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 サハリの広場でサリィの到着を待っていると、テレポートストーンに並んでいた人がだいぶ減ってきた。

 そんなとき、遠くから手を振る人が近づいてきた。

 フリルが多めについた可愛らしい服装の女性、サリィだった。


「遅くなっちゃってごめんねぇ、ケーゴくん。久しぶりね、ハクトくん、ティアちゃん」


「ちょうどええタイミングやったで、サリィちゃん。さっきまで人がぎょうさんおったからなぁ」


「サリィさん、お久しぶりです」


 ティアが挨拶すると、サリィがニコニコとほほ笑んだ。


「ティアちゃんがゲーム続けてくれて、本当に嬉しい。ケーゴくんから色々話は聞いてるよ」


「ありがとうございます。おかげさまで楽しくゲームが続けられてます。サリィさんもお元気そうで何よりです」


「ありがとう、ティアちゃん。優しいね」


 サリィがにこやかな表情で、そっとティアの傍まで寄った。


「ハクトくんとは、どう? うまくやってる?」


 ん? と思わず声に出してしまいそうになった。

 そうだ。私はハクトと相方という設定だった。

 これを破壊してしまっては、ケーゴの身に危険が迫ってしまうかもしれない。


 いや、ケーゴよりも私達の方が危ういかもしれない。ここは穏便に済ませるために、当たり障りのない返事をしておこう。


「え、ええ。まあ、ボチボチです」


「大丈夫? ハクトくん、そういうところ抜けてそうだから、ちゃんと言葉に出して言わないとダメだよ」


「ありがとうございます。そうします」


 こそこそ話をしているとテレポートストーンの列が前に進んだので、四人で列に並んだ。

 必然的に並びはサリィはケーゴの隣で、ティアはハクトの隣となった。


「ダブルデートだねぇ、ケーゴくん」


「ははは、そうやなぁ。楽しみやなぁ、イベント」


 爽やかな笑みで会話をかわすケーゴ。

 サリィの気持ちに気付いていながら、この対応はどうなのだろうかとも思ってしまう。

 先ほど相方の話を聞いたから、一緒に行動し続けるのは大変なことは分かった。


 もし、サリィとケーゴがペアになったら今までみたいに遊ぶことができなくなるかもしれない。

 そうなったら寂しいと思ってしまう自分がいる。

 でも、このままではサリィが好意を抱いたままでいて、辛いのではないのだろうか。


 ケーゴとサリィが会話に花を咲かせていると、最前列まで来てしまった。

 少し悩ましい気持ちを抱えたまま、テレポートストーンに触れた。



 テレポートストーンから飛ばされたモーロット湿原に着いた早々、湿り気のある空気がお出迎えしてくれた。


 周りにはイベントの参加者がチラホラいるが、すぐにマウントユニットを出して散らばっていった。

 ティア達も同じようにマウントユニットを召喚すると、更に南下することにした。

 湿原は足元がぬかるんでいる場所もあり、移動もなかなか困難であった。


 ただ、景色はとても爽やかなものだ。水が流れる音と草原が広がる様には癒される。

 このような所にモンスターがいるのだろうかと思ってしまうほど穏やかだ。

 談笑しながら進んでいると、遠くから悲鳴が聞こえた。


 思わず足を止めるティア達は辺りを見回すが、それらしきものは見えなかった。


「やっぱり、モンスターがいるっちゅうことやな」


「みたいだな。気を抜かずに行こう」


「せやな。マウントユニットに乗ったままやと戦えへんから降りようか」


 ケーゴに言われて湿原に降り立つと、足元がびちゃびちゃになってしまった。

 これは動きづらい。もし、モンスターに襲われたら、すぐには反応できないかもしれない。


「ちょっと歩きやすいところ探さなあかん――」


 ケーゴが言いかけたところで、湿原の奥から何かがガサガサと音を立てて近づいてきた。

 聞こえる音から、湿原を滑るように進んでいるようだ。

 それぞれが武器を構えて、迫りくる何かに備えた。


 音が最接近した時、草むらから何かが飛びだした。


「げっ!」


 声を上げたのはハクトであった。

 姿を見せたのは大きなナメクジのような化け物だ。

 ぱっちりした目に大きな唇を持ったナメクジは、クネクネと体を揺らしている。


「リップンのイベント仕様やな。相変わらずキモイわぁ」


「なかなかグロテスクですね。モンスターならやっちゃいましょう」


「ティアちゃん、やる気やなぁ。おい、ハクト~……?」


 ケーゴが不思議な声を上げたのでハクトを見ると、明らかに引き気味の姿を見せていた。


「お前、リップンまだ苦手なんか?」


 呆れた声でケーゴが言うと、ハクトは首を横に何度も振った。


「逆にこいつを好きなヤツがいるのか!? やるぞ、お前達がやらないなら俺がやるぞ」


「分かった分かった。ヘイトは稼ぐから、トドメは任せたで」


 ケーゴが先行してリップンを殴りつけた。

 リップンのヘイトがケーゴに向く。すごい勢いの突撃をケーゴがかわしたところで、ハクトの銃が火を噴いた。


「銀弾装填、シルバーノヴァ! 炎弾装填、バニシングレッド! 光弾装填――」


「やめぇやめぇ! オーバーキルやからやめぇ!」


「はぁ……はぁ……。他にはいないだろうな?」


「おらんて、安心しろや。女ん子達が引いとるやないか」


 ハクトの血走った眼がティアとサリィに向いた。

 引き気味の二人を見たハクトが我に返り、慌てて釈明を始めた。


「いや、違う。違わないか? いや、ダメなんだ。そう、本当にダメなんだ。あのデザインが」


「大丈夫です、ハクトさん。責めてないです。大丈夫です」


「そうか。すまない。みっともないところを見せてしまった」


「珍しいですね。ハクトさんがそんなに慌てるなんて」


 ティアが笑うとハクトは肩をすぼめた。

 ケーゴがハクトいじりを始めようとしたとき、再び、ガサガサという音が聞こえた。

 ギョッとして音の方を振り返るティア。


 だが、そこにはリップンはいなかった。草がざわめいているだけだ。

 いや、その草が異様にざわめいている。

 そう思っていると、地面が突然膨れ上がった。


「なんや、あれ!?」


 そこには三メートルを超える巨体を持つモンスターが立っていた。

 のっぺりした顔に、だらりと伸びた手を持つモンスターの背中には、びっしりと草が生えている。

 普段は地面に寝ていて、獲物が来たときに起き上がるやつなのかもしれない。


 そうティアは分析していると、モンスターが自分に向かって緑色の煙を口から吐きかけようとしたことに気づいた。


「ティア!」


 とっさにハクトがティアの体を押しのけた。


「ハクトさん!」


「ハクト!」


 緑色の煙が晴れると、そこにはハクトはいなかった。


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