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 低いエンジン音が唸りを上げた。

 ハルアキの一振りがアムール族の一体を切り裂いた。

 そのまま体を捻って飛び上がると、別の一体に脳天から大剣を浴びせた。


 大剣の重みを生かしたスムーズな連撃に見とれていると、今度は後ろからトーカの声が聞こえた。

 槍をクルクルと回しながらアムール族に斬撃と突きを繰り出していた。

 アムール族の一体に連続で突きをお見舞いしたとき、別のアムール族がトーカを挟み込んだ。


「あぶない!」


 思わずティアが声を掛けたとき、トーカが空中に飛び上がった。

 ただのジャンプではない。空を舞うほどの跳躍力。見上げないとトーカの姿は捉えられなかった。

 

「ダイブ!」


 トーカが叫ぶと落下速度が急に増した。

 そして落下先にいたアムール族の一体を頭から串刺しにした。

 着地したトーカが膝を曲げて再び跳躍した。


 後方ではハルアキが大剣を振り回し、前方ではトーカが宙を舞いアムール族を貫いていた。


「すごい……」


 二人の技量を見て、ティアはそう呟いた。

 ティアの横顔を見たカゲツが言う。


「ハルアキくんのジョブはフィアーナイト。チェーンソー型の大剣を操るタンクだよ。タンクの中では攻撃よりだね」


 アムール族の攻撃を受けながらも、ハルアキはそれを物ともせずに大剣を振り回していた。


「トーカちゃんはスピリットランサーだよ。風の精霊の力を借りて、大空に舞い上がったり、猛スピードで突撃したりできるよ」


 何度も宙に飛びながらアムール族を翻弄するトーカ。

 二人の戦いはすでに終盤に差し掛かっていた。

 残るアムール族は三体。そのうち二体を二人は仕留めに掛かっていた。


 残る一体は劣勢を悟ったのか、じりじりと後退していた。


「んで、僕はハーミット。ヒーラーだけどちょっと癖があるんだよね」


 背中を見せたアムール族に向けて、短い棒状のものを取り出した。


「よっと」


 その棒で大地を叩くと、突然大地が隆起し波のようになって逃げだしたアムール族に襲い掛かった。

 土に飲まれたアムール族は逃げ出そうと、もがいている隙にカゲツが接近していた。

 その手に持つ棒でアムール族の頭を叩くと、ゴツッという音が響いた。


「残るはあんただけだね。どうする? こいつらに義理立てでもするかい?」


 カゲツが冒険者の男に言うと、男は観念したようで両手を軽く上げた。


「降参だ。こうなっちゃあレアアイテムも貰えそうにないしな」


「それが賢明な判断だよ。で、採掘場はどっちか教えてもらえるかな?」


「あんたの後ろの方。山間に採掘場がある。……が、急いだほうが良いかもしれないぜ? お目当ての物が見つかったようだからな」


「お目当て?」


 カゲツの問いかけに男はクツクツと笑った。


「それは見てのお楽しみだ。用済みになった人間を返してやるほど、アムール族は優しくないぞ」


 男の言葉通りであれば、急がないと女性の夫が殺されてしまうかもしれない。

 カゲツもそれが分かっているのだろう。少しだけ険しい