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 ギガントワーム討伐作戦決行の日が決まった。

 ゲーム内で翌日の正午。ティア達がギガントワーム内のフィールド奥深くにあるゲートを通過するタイミングで始まる。

 この日まで、ティアとコテツはレベル上げとフィールド内の調査をしていた。


 幸い、ミフユとテトラのレベルカンスト勢がいたおかげで、どちらも順調に進んだ。

 ティアのレベルは44になり、コテツのレベルは61となった。

 できることはやった。後は明日を迎えるばかりである。


 アルディスの屋敷で夕食を食べている面々の表情には、やや緊張がにじんでいた。

 それもそうだろう。ここに住む人たちを助けることができるかは、ティア達にかかっているのだ。

 作戦では、ギガントワームと対峙してダークハウンドのメンバーが合流するまでは、ティア達が耐えることになっている。


 あれだけの巨大なモンスターと対峙して、果たしてどれくらい耐えきることができるのか。

 ティアの脳裏に失敗したら、との言葉が浮かんでしまう。


「ティアよ」


 スープを一息に飲み干したコテツが言った。


「はい。何でしょうか?」


「怖かろう? それはわしも同じじゃ。失敗したらと思うと、夜も寝られんじゃろうな。怖いと思えば緊張するし、そうなれば体は言うことを聞かんじゃろう。そうしたらと思うと……、と負のスパイラルに陥っておる」


「はい……」


 ティアの胸中を代弁してくれているようだ。

 もし、上手く行かなかったら。次にギガントワームに遭遇する確率はかなり低いだろう。

 そうなってしまえば、ここにいる人たちは、この暗い世界に閉じ込められたままになってしまう。


 スプーンを握る手に力が入った。それを見たのか、コテツがちらりとその手を見ていった。

 

「だがな、一人ではない。一緒に飯を食い、語らい、互いに研鑽しあった仲間がいればと思えば、失敗しないのではないかと思う、わしもおる」


「コテツさん……」


「ならば、上手く行くイメージを大事にしたい。ティアよ、想像じゃ。お前は負けん。わしも負けん。ここにいる全員が負けないと思うことから戦いを始めようではないか。のう、ミフユ、テトラ?」


