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ワープゲートへと飛び込んだティア達は、その流れに身を任せた。
眩い光に包まれると、体がふわりと上がって、今度は強い力で押し出される感覚に襲われた。
光は闇へと変わり、次に見えたのは空の青。
そして、眼前に広がる砂漠。ギガントワームから放り出された瞬間であった。
地面に叩きつけられたが、すぐに起き上がると戦闘に備えた。
ギガントワームはその巨体をグネグネとさせて、こちらを見ていた。
最初に見たときは体がすくみ上がったが、今はどうだ。
これだけの体格差がありながらも、負けてしまうイメージが湧かない。
昨日のコテツの鼓舞が効いているのだろう。
自然とティアの表情に笑みが見えた。
それはコテツも同じようで、歯を見せて笑っていた。
「ははっ! ついにこの時が来たわい! お前を倒して、皆を助けるぞ!」
すうっと息を吸ったコテツに向けて、ギガントワームがその巨頭を叩きつけようとした。
「やる気じゃな! ならば、狂化の咆哮!」
コテツの雄たけびが響くのを皮切りにミフユがギターをかき鳴らした。
「ライトニングチューン!」
コテツに向かって電気が走る。これはミンストレルのスキルの一つ、攻撃力にバフを乗せるものだ。
狂化の咆哮と合わせて、二つのバフが乗ったコテツは更に力を蓄える。
「パワーチャージ」
体にオーラをまとったコテツが斧を大きく振り上げた。
ギガントワームの頭がコテツを襲う瞬間、そのたぎった力を解放した。
「アンガークラッシュ!」
コテツの斧とギガントワームがぶつかり合い、両者の力が拮抗した。
確実にダメージを与えあった両者。だが、コテツの方が受けた傷は大きかったのか、少し後ろに下がった。
「ファントムソード!」
ティアはすぐさまファントムソードを召喚し、一列に並べた。
「シューティングスター!」
ギガントワームの頭に向けて、十本のファントムソードが直進する。
そのすべてが頭部に突き刺さった。だが、それで怯むギガントワームではなかった。
巨体を一度、後ろに下げると今度は体の半分を天高く上げた。
そして、そのまま地面へと倒れこんできた。
迫るギガントワームが作る影から逃れようと走るティアとミフユ。
コテツは迎え撃つ構えを見せた。
とても一人では耐えきれない。
「コテツさん!」
ティアが叫んだと同時に、一つの影がコテツの横へと現れた。
首無し騎士のデュラハンだ。
テトラが召喚したデュラハンは、コテツと並んでギガントワームの巨体に切りかかった。
どおぉん、と大きな音が響いた。
巻き上がった砂に思わず目を閉じたが、すぐに状況を確認する。
そこには、ギガントワームを押し返そうとするコテツとデュラハンの姿があった。
ギリギリのところで踏ん張っているようで、コテツの額に汗が流れている。
視界の端でミフユがギターの弦を弾いた。電撃がギガントワームを襲う。
ティアもファントムソードを再召喚し、再びシューティングスターを浴びせる。
テトラの回復魔法もコテツに届いているようで、コテツの表情にも少し余裕が見えた。
「みんな、頑張ろう! ハクトさん達が! ダークハウンドの人たちが来てくれるから!」
ティアの激励が飛んだ。全員が口角を上げたのを見て、ティアも笑みを浮かべた。
まだ戦える。勝つんだ、この戦いに。
◇
ティアからの連絡を受けたハクトはマウントユニットに乗って、砂漠を駆け回っていた。
砂が隆起しているため、予想よりも見通しが悪い。地上から探すのは難しいか。
いや、探すのだ。ティア達四人で幻獣と戦える時間は限られるだろう。
それが分かっているから、ダークハウンドも投入できる戦力を惜しみなく出している。
空にはダークハンドのメンバーがマウントユニットに乗って捜索を続けている。
まだ発見できていないということだろうか。そう思って歯噛みをしていると、後方からアドネが話す声が聞こえた。
「対象を補足したのですね? では、そのまま攻撃を仕掛けてください。各小隊には私から連絡を入れます」
通信を切ったのか、アドネはハクト達に向き直った。
「ギガントワームを発見いたしました。行かれますか?」
「ああ。行く。場所を教えてくれないか?」
「では、私の後を付いてきてください。時間が惜しいです。急ぎましょう」
そういうと、アドネはマウントユニットの手綱を引っ張り、走り出した。
ハクトとケーゴ、モカはその後を追う形で駆け出した。
◇
ギガントワームの攻勢にティア達は苦戦していた。
タンクのコテツと、テトラの召喚したデュラハンがアタッカーやヒーラーにヘイトが向かないように、必死に戦っていた。
ティアも攻撃を繰り出すが、レベル差があるせいか効果的には見えなかった。
同じアタッカーのミフユは攻撃をしつつも、コテツの防御力を上げるスキルを放っている。
テトラはコテツとデュラハンの回復に専念している。全員が全力で戦っているが、ギガントワームには防戦一方である。
誰か、早く来て。
祈るように心の中で唱えた。
その時、一つの影がギガントワームの頭上をかすめた。
「ダイブ!」
男性の声が響くと、ギガントワームの頭部に人が槍を突き立てていた。
全身を黒で統一した人は槍を引き抜き、飛び上がるとティア達の傍に降り立った。
「間に合ったな。もう少しでメンバーが集まってくる。それまで耐えてくれ」
ダークハウンドのメンバーと思われる男性が言った。
良かった。言葉にはしなかったが、安堵の息をついた。
男性はそれだけを伝えると、また上空に飛び上がり、ギガントワームに攻撃を始めた。
空を見上げると、影がこちらに向かっている姿が見えた。
ギガントワームはそれに気づいたのか、頭部を持ち上げて周囲を見回しはじめた。
そのギガントワームの周りに、空を飛んでいたマウントユニットが次々と下りてきた。
ダークハウンドのメンバーが続々と集まり始めた。
それぞれがすぐさまギガントワームへ攻撃を仕掛けた。その火力の高さからか、コテツやデュラハンに向いていたヘイトがダークハウンドのメンバーに向きそうになった。
コテツもそれに気づいたのだろう。ヘイトを集めるスキルを連発した。
だが、コテツの体力もギリギリだ。テトラの回復量よりもダメージ量が上回っているからだ。
コテツにじわじわと死が迫る。もう限界だ。そう思い、下がるように声を上げようとした。
「妖気・黒禍衝」
そう聞こえた刹那、ティアの傍を漆黒の光が抜けていった。
漆黒の光がギガントワームに直撃した。ギガントワームの絶叫が響く。
「思った以上にデカいな」
ティアは背後から聞こえた声に振り返った。
そこには全身が黒づくめで、顔にマスクをつけている人がいた。
声から男性とは分かるが、表情は伺い知れなかった。
「下がっていろ。後は俺達でやる」
男はそういうと、両手に刀を握りしめギガントワームへと駆けた。
自信に満ちた男の声のせいか、張り詰めていた緊張の糸が緩むのを感じた。




