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 カエルから人の姿に戻ったハクトは、ティア達に背中を向けて無言を貫いていた。


「ハクトさ~ん、機嫌直してくださいよ~」


「そうやぞ? ティアちゃんのおかげで人間に戻れたんやから良かったやないか」


 ティアとケーゴの言葉を聞いて返答はしなかった。

 まだ、自分の中で感情が消化しきれていないからだ。

 ティアは悪くない。カエルになった自分を助けるための行動だったはずだ。


 それは分かっているが、よりにもよってあのリップンとキスをしたことで感情がグチャグチャになってしまっている。

 礼を言わなければならないが、愚痴のひとつも言いたい。

 口を開けば余計なことを言いかねないので、黙って感情を整理していた。


「二人とも今はそっとしておきましょうよ。ハクトくんも混乱してると思うわよ?」


 サリィが二人に言った。そうしてもらえると助かる。

 今は心を落ち着けなければならない。


「せやな。ハクトにも時間が必要や」


 ケーゴはそういうと、この場を離れていった。


「ハクトくん、また後でね」


 サリィも離れていった。

 背中に向けられる視線から、ティアはまだここにいるようだ。

 なんと言えばいい。感謝の言葉を伝えるだけなら簡単なはずだ。


 だが、口を開けば別の言葉が出てしまいそうで怖い。

 心の中に渦巻く言葉達を必死に飲み込んだ。


「ハクトさん、私……。私、助けたかったんです。ハクトさんに助けてもらってばかりだったから」


 ティアが絞り出すように言った。

 ハクトは返す言葉を持たず、ただ黙っていた。


「でも、ただ助けるだけじゃダメなんですね。その人のことを考えないと……。私、ハクトさん達に助けてもらって嫌だったことなんてひとつも無いです。それはきっと私のことを考えて助けてくれていたからなんでしょうね」


 ティアはそういうと、ひとつ大きく息を吸った。


「ハクトさん、助けられなくて、ごめんなさい」


 その言葉にハクト思わず振り返った。

 そこには頭を下げているティアの姿があった。


「ティア、君は――」


「私はハクトさんを傷つけてしまいました。助けても、それじゃダメなんだと分かりました。その人の心を救うことが大事なんだって。だから、ごめんなさい」


 頭を下げたままのティアを見て、ハクトはザワついていた感情が収まって来たのを感じた。

 それはティアが謝ったからではない。

 自分のことを思っての行動だと分かったからだ。


「ティア、謝るのは俺の方だ。助けてくれたのに、素直にお礼がいえなかった。すまない」


「いえ、悪いのは私の方なので」


「そんなことは無い。トラウマが残ったのは確かだがな。……でも、それよりも嬉しいんだ。ティアが俺の事を必死で考えてくれていたことが分かった事が」


「ハクトさん……。あの、またハクトさんに何かがあれば私、助けますから。今度はもっと上手に助けますから」


「ああ、ありがとう。俺も助けるよ、君のことを」


 そういうと二人は見つめ合い、そして声を出して笑った。



 ティアとハクトの笑い声を聞いたのか、ケーゴとサリィが帰ってきた。


「ハクト~、機嫌は治ったみたいやな」


「ああ。だが、ケーゴ、お前が俺を笑ったことは忘れないからな」


「あんなん見せられて笑わへんヤツがおるか?」


 いつも通りのやり取りをする二人を見ていると、ティアの傍にサリィが近づいた。


「仲直りしたみたいで良かった。ありがとね、ティアちゃん」


「いえ、こちらこそ、気を使ってもらって、ありがとうございます」


「ううん。これでハクトくんとティアちゃんの仲が深まれば私も嬉しいもん」


 にっこりと微笑んだサリィを見て、ティアは乾いた笑いをした。


「ねぇ、ティアちゃん?」


「はい? なんでしょうか?」


「本当に相方さんになっちゃうかもね」


 サリィの言葉を聞いて凍りついた。

 本当に、とは。まさか、バレている。

 頭の中で言い訳の言葉を探し回っていると、サリィがくすりと笑った。


「私だってバカじゃないわよ。二人を見てたら、それくらい分かるよ」


「あの……。すみません、嘘ついてました」


「いいのいいの。ケーゴくんが言い出したことでしょ? 彼も嘘が下手くそだから」


「怒らないんですか?」


 そういうと、サリィはきょとんとした。


「どうして?」


「だって、嘘ついていたんですよ?」


「可愛い嘘じゃない。まあ、傷つかないって言えば嘘になるけどね」


「そうですよね。傷つきますよね……」


「でも、それでも一緒にいたいって思っているの。それが恋ってやつかな。いつか本当にダブルデートになっちゃうかもね」


「ちょっとサリィさん、暴走しないでくださいよ~」

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