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 ビヒーモスはケーゴに嚙みついたまま周囲に爆炎を放った。


「ケーゴ!」


 ハクトの声は燃え盛る炎の音でかき消された。

 ケーゴは無事か。確認しようと駆け出したところで、後方からの足音で振り返った。

 そこには肩で息をしているティアの姿があった。


「ハクトさん、あの――」


「どうして来たんだ! 早く逃げろ」


「いやです」


「ティア!」


「逃げません!」


 一歩も引き下がらない目を見せたティアに押されるハクト。

 ティアは息を整えると、強い意志のこもった目を見せた。


「私の力を使ってください!」


 それが意味することをハクトは瞬時に理解した。だが、言葉を返すことができなかった。

 唇をキュッと結び、ティアから視線を逸らしてしまう。


「ハクトさん! 私の力は――」


「分かっている。七星の力があれば、優位に戦える。それは分かってはいる。だが、それをしてしまえば……」


 あいつらと同じになってしまうではないか。

 そう言いかけたが、言葉を飲み込んだ。

 しかし、ティアを拒絶する言葉も出てこなかった。この劣勢を乗り切るためには彼女の力が必要だと分かっているのだ。


 大地を焦がす炎が弱まった時、炎を突き破ってケーゴが姿を見せた。

 服がボロボロになっており、体にも生々しい傷がいくつもあった。


「ケーゴ!」


「くんなや! ここは任せとけ」


「くっ」


 ビヒーモスが炎の中から飛び出してきた。

 噛みつきをすんででかわしたケーゴにさらにビヒーモスは追い打ちを掛けた。

 ビヒーモスの攻撃の嵐。それにいつまで耐えることができるか。


 ハクトが逡巡したとき。

 ティアの手がハクトの左手を握った。


「ハクトさん、私も戦わせてください。戦いたいんです、お二人と。ダメですか?」


 卑怯だ。そう言いたかった。

 熱意のこもった目で見られて。手から伝わる熱量からもティアの心の声が聞こえてくるようだ。

 一緒に戦いたい。その一言が、過去の呪縛に囚われているハクトの心に響く。


 あの時とは違う。きっと違う答えが導き出せる。ハクトの腹は決まった。


「……ありがとう、ティア。力を貸してくれ」


「はい!」


「狙うのはやつの脇腹だ。そこにやつの弱点がある。俺は今からそこを狙う。動き回っているが、止めるにはそれしかない」


 言って苦々しく思う。先ほどは動きを止めることができたから狙えたが、今のように動き回られては狙うのは難しい。

 だが、やるしかない。ケーゴも長くはもたないだろう。

 ビヒーモスの攻撃の目がこちらに向いたら、すぐにやられてしまう。


「分かりました。祈ります。ハクトさんの思いが届くように」


「ああ。行くぞ! 赤弾装填! バニシング・レッド!」


 燃えるような赤色の光が銃に宿る。

 撃ちだされた灼熱の弾丸がビヒーモスの脇腹目掛けて直進する。

 着弾。


 そして、銃弾はビヒーモスの体を貫通した。

 貫通した個所から炎が噴き出しすと、ビヒーモスはその巨体をゆっくりと倒して地面へと崩れ落ちた。


「やった……。すごい、ハクトさん。すごいです!」


 ティアは言うとハクトに飛びついた。

 不意の抱き着きに襲われたハクトは、その勢いにこらえきれずに地面に倒れた。

 二人で地面に転がると、どちらともなく声を上げて笑った。


「君のおかげだ。本当にありがとう」


 そういうと、ティアが笑うのをやめて上体を起こした。


「ハクトさん、君って言わないでくださいよ。なんか距離を感じます」


「え?」


「さっき、ティアって言ってくれたじゃないですか? 次からもティアって呼んでください」


「え? 俺、呼んだか?」


「呼びました!」


 言った言わないの口論が始まった。

 それを遠くで見ているケーゴは笑みを浮かべた。


「なんや。急に仲良しになっとるやないか」



 ビヒーモスの討伐を終えた三人は、騒ぎが静まったのを確認してから、ティアの加護のステータス表示を非表示にした。


「これって、逆に怪しくないんですか?」


「ステータス表示は隠しとるやつも多いからなぁ。加護を隠すやつも大勢いるしバレへん。それに七星持ちは超々レアやからな。誰も持っとるとか思わんわ」


「そうなんですね。良かった」


 これでひと段落着いた。と思ったティアが思い出したように声を上げた。


「あっ! 今、何時ですか!?」


「ゲーム時間? それとも、リアル?」


「現実世界の時間です。結構時間たってないかなぁ」


 ティアはステータスを開き、時間を確認している。


「大丈夫だ。この世界の一日は、あっちでは一時間だ。まだそんなにたってないだろう」


 ハクトの言葉に安堵の息を吐いた。


「良かったぁ。濃密すぎたから、時間の感覚が分からなくなってました」


「まあ、今日はもう上がってもええんやないかな? 無茶は禁物やで」


「そうします。ケーゴさん、ハクトさん、ありがとうございました。あと、良ければなんですが……」


 ティアは少し恥ずかしそうに二人を見ると、意を決して言う。


「フ、フレンドになってもらえませんか?」


 一瞬間が開いた。ついで二人が笑い始めた。


「当然や。一緒に戦った仲やからな」


「ああ。もちろんさせてもらう」


 ティアはパッと笑みを咲かせ、フレンドの申請のやり取りをした。

 フレンドリストに二人の名前を見て、勇気を出して言ってよかったなと思った。


「あの、じゃあ、今日は落ちます」


「お疲れ様~。またな~」


「お疲れ様。ゆっくり休むんだぞ」


 二人に見送られたティアはステータス画面からログアウトを選択した。


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