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 強烈な風で吸い込まれたティア達は、闇の中を落下している感覚を覚えた。

 悲鳴を上げながら落ちる三人は自分達の下にユラユラと揺らめく何かを見た。

 その何かにぶつかったとき、強烈な衝撃を体が襲った。


 そして、次に体が沈んでいく感覚。

 この感覚には覚えがある。水だ。

 慌てて泳いで水面へと向かう。水面に顔を出すと、思いっきり息を吸った。


「ミフユ! テトラくん!」


 闇の中で二人の名前を呼んだ。


「ティア、私は大丈夫だよ。ティアは?」


「私は大丈夫。テトラくんは?」


「僕も大丈夫」


 全員の無事を確認して、ホッと胸をなでおろした。

 ここはどこだろう。周囲の状況を確かめていると、ぼんやりとした光が見えた。


「あっちに光が見えるよ」


 ティアが言うと、それにミフユとテトラも気づいた。


「ここにいても仕方がないし、行ってみない?」


「賛成だね」


 ミフユの提案に乗って光の方へと泳いでいく。

 しばらく泳ぐと、地面に足が着いた。

 水を蹴るようにして歩き出すと、程なく水辺から出ることができた。


 自分達のずぶ濡れぷりを見て笑った。


「びちゃびちゃだね」


「だね。服の水を絞らなきゃ。あ、テトラくん、こっち見ちゃダメだよ?」


 服を絞って水を切っているミフユが言った。


「わ、分かってるよ」


 ぷいっと背を向けたテトラを見て、ミフユが小さく笑った。

 ティアも水を吸った服を絞る。


「ここどこだろう……」


「想像したくないけど、あのでかいモンスターのお腹の中ってことだと思うけど」


「だよね。大変なことになっちゃったね」


 会話を交わしていると、光の見える方向から砂を踏みしめる音が聞こえた。

 その音に気付いたティア達は身構える。

 姿を見せたのは、バケツを持った少女であった。


「あ!」


 少女が声を上げると、すぐに背中を向けて走り出した。


「人……だったよね?」


 ミフユが言うと、ティアは頷いた。


「うん。女の子だった」


「モンスターのお腹の中に人がいるって、どういうことだろう?」


「分かんないけど、追いかけてみない?」


「そうだね。聞きたいことがいっぱいあるし。テトラくんも行くよ」


 ミフユを先頭に歩き出した。

 ぼんやりとした灯りの方へと向かっていると、ドタドタと複数の足音が聞こえた。

 その慌ただしい音を聞いたティア達は再び身構えた。

 

 視界に入ってきたのは、槍や剣で武装した男達であった。

 六人の男がそれぞれの獲物の切っ先をティア達に向けた。


「何者だ?」


 一人の男が殺気立っている声で言った。

 下手に刺激するのは良くなさそうだ。

 そう考えたティアは両手を挙げて戦う意思がないことを伝えた。

 

 その姿を見たミフユとテトラも同じように手を挙げた。

 ティア達の様子を見た男達の気が少し緩んだように見える。

 話すタイミングなら今か。


 口を開こうとした時、男達の後ろから声が聞こえた。


「何事じゃ?」


「コテツさん、怪しい奴らが」


 男達は首だけ回して、コテツと呼ばれた男に答えた。

 武器を構えた男達が道を開くと、一人の男がゆっくりと歩いてきた。

 立派なヒゲを生やし、顔にいくつかしわがある男だ。


 おじいちゃんっぽい。ティアはそう思った。


「ふむ。怪しい奴か」


 コテツはティア達の前に来ると、じっと見つめてきた。

 視線が首元のチョーカーに向いた。


「お前達、冒険者か?」


「はい。冒険者です」


 ティアが返すと、コテツはぷっと吹き出した。

 大声で笑い始めたコテツを見て、全員が困惑していた。


「安心せい。こやつらは客人だ。しっかりもてなそうぞ」


「はあ? コテツさんがそう言うなら」


 男達は困り顔を浮かべて、武器を下げた。

 ティア達も戸惑いながら、挙げていた手を下げる。


「あの~、客人って?」


 ティアがコテツに問うた。


「お前達もギガントワームに飲まれた口であろう? ほれ、あのデカいミミズじゃよ」


「飲まれた口って……。まさか、あなたも」


 コテツは首元を指さした。


「うむ。冒険者じゃよ」



 コテツを先頭に光の指す方向へ歩き始めた。

 ギガントワームに吸われたと言っていたが、コテツはもしかしてここから出れなくなっているのではないだろうか。

 そうだとしたら、自分達も閉じ込められてしまったことになるのか。


 不安が不安を呼んでいると、ミフユが語り掛けてきた。


「テレポートで出ることができそうだよ」


 その言葉にティアもステータスを表示して、テレポートの項目を選択した。

 これがダンジョンであれば、使用不可の文言が出てくるが、移動先の選択画面へと移った。

 ということは、ここから出ることができる。


 ティアは不安の一つが解消されたことで、表情が柔らかくなった。


「着いたぞ」


 コテツが言った。

 そこには石造りの家がいくつも並んでいる光景が広がっていた。

 ふと上を見ると、眩い光を放つ火の玉のようなものが浮かんでいた。

 あれは何だろう、と思っていると、コテツがティア達を手招きした。


「まずは王にあってもらうとしようかの」


「王……ですか?」


 ティアが首を傾げながら聞いた。

 王といえば、王国の頂点に立つ存在だ。

 ここが王国と呼べるのだろうか。町と呼べる程度の広さしかないようだが。


「まあ、そんなにかしこまる程ではないから安心せい。付いてこい」


 再びコテツを先頭に歩き出した。

 家々を見ていると、どことなく見たような記憶がある。

 どこだったか。ティアは思い出そうとしたが、その前に目的地に着いたのか、コテツの足が止まった。


 そこには、周りの家と比べて二倍以上の広さを持った建物があった。

 入口と思われるドアの両脇に屈強そうな男が立っていた。


「客人が来たぞ。通してくれ」


 コテツの言葉を受けた男の一人が困惑気味にドアを開いた。

 ズカズカと中に入ったコテツを追って家の中に入る。

 入口から一番近い部屋にコテツが入ったので、それに続いた。


「王よ、喜べ。客人だぞ」


 コテツが声をかけたのは、褐色の肌の男性であった。


「騒々しいなコテツ殿。客人とは、その者らか?」


「ああ。わしと同じ冒険者じゃ」


「ほう、そうか」


 男性は居住まいを正して、ティア達に視線を向けた。

 涼やかな目をしている男性は、目を細めた。


「歓迎するぞ。我の名はアルディス。マハトリク王国六代目の王だ」


「マハトリク?」


 ティアはどこかで聞いた名前を言葉にした。


「マハトリク……。まさか」


 少し驚いた声を上げたテトラ。

 アルディスは口角を上げて、笑みを浮かべた。


「察しがいいな。そうだ。ギガントワームによって、吸い込まれてしまった者たちの末裔だ」

 

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