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 サハリでのメインクエストを進めたティアはレベル37となった。

 現在のレベルのカンストが70なので中間を超えたところになる。

 『ユニティ』を始めて4カ月が過ぎようとしており、ゲームの進捗のペースは悪くない。


 このままいけば、年内に予定されている大型アップデートまでにレベルカンストまで持っていけそうだ。

 ただ、現実世界では6月の中頃を越え、テストのある7月が迫りつつある。

 テストの足音に怯えながらも今日も『ユニティ』にダイブした。再開地点のサハリの広場に降り立ったティアは、目の前の催し物に心を奪われた。


「ケ、ケローニャだー!」

 

 ティアが見たのは猫の顔にカエルの胴体という、ユニークな造形のケローニャというマスコットキャラクターであった。

 ケローニャが、なぜ『ユニティ』の世界にいるのだろう。ケローニャは現実世界では有名なマスコットキャラクターである。

 人によって好みが分かれるがティアはかなりお気に入りの部類のキャラクターで、部屋に小さなぬいぐるみがあるほどだ。


 ケローニャがステージの上で踊っており、それに合わせて広場の人達も盛り上がっていた。

 何が何だか分からないけど、ケローニャが可愛いから良し。とステージを食い入るようにティアは見ていた。


「お、ティアちゃん、お疲れ様。今日はちょっと遅かったんやな」


「お疲れ、ティア」


 ティアの肩がビクッと跳ね上がった。

 いつの間にかハクトとケーゴが来ていたのだ。


「ハクトさん、ケーゴさん、お疲れ様です。ちょっとステージに夢中になってました」


「あ~、今日から始まったケローニャとのコラボイベントやな。ティアちゃん、ケローニャ好きなん?」


「はい! 大好きです」


「なら良かったわ。イベントに参加したら、限定アイテムが貰えるから今日はイベントやらへん?」


 ケーゴの言葉でティアの表情が明るくなった。


「やりますやります! 良いんですか?」


「わいらはかまへんよ。なぁ、ハクト?」


「ああ。俺達も初めてのイベントだからな。楽しみだ」


 ステージ裏に消えていったケローニャに代わって、派手な衣装を着た男性がステージに立った。

 マイクを手にした男性が言う。


「本日より開催されました、ケローニャコラボイベントの概要をお伝えいたします。今回のイベントは、特別エリアに発生するモンスターを倒すことで限定メダルが手に入り、それを交換することで今回だけの特別アイテムが手に入ります」


 イベントの告知をする司会者の言葉に歓声が沸き起こった。

 そして、ステージの上に数名の男女が姿を見せた。


「交換できるアイテムはこちら。ケローニャデザインのアンブレラとレインコート、ぬいぐるみ、テルテル坊主です」


 紹介されたアイテムを手にした人達が、アイテムの可愛らしさをアピールする動きを見せた。

 黄色い声がそこかしこから上がる。ティアも同じく、甲高い声を上げた。


「対象となる特別エリアはヘリオットの南にあるモーロット湿原。移動はここのテレポートストーンを使えばひとっ飛びです。では、皆さま、ふるってご参加ください」


 司会者が言うと、広場に設置されたテレポートストーンに人が次々と触れてテレポートしていく。

 その流れに乗るようにティア達も列に並んだ。

 テレポートする時を今か今かと待ちわびていると、ケーゴがステータス画面を開いているのが見えた。


「まいったなぁ……」


 そう呟いたケーゴは頭に手を当てていた。


「どうしたんですか?」


「ああ、実はサリィちゃんからお誘いが掛かったんやけどな」


 サリィとは以前、一緒に遊んだことがあるヒーラーのことだ。

 ケーゴに好意を持っているとハクトから聞いていた。


「遊びに行ったら良いじゃないですか?」


「そんなに素直に言われると返す言葉がないんやけど……。いやぁ、二人きりはちょっと」


「じゃあ、私達と一緒にイベント回りませんか? 人が多い方が楽しいでしょうし」


「ティアちゃんは、それでええんか? それならわいも気が楽やわ」


「はい。一緒に遊びましょう」


 安堵の表情を浮かべたケーゴがサリィに返信をしている姿を見ているとハクトが声を掛けてきた。

 

「すまないな。助かる」


「いえいえ。私は人が多い方が楽しいと思いますし」


「そうか。ケーゴも良い奴だし、男気もあるんだが、女性関係はへたくそなところがあるからな」


 ハクトの手厳しい言葉にティアは噴き出した。

 それを見ていたのだろう、ケーゴが恨めしそうに言う。


「誰がへたくそや。お前も大概やっちゅうねん」


「お前ほど苦労した覚えはない」


「なんやと~。相方候補も作れへんヤツが言うことかいな」


 視線をぶつけ合う二人の間にティアが立ち、「まあまあ」と言った。


「ケーゴさんはサリィさんと相方さんにはならないんですか?」


「さらっとぶっ刺してきたなぁ、ティアちゃん。せやなぁ、昔は相方がおったが、楽しい反面、何かと大変やったんや」


「そうなんですか?」


「せや。何かと自分を優先してくれぇ言われると、なかなか他のヤツと遊びづらくてな。距離感が難しいねん」


 なるほど。相方と呼べるような仲になったのなら、一緒に遊びたいと思うのが普通かもしれない。

 ただ、それに縛られてしまうと思うように遊べなくなってしまう。

 悩ましい話にティアは腕組みをしてしまった。


「距離感ですか」


「な? 考えると相方って難しいやろ。まあ、カーミラ姉さんとシゲンさんのような関係だとありかもやけどな」


「えっ? カーミラさんとシゲンさんって、そうなんですか?」


 目を丸く見開いたティアは、その視線をハクトに向けた。


「言ってなかったか? シゲンさんは、カーミラさんと俺達が出会う前からの相方だ」


「でも、あんまりそんな感じがしなかったような?」


「それが適度な距離感なんだろうな。シゲンさんがポーターギルドにいるのはカーミラさんのためでもある」


 ハクトの言葉にきょとんとするティア。

 見かねたケーゴがティアに言う。


「カーミラ姉さん、クラフトばっかりして、あんまりクエストとかせんのや。でも、それやと周りとの繋がりがなくなってしまうやろ?」


 確かにカーミラはギルドハウスの奥にある工房に引っ込んでいることが多い。

 イベントクエストなどにも積極的に参加しているとは聞かなかった。


「だから、人との繋がりなくさへんように、カーミラ姉さんが作った物をシゲンさんは運ぶことにしたんや。二人三脚で世界と繋がってる感じやな」


「そうだったんですね。すごく素敵な関係だと思います」


「せやろ? まあ、こんな話をカーミラ姉さんにしたら、速攻で否定されるから、ここだけの話にしたってや」


「はい。分かりました」


 シゲンとカーミラの二人の間に、そんな関係があったとは。

 相方とはただの恋人関係のようなものを想像してしまうが、深い信頼で繋がっているのも相方なのかもしれない。

 新しい世界に触れた気分がした。


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