが集まっている。

 ここに自分の攻撃力が加われば、火力はそれなりにある。


 クロウは頭の中で戦いの算段を立て終えると、二振りの刀を握る手に力を込めた。

 刀身をまとう黒い靄、妖力。それを放つ「黒禍衝」を使用したため、その靄は少なくなっている。

 距離が縮まる前にすべてを出し切って、妖力が満タンの背負っている二本の刀で接近戦を行う。


 四本の妖刀を駆使して戦う『ブレイドマスター』の高火力を見せつけてやる。


「黒禍衝!」


 右手に握る妖刀から発せられた黒い靄が斬撃となって飛んでいく。

 さらに左手の妖刀からも同様に斬撃を放った。

 黒い靄がなくなった妖刀を鞘に納めると、素早く背中の刀を抜く。


「狩りの時間だ」


 クロウは呟くと、ギガントワームへと肉薄した。



 ダークハウンドのメンバーが駆けつけて、数分が経過した。

 全員が集まったのか、人数は二十を超えていた。そのダークハウンドのメンバーの一人がティア達の近くでギガントワームの動向を注視していた。


 男性はカイと名乗った。

 ギガントワームの攻撃がこちらに向かってきたときに備えるため来たそうだ。

 今のところは、こちらを攻撃するような素振りは見えない。


 遠巻きに戦場を見ていると、その連携には乱れがないことがよく分かった。

 人数が多くなればなるほど、戦いがしづらくなると思うが、全員が意識を共有しているように動いている。

 位置取りから攻めるタイミングまで合わせているようで、攻撃の手が止まることがない。


 これが幻獣狩りを得意としているギルドの本領なのか。

 離れた位置から見ているだけでも、その技量の高さに見惚れてしまう。


「なんとかなりそうじゃな」


 回復を終えたコテツがティアに並んだ。


「すごいですね。あんなに大きなモンスターを相手にしているのに」


「まったくじゃな。心強いこと、この上ないわ」


 コテツの言うとおりだとティアは思った。

 自分達では間違いなくやられていた。今まで出会った人たちの力を合わせても、これを上回ることはできないだろう。

 そう思わせるだけの力を見せられている。


 ティアにはそれが少し悔しかった。

 作戦通り戦えたのだ。それで十分だと思う自分と、もっと強ければあの戦いに加われたのではないかとも思ってしまっていた。

 今の自分では間違いなく邪魔だろう。手を握る力が少し強くなった。


「焦るな、ティアよ」


 コテツが言った。思わぬ言葉にティアは驚きの表情を浮かべた。


「あの、どうして」


「思いつめた表情をしておったぞ。焦っても良いことはない。どっしりと構えて、なすべきことを成せば結果は自ずとついてくる。年寄りの戯言じゃと流してくれても良いがな」


「コテツさん……。ありがとうございます」


「素直に礼を言われるのは嬉しいもんじゃ。ん?」


 コテツが何かに気づいたのか、視線をギガントワームに向けた。

 ティアもその視線をたどると、そこには膨れ上がったギガントワームの姿があった。



 ギガントワームが全身を膨張させた。

 何かが来る。クロウはとっさに後ろに飛びのいた。

 ギガントワームがその場で頭部を地面に向けると、大きく口を開いた。


 その口から吐き出されたのは、暴風と風の刃であった。

 それに襲われたクロウは風に飛ばされて地面に叩きつけられた。

 巨大な範囲攻撃か。

 

 ここからが本番ということか。

 倒れた状態から体を起こそうとしていると、ギガントワームの体が再度膨張していた。

 そして、頭部を地面ではなく、別の方角へ向ける。


 その先には。


「くそっ!」



 強烈な風と巻き上げられた砂で一瞬視界を奪われてしまったティアは、風が止むとギガントワームの姿を見た。

 膨れ上がった体で、頭部をこちらに向けている。

 あれは。ティアの背筋に悪寒が走った。

 

 大口を開けたギガントワームの口から何かが吐き出される。

 空間が歪むような何かが放たれた。


「クリスタルソウル!」


 カイが大声を上げた。その瞬間、カイが眩い光を放った。

 その光を認識したと同時に、強い風が吹き抜けた。


「カイさん!」


 風と砂によって再び視界を奪われたティアが言った。


「こっちは大丈夫だ。君たちは?」


「こちらも――」


 大丈夫と言おうとした。だが、言えなかった。

 ギガントワームがダークハウンドのメンバーを無視して、こちらに猛然と迫ってきていたからだ。

 

 

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