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 ハクトが忽然と消えてしまい、混乱するティア達にモンスターが襲い掛かる。


 長い手を鞭のようにしならせて、ブンッと振りぬいた。

 モンスターの一撃をくらったケーゴだったが、それほどダメージはなさそうだった。


「こいつ、あんま強ないな。ティアちゃん、まずはこいつを倒すで」


「分かりました。シューティングスター」


 ファントムソードに貫かれたモンスターは、ぐらりと上体を揺らした。

 確かにダメージが通っている。そのままケーゴとティアは攻撃を続けるとモンスターはドシンという音を立てて倒れた。

 モンスターを倒したことで辺りに平穏が訪れた。


 慌ててハクトを探そうと声を上げた。


「ハクトさん! ハクトさーん!」


「ここだ」


「え?」


 ハクトの声が聞こえた。ただ、姿は見えない。

 どこにいるというのだろうか。


「ハクトさーん! どこですかー!?」


「ここだ、ここ。視線を下げてくれ」


「ん?」


 言われた通り視線を下げると、草の上に少し大きめのカエルがポツンといた。

 そのカエルはじっとティアを見据えている。

 すると、そのカエルが口を開いた。


「俺だ、ハクトだ」


 カエルが言った。

 呆気に取られたティアが口を開けたまま固まってしまった。

 その様子を見たケーゴがカエルを見て言う。


「ハクト、本当にお前なんか?」


「ああ、縮んでいるようだが、どうなっている?」


「お前、カエルになってるで」


「は?」


 しばらく沈黙が流れた。

 風が一つ吹いたところで、カエルが絶叫した。


「どういうことだ! なんでカエルに!?」


「そら、こっちが聞きたいわ。なんや、新手のバッドステータスか?」


「でも、モンスターは倒しただろ? 解除されないのか?」


「知らんわ、そんなこと。いやぁ、冷静になると笑えてきたわ」


 ケーゴがケラケラと笑い始めた。


「笑っている場合か! 俺の緊急事態だぞ?」


 その言葉を聞いて、ティアは我に返った。

 そうだ。これは緊急事態だ。呆けている場合ではない。


「ハクトさん、どうやったら人間に戻れるんでしょうか?」


「分からん。時間で解決するかもしれないが」


「状態異常を回復する魔法をかけてもらいましょう。サリィさん?」


 サリィが頷くと、ハクトに魔法をかけた。

 柔らかな光がハクトを包んだが、光が消えてもカエルのままだった。


「ダメみたいですね」


「まいったな。どうしたものか」


 そうしていると、また草がガサガサと音を立てた。

 それを察知したケーゴが言う。


「またリップンや。ティアちゃん、ハクトを守ってやってくれ。こいつもそんな強ないから倒せるで」


「分かりました」


「まったく、笑わせてくれるイベントやで」


 ニヤニヤとしたケーゴがリップンと戦い始めると、ティアはハクトをむんずと掴み上げた。



 あれから、数十分が経過したがハクトはカエルのままであった。


 モンスターの撃破数が解除の条件かと思い、リップンや巨人を倒したがイベント用のメダルが手に入るだけで解決しなかった。


「あかんわ。解決方法が分からん」


 ケーゴが肩をすくめた。

 ティアに抱えられているハクトもため息を吐いた。


「なにかあると思うんだがな。もし、パーティー全員がカエルになったら詰むぞ」


「神殿送りになったら治るかもやけど、それは気分がようないしな」


 二人がため息を吐いた。

 万事休すか。そう思ったとき、サリィがポンと手を叩いた。


「分かった」


「サリィちゃん、なんか思い当たることがあるんか?」


「うん。絶対にこれしかないわ」


 自信満々で言うサリィに注目が集まった。


「それはね、キスよ」


「キス?」


 ケーゴが返すと、サリィがうんうんと頷いた。


「カエルの王子様を思い出してみて。乙女のキスがカエルを人間に戻したでしょ?」


「あ~、確かにそんな話しあったなぁ。どうなんやろうな、それ?」


「他に解決方法もないことだし、やってみようよ。ね、ティアちゃん?」


 話を振られたティアは少し思案した。

 パーティーを組んだ相手がキスをするような間柄じゃなかったら、それはそれで詰むのではないだろうか。

 しかし、このままでは打つ手がない。


「分かりました。で、誰がキスするんですか?」


「わいは嫌やで」


 速攻でケーゴが拒否した。


「それはティアちゃんしかいないでしょ? だって、ハクトくんの相方さんじゃない?」


「えっ? いや、でも」


 このようなところで相方問題が出てくるとは思ってもいなかった。

 ケーゴがいやらしい笑みを浮かべたのが見えた。


「キーッス、キーッス」


 悪乗りするケーゴのことはあとで考えるとして、今はハクトのことだ。

 不安そうな表情を浮かべているように見える。


「ティア、無茶しなくてもいい。神殿送りを試してみよう」


 ティアのことを思っての言葉をハクトは言った。

 自分が大変なのに、人のことを気遣えるなんて。

 ハクトを何とか元に戻したい。でも、キスか。こんななし崩し的にキスをしていいのだろうか。


 ティアは悩みに悩んだ末に、一つの答えに至った。


「ハクトさん、ごめんなさい」



 ティアはごめんなさいと言った。


 どういう意味だろう。キスができないということだろうか。

 それはそうだ。女性がそんな簡単にキスをしていいわけがない。


「ティア、気にするな。さぁ、モンスターを探しに行こう」


「いえ、神殿送りにはしません。ハクトさん、目を閉じてください」


 目を閉じる。それはまさか。


「無理をするな。俺なら大丈夫だ。神殿送りくらい――」


 そういっていると草むらからガサガサと音が聞こえた。

 すると草むらから、リップンが姿を見せた。

 リップンにやられるのは癪だが、仕方がない。


「ティア。俺を下ろしてくれ」


「ハクトさん、大丈夫です。私を信じてください」


 ティアはそういうと、ハクトを自分の顔の前に近づけた。

 ごくりと喉を鳴らした。ティアに言われた通り目を閉じた。

 ティアが覚悟を決めたのだ。俺も覚悟を決める。


 腹を決めたとき、ハクトはくるりと体を反対方向に向けられた。

 思わぬことに目を開く。ティアの手に力がこもったことが分かった。

 視線の先にはリップンが突撃してくる姿が見えた。


 やはり神殿送りか。そう思ったが、ティアは頑として動くことがなかった。

 何を考えているのだ。そう思っていると、最悪な展開が頭を過った。


「ティア、待て! まさか、俺とリップンを――」


「ごめんなさい!」


「や、やめてくれー! いやだー!」


 リップンがどんどん迫ってくる。ハクトの視界がリップンでいっぱいになった時、唇に湿った温もりが伝わった。

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