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 レベルが40を超えたティアはホームポイントのリンデンに来ていた。

 目的は新しいスキルを覚えるためだ。ジョブ会館の扉を開けて、アレルトのいる部屋へと向かう。

 ファントムフェンサーのシンボルが掛かっている部屋の前に立つと、ドアを三度ノックした。


「どうぞ」


 アレルトの返事を聞いたティアは部屋の中に入った。

 部屋の中には机に向かって書類仕事をしているアレルトがいた。


「お久しぶりです。アレルトさん」


「ええ。ティアさん、順調に成長しているようで安心しました」


 アレルトはそう言うと椅子から立ち上がり、応接ソファの傍に立ってティアに座るよう促した。

 それに一礼したティアはソファに座ると、アレルトがお茶の準備を始めた。

 お茶の香りに酔いしれているティアの前に、アレルトがお茶の入ったティーカップを置いた。


「ありがとうございます」


 礼を言うと、アレルトもソファに座り、お茶を飲み始めた。

 ティアもならってお茶を飲む。

 口の中に広がる香りを楽しんでいると、アレルトが話を切り出した。


「ティアさんに教えることができるスキルも減ってきましたね。嬉しい反面、少し寂しく思います」


「そんなこと言わないでください。まだ教えていただきたいことがいっぱいあります」


 慌ててティアが言うと、アレルトは少しだけ笑みを見せた。


「そう言っていただけると教えるかいもあると言うものです。ちなみにファントムソードは何本操作できるようになりましたか?」


「四本扱えるようになりました。五本目も、もう少しだと思います」


「ほお、それは一段と成長しましたね。ファントムフェンサーは才能と努力の両方が求められるジョブです。あなたは才能だけではなく、努力も重ねることができている。誇っていいことだと思います」


「い、いえいえ。まだまだだと思います」


 謙遜したティアは手を前に出して、首を横に振った。

 ただ、嬉しくもあった。アレルトは八本のファントムソードを自由自在に操れている。

 たとえNPCでジョブマスターだとしても、そんな人に褒められるのは光栄だった。


「通常のファントムフェンサーでは召喚できるのは、六本か七本です。ですが、ティアさんは十本。これは私でも未知の領域になります」


 アレルトの重みのある言葉に、ティアはごくりと唾を飲んだ。


「もし、壁に当たって道を見失ったときには思い出してください。意志を挫くのは自分自身です」


「自分自身……」


「そうです。あなたが意志を貫こうと進み続ければ、道は自ずと開かれます。だから、自分を強く持ってください。あなたの成長を楽しみにしている者が、ここにいますので」


 ふっ、とアレルトが笑った。

 ティアは自分の目頭が熱くなったことを感じ、手で目を隠した。

 嬉しい。期待されていることが嬉しくて、感極まってしまった。


 ただの興味からファントムフェンサーの門を叩いた。

 最初はアレルトに怯えて逃げようとしたが、ここまで来て良かった。

 でも、まだだ。アレルトに誇ってもらえるようになるには、これからだ。


 服の袖で涙を拭い、少しうるんだ瞳のまま頷いた。


「はい! 頑張ります!」



 リンデンの修練場に場所を移したティア達は、さっそくファントムソードを召喚した。

 キラキラと光る剣が浮かび上がる。

 アレルトは細剣を抜くと、藁でできた人形に向けて切っ先を向けた。


「ミラージュエッジ」


 その言葉でファントムソードが動いた。

 八本のファントムソードが集まり、一つの円盤を作った。

 その円盤が人形に向かって高速で飛んでいく。


 人形を切り刻むかと思った瞬間、円盤が弾けた。

 ファントムソードの光が細かく散って宙に舞っている。いや、舞っているのではなく、回転していることに気づいた。

 あれはファントムソードの欠片だ。


 息を飲んでいると、微細化したファントムソードが人形を切り刻んだ。

 シューティングスターやフェザースラッシュとは違う技に目を開いて見ることしかできない。

 細剣を鞘に戻したアレルトがくるりと振り返った。


「どのようなスキルか分かりましたか?」


「はい。ファントムソードが細かくなって、それが回転して切りつけました」


「正解です。ファントムソードが砕け、それが刃となり敵に切りかかる。シューティングスターやフェザースラッシュが点の攻撃なら、これは面の攻撃です」


 点と面。確かに、ミラージュエッジは人形の体全体を切り刻んでいた。

 アレルトが続ける。


「細かく散った刃すべてを防ぐのは難しい。確実にダメージを与えたいときに活用できます」


「回避力が高い敵なんかに使う感じでしょうか?」


「そうですね。あとは防御力が高い相手にも使えます」


「そうなんですか? シューディングスターみたいに強くはなさそうでしたけど?」


 ミラージュエッジはファントムソードが細かくなったものだ。

 防御力が強い相手には効果が薄そうだが。


「良い疑問です。防御が手薄なところはどこだと思いますか?」


 アレルトの質問にティアは首を傾げた。

 自分が鎧を着ているイメージをする。このどこに手薄なところが。

 悩むティアがパッと顔を明るくした。


「関節ですか?」


「その通り。関節を鎧で覆うのは難しい。硬い鱗もそうです。弱点は意外なところにあるものです」


「なるほど」


「では、さっそく実技に移りましょう」


「はい」


 ティアは新たなスキルに胸を躍らせながら、アレルトの指導を受けた。



 森の都ヘリオットにある喫茶店でティアとミフユは昼食をとっていた。

 ティアとちょうど同じくらいの時間に、ミフユがログインした通知を見たので誘ったのだ。

 森の幸をふんだんに取り入れた料理を堪能した二人が他愛もない話をしていると、ティアの耳に通知音が響いた。


 ステータス画面を表示するとダイレクトでメッセージが届いていた。

 相手はテトラからだった。「今、ひま?」とだけ書かれている。


「どうかした?」


 ミフユからの問いかけに、ティアはテトラから連絡があったと答えた。

 これからの予定は考えていないので、そのことと合わせてミフユと一緒にいることを返信した。

 少しすると、テトラから通信が届いた。通話を選択する。


「テトラくん、どうかしたの?」


(たいした用事じゃないんだけどね。ティアって、金策あんまりできてないでしょ?)


 金策とは読んで字のごとく、お金を集めることだ。

 ティアは基本はメインストーリーを進める、クエストをこなすことでお金を集めている。

 ただ、これがあまりお金が稼げるものではないのだ。


 消耗品や装備の更新をしていると、あっという間に底をついてしまう。


「う、うん。あんまりできてない」


(だと思った。ミフユもいるみたいだし、これから宝探しに行かない?)

 

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