 声を掛けられたミフユとテトラは小さく頷いた。


「そうだね。負けるつもりで戦っても勝てないもん」


「僕はやれることをやるだけだよ。やるからには勝つつもりだけどね」


「二人とも……」


 ミフユとテトラの言葉を聞いて、ティアの心に重くのしかかっていた不安が薄れていくのが分かった。

 みんなとなら戦える。今なら不思議と負けないのではないかと思えてきた。

 一人じゃないことがこれだけ心強いのか。


「ありがとう、ミフユ、テトラくん。コテツさん、もう大丈夫です。勝ちます。私達は勝って、ここのみんなを外の世界に連れていきます」


「うむ。その意気よ。さぁ、湿っぽいのは止めじゃ。飲めや、歌えやの大騒ぎじゃー!」


 賑やかな夜は過ぎていき、次の日を迎える時間になり、それぞれが部屋に戻った。

 ティアは寝床から天井を見上げて思う。

 明日はこれまでで一番大変な戦いになる。でも、負けるものか。仲間と一緒なら負けない。


 胸に熱い想いを抱いたまま、静かに眠りの世界に落ちた。



 作戦の決行の時間を迎えたティア達は、アルディスたちに見送られながら町を後にした。

 出口となるワープゲートに向かっていると、モンスターの一団が姿を見せた。


「わしが突破する! テトラ、回復を頼むぞ!」


 コテツが吠えると、モンスター達の真ん中へと突き進む。


「狂化の咆哮!」


 強烈な雄たけびを上げたコテツに向けて、モンスターのヘイトが集まる。

 コテツのジョブはバーサーカー。タンクの中では一番の体力と攻撃力を誇る。

 その反面、自身の防御や味方への補助などが他のタンクに比べて劣るそうだ。


 狂化の咆哮は、自らに攻撃のバフを付けると同時に敵のヘイトを取るスキルだ。

 モンスターの視線が釘付けとなった今、ティア達は持ちうる限りの攻撃を繰り出す。


「みんな! 絶対に勝とうね!」


 ギガントワーム討伐作戦が始まった。



 ティア達がギガントワームと接触した砂漠にあるオアシスで、ハクト達はティアからの連絡を待っていた。


 ワープゲートへ到達するまでの大まかな時間は、先日、ティアから聞いていた。

 作戦の決行に合わせて、ダークハウンドのメンバー達が砂漠の上空からギガントワームを探す算段だ。

 照りつける太陽が輝く空を見ると、いくつかの黒い点が浮かんでいることが分かった。


 ダークハウンドのメンバー達は配置についているようだ。

 後はティアから連絡が入り、それをクロウに伝えるだけだが。


「わいらも邪魔って言うんかいな!?」


 ケーゴが怒鳴った相手はクロウだ。


「ああ、そうだ。幻獣を狩るには個々の戦闘力よりも、チームとしての動きが重要となる。お前達は幻獣戦の経験は浅いのではないか?」


「戦ったことくらい何度もあるわ!」


「何度? 十か? 二十か? あいにくだが、こちらはそれよりも経験をしているし、それに合わせた訓練をしている。人数が増えたところで、連携に乱れができてしまえば、それは立派な足手まといだ」


「お前っ!」


 今にも殴りかからん勢いのケーゴの肩をハクトは掴んだ。


「ケーゴ、抑えろ。幻獣戦は通常の戦闘とは違う。ギガントワームは彼らにとっても未知の敵だ。一つのミスが敗北に繋がることは、お前にも分かるだろう?」


「せやかて――」


「分かっている。助けになりたいって思う、お前の気持ちは……」


「……ギガントワームの捜索、ティアちゃん達の避難誘導くらいはええやろ? なぁ?」


 怒りを必死に抑えたケーゴはクロウに問いかけた。

 ハクトもそれは同意であった。何もしないで待っているなどできない。

 モカも同様のようで、強い意志を持った目でクロウを見つめていた。


「やれやれ……。それくらいなら好きにしろ」


 クロウは肩をすくめて言った。少しでもティアの助けができることにハクト達は安堵した。


「隊長、そろそろ時間です」


 そう言ってクロウに呼びかけたのは、同じように顔にマスクを付けた女性、アドネだ。

 クロウはギルドメンバー達にギルマスやマスターと呼ばせず、隊長と呼ばせているそうだ。


「ああ、そうだな。俺も上空で待機する。こいつらとのやり取りは、お前に一任する」


「了解です! ご武運を」


 マウントユニットである黒い大鷲を召喚したクロウは、それに乗ると空へと上昇した。

 その様を眺めているハクトにアドネが声を掛ける。


「冷静に対処していただき、ありがとうございます。隊長はやや誤解を受けやすい方なので」


「やや、か? まあ、いい。連絡があったら君に伝えれば良いんだな?」


「はい。皆様と行動を共にしますので、何かがあれば隊長には私から連絡いたします」


「分かった。ケーゴ、モカ、そういうことだ。俺達は、俺達にできることをやる」


 ケーゴとモカはこくりと頷いた。

 二人の意思も確認できた。後は、その時が来るのを。


 ハクトの耳に、リーンリーン、と着信を告げる音が鳴った。

 ティアからの通話であることが分かると、すぐに話を始めた。


「ティア、どうだ?」


(はい。今、ワープゲート前に到着しました。回復を終えたら、突入します)


「よくやった。あともう一息だ。やれるな?」


(もちろんです。コテツさん、ミフユ、テトラくん、準備は?)


 ティアが全員の状況を確認し、それを終えると一つ大きく息を吐いた。


(行きます!)


「ああ!」


 ハクトはアドネに向けて、親指を立てた。

 幻獣ギガントワームとの戦いの幕が上がる合図であった。

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