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 トーカ達とゴーレムは激戦を繰り広げていた。


 ゴーレムの巨体から繰り出される拳をギリギリのところで避けるトーカ。

 その隙を付くようにカゲツが攻撃を加えていた。

 だが、ゴーレムには痛手を負っているようには思えなかった。


 ヒーラーのカゲツの攻撃によるダメージはそれほど高くはない。

 やはりアタッカーの攻撃が決め手になる。

 タンクのハルアキが加勢すれば状況は好転するはずだ。


「カゲツさん、遅くなりました」


 ハルアキが言うとカゲツの口元が緩んだ。


「遅いよぉ。結構限界だったんだから」


「余裕そうじゃないっすか。バリア、お願いします」


 ゴーレムに猛進するハルアキに向けて、カゲツが一枚のお札のような物を投げた。

 そのままゴーレムの足に斬りかかるハルアキ。

 チェーンソー状の刃がゴーレムの硬い肌を削っていく。


「アクセルトリガー」


 大剣のエンジン音が一層激しくなり始めた。

 刃の回転が更に速くなっている。

 ゴーレムの足を勢いよくガリガリと削り、強烈なダメージを与えた。


 ゴーレムのヘイトがハルアキに向いたのか、ゴーレムの視線がトーカから離れた。

 トーカに振るうはずだった拳をハルアキ目掛けて叩きつけた。

 痛烈な一撃。そう思ったが、ゴーレムの拳はハルアキの手前で止まっている。


 これは先ほどNPCのときに見たのと同じだ。

 カゲツの投げたお札が、また宙に浮いている。これが先ほどハルアキの言ったバリアなのかもしれない。


「ティアちゃんも。ガンガン攻撃しちゃって」


 カゲツの言葉に頷くとシューティングスターを放った。

 だが、ティアのファントムソードはことごとく、ゴーレムの硬い肌によって弾かれた。

 ティアは苦々しい表情を浮かべた。


 ヘイトがトーカからハルアキに移ったため、トーカはカゲツの傍に降り立った。


「あのゴーレム、なんか弱点とかないの? このままじゃ、時間が掛かって仕方がないわ」


「う~ん。あるにはあるけど」


「何よ。あるなら教えなさいよ」


 カゲツが自分の後頭部側の首をトントンと叩いた。


「後ろの首筋が弱点なんだけどねぇ」


「ピンポイントで狙わなきゃダメってことね」


「ご推察通りで。ま、トーカちゃんなら行けるっしょ」


「よく分かっているじゃない。カゲツはハルアキの回復をお願い。私がダイブで仕留めるから」


「期待してるよぉ」


 カゲツが軽く言うと、トーカが空に飛び上がった。

 ゴーレムの真上に到達すると、一気に降下した。

 首筋を狙った攻撃だが、若干ズレてしまったのかゴーレムは依然ハルアキに攻撃を続けていた。


「 面倒ね。もう一回!」


 トーカが再度、宙に舞った。

 狙いをつけ高速で落下し、ゴーレムの首筋に迫る。

 その時、ゴーレムが突然動きを変えた。


 下半身はそのままに、上半身だけをグルグルと回転させたのだ。

 狙おうとした首筋が回転しているため、トーカの一撃は弱点を捕らえることができなかった。

 ゴーレムは高速回転をしつつ前進すると、ハルアキ目掛けて拳を振るった。


「ぐぁっ」


 痛烈な一撃がハルアキを襲った。

 更に二撃目。

 ハルアキはその力に耐え切れず、吹き飛ばされてしまった。


 地面を転がったハルアキは大剣を地面に突き立てると、なんとか立ち上がった。


「カゲツさん、バリア行けますか?」


「ごめん。リキャストタイム中。回復は途切れさせないから、なんとか踏ん張って」


「了解です」


 ハルアキは大剣を構えると回転しながら接近するゴーレムと対峙した。

 このまま戦えば先ほどの再現になるのではないか。ハルアキの表情も少し苦しそうだ。

 ゴーレムにティアのファントムソードは傷を負わせるような力はなかった。


 本当にできることはないのか。

 歯噛みするティアは一つのことに気付いた。

 ゴーレムの回転の起点となっている腰を狙えばあるいは。


 ティアはファントムソードを一列に配置すると、腰部目掛けてシューティングスターを放った。

 ファントムソードが直撃すると、ゴーレムの動きに変化があった。

 回転が一時的に弱まったのだ。腰部はほかに比べると柔らかいのかもしれない。


「ティアちゃん、今のもう一回行ける?」


 カゲツが言った。

 ティアはすぐにファントムソードを呼び戻す。


「ハルアキくん、ティアちゃんの攻撃が当たったらガードして、あいつの動きを止めて。トーカちゃん! 隙を作るから、とどめはお願いね」


「うっす。分かりました」


「ハルアキ、頑張んなさいよ」


 カゲツの指示に従い、再びシューティングスターを放つ。

 今度もゴーレムの回転が弱まった。ハルアキが大剣を縦に構えると、迫る拳を正面から受け止めた。

 大剣と拳が押し合いになり、ギリギリと音がなった。


「姉ちゃん!」


 ハルアキの声に呼応するようにトーカが飛び上がった。

 ゴーレムの弱点である後ろの首筋に狙いをつけ、トーカが叫ぶ。


「ソニックダイブ!」


 目にも止まらぬ速さで降下したトーカの槍がゴーレムの首を捕らえた。

 ガキンッという音が響く。辺りに静寂が流れた。

 ゴーレムがぐらりと揺れると、後ろ向きに倒れていく。


 地面に大の字になったゴーレムは、一切の動きを停止している。


「やった……?」


 ティアが言うと、ハルアキが親指を上げた。

 トーカがこちらに降り立つと、やれやれといった具合に肩をすくめた。

 カゲツの頬が緩んだ。


「三人とも、お疲れ様。大勝利だよ」


 カゲツの勝利宣言を聞いたティアはへなへなと地面に腰を下ろした。


「ティアちゃん、お疲れ様」


「ありがとうございます。もう、ダメかと思っちゃいました」


「僕は皆を信じてたよ。ね、二人とも」


 ハルアキとトーカを見て言った。


「また適当なこと言って。ま、これくらい余裕よ」


「ティアさんのおかげです。あざっした」


 強敵との戦いに勝利した四人はしばらくその余韻に浸った。



 採掘場に連れて行かれていたNPC達は幸いなことに全員無事だった。


 自由都市ホランドに帰ると、それぞれが家族の元へと帰って行った。

 ティア達に依頼した女性から何度もお礼を言われ、無事に依頼を完了することができたことに安堵した。

 ひと段落したところでカゲツが口を開いた。


「んじゃあ、僕達も行こうかな。ティアちゃん、楽しかったよ。またね」


「次は面倒ごと抜きで出会いたいものね」


「ティアさん、お疲れさまっした」


 それぞれに別れを告げると、人混みに消えていった。

 せっかくならフレンド登録すればよかったとティアは少し後悔した。

 でも、ゲームをしていればまた出会える気がする。


 次に出会うときは成長した自分を見てもらいたい。

 素直にそう思える人達との出会いであった。

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