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砂漠の都サハリ。
荒野と砂漠の間にあるオアシスを中心に栄えている都市だ。
現在、ティアがメインクエストを進めている場所である。
だが、今日訪れたのはメインクエストの進行ではない。
テトラから集合場所に指定されたのが、サハリの冒険者ギルド傍にあるカフェであった。
ティアはミフユと共に、そのカフェの中に入る。
カフェの奥のテーブル席に目を向けると、テトラが小さく手を挙げていた。
二人はテトラのいる場所に向かうと、席に座ってグレープフルーツジュースを注文した。
「テトラくん、お待たせ」
「そんなに待ってないよ。急に呼び出してごめんね」
「ううん。誘ってもらえて嬉しいよ」
素直に感謝の気持ちを伝えたティア。
その視線を少し避けたテトラが、自分のステータス表示をした。
「早速だけど、話を進めるね。これが宝の地図」
ステータス表示から所持品を選択したのか、画面から一つの瓶を取り出した。
コルクで栓をされた瓶の中には古めかしい紙が筒状になって入っている。
テトラは瓶の栓を抜くと、中から紙を取り出した。その紙をテーブルに広げる。
広げられた宝の地図を見たティアは、小難しい表情を浮かべた。
それもそうだろう。書かれているのは、廃墟となった建物が並んでいる絵だからだ。
「さっぱり分からない」
「それはそうでしょ。宝の地図がそんな分かりやすくてどうするのさ」
テトラの手厳しい言葉を受けて、ティアはしゅんと小さくなった。
「まあ、ティアがそういうのも仕方ないよね。ほら、ここ見て」
ミフユが言うと、絵の一か所を指さした。
そこにはバツ印があった。
「あ、もしかして、ここに宝が?」
「そ。この地図が描かれた地点を探して、このバツ印の個所を調べれば、宝箱が出てくるって仕組みなの」
「なるほど。で、ここってどこなの?」
「それを今から探すんでしょ。ね、テトラくん?」
ミフユの視線がテトラへと向いた。
ストローでジュースを飲んでいるテトラが小さく頷いた。
「場所には心当たりがあるよ」
「そうなの? さすがだね」
ミフユが感心するように言った。
テトラはその視線も少し気恥ずかしいようで、ミフユからティアに目を向けた。
「場所はマハトリク遺跡。一夜にして消滅したと言われる都だよ」
「へー。そんな場所があるんだね。まだ行ったことないかも」
「ダンジョンはないけど、フリークエストで訪れることはあると思うよ。あと、場所が広いからイベントの開催場所としても使われたりしてる」
「そうなんだ。テトラくんが知っている場所に宝があって良かった」
もう宝を手に入れた気になっているティアは、楽し気な声音で言った。
それを聞いたテトラは首を横に振った。
「遺跡を広いよ。似たようなところも多いし、それなりに根気はいるから」
「うっ? そうなんだ……」
「まあ、心当たりがあるだけマシだと思ってよ」
「分かった。当てにしているね、テトラくん」
「ティアも頑張るんだよ。早速、行くとしようか」
ティアとミフユが了承すると、三人で席を立ちカフェを後にした。
◇
灼熱の太陽に照らされたティアは汗を流しながら、廃墟の中を見回していた。
ミフユとテトラも、宝の地図と周囲の風景を照らし合わせて探している。
描かれている建物はどれも似たようなものだ。
特徴的な建物がいくつかあるので、それを目当てに遺跡の中をひたすら歩く。
地図に書かれた風景を頼りに、宝の地図に書かれたポイントを探した。
「あ、あそこの建物って、これじゃない?」
ティアが指さした。
テトラは宝の地図を持ち上げて、ティアの言った建物と見比べる。
「合ってるみたいだね。てことは、もう少しかな」
「やった! 意外と早いんじゃない?」
「三人でやったのが良かったのかもね。一人じゃ大変だったと思うよ」
ミフユがそういうと、ティアも同調する。
「だね! 宝ってどんなのだろう」
「おーい。まだ、見つかってないんだから、しっかり探してよ」
「あはは、ごめんごめん」
「まったく……。ん?」
呆れたテトラが何かに気づいたのか、地図と辺りの風景を何度も確認した。
「ティア、自分の真下を掘ってみて」
「え? 分かった」
ティアは所持品からスコップを取り出すと、地面に突き立てた。
何度かスコップで地面を掘ると、白い煙がモワモワと立ち上った。
「え、これって?」
「当たりだね」
テトラがそう言った瞬間、白い煙が盛大に噴出された。
その煙が晴れると、ティアの足元に大きな宝箱が出現していた。
「おー!」
歓喜の声を上げたティアが興奮気味に言う。
「ミフユ、テトラくん、開けていい?」
「ティアが見つけたんだから、ティアが開けて良いよ」
「どうぞ」
二人の了解を得たティアが宝箱を開ける。
中には、大量の金貨と宝石、装飾の施されたアクセサリーが入っていた。
「うわー! すごい、いっぱい入ってる」
「へー。こんなに入っているものなの?」
「いや、今回は大当たりだね。素材とかしかない場合もあるからね」
ミフユの問いにテトラが返した。
素材だと自分で使用するか、マーケットに出品して取引する必要がある。
金貨であれば直接自分の懐を潤してくれるので、当たりの部類なのだろう。
ティアはそう思っていると、ミフユが宝箱を覗き込んだ。
「どう配分しようか?」
その言葉に、テトラも宝箱の中身に目を向ける。
「金貨は三等分として、宝石とアクセサリーだよね。僕は特に必要ないから、二人で分けてよ」
「え? テトラくんは良いの?」
ティアは困惑した表情を浮かべたが、テトラはいつもの無表情で頷いた。
「ティアは金策ができてないし、ミフユもレベルカンストしたけど、まだ装備更新し終えてないでしょ?」
「バレてた? レベル70の装備高くてさ。ティア、テトラくんの言葉に甘えよ?」
「う~ん。そうだね。テトラくん、ありがとう」
ティアが言うと、テトラは視線を避けて、ステータス表示をする。
「配分が決まったなら、さっさとサハリに戻ろうか」
テトラはそういうと、ミフユが「はい」と手を挙げた。
「ここまで来たんだから、近くのオアシスでキャンプしない」
「ナイスアイデアだよ、ミフユ! テトラくん、良いよね?」
「別にいいけど」
テトラが了承すると、三人で遺跡の近くにあるオアシスへと向かった。
◇
オアシスへと向かう道中は、砂漠が広がっている。
各々がマウントユニットに乗ってオアシスへと向かっていると、小さな地鳴りが響いた。
「ん? 地震かな?」
ティアは地鳴りを気にして言った。
すぐに静まると思っていた音が、段々と大きくなっていく。
ミフユとテトラも、この事態に困惑している。
その時、ティア達の前方で砂が山のように盛り上がり、そこから何かが姿を見せた。
砂漠の砂と同じ色のそれは、数十メートルはあろう巨体のミミズのような生物だった。
呆気に取られていると、巨大ミミズが体の先端をティア達に向けた。
先端がゆっくりと開くと、大きな口が広がっていた。
怯んだティアは、次に引っ張られるような風を感じた。
ユニコーンが踏ん張るように足に力を込めているが、その風はさらに強くなり、暴風となった。
ふわっと体が浮かんだ。
そう思った時にはすでに遅かった。風に引っ張られ、巨大ミミズの口へと吸い寄せられていく。
ティア達は呆気なく闇に飲み込まれた。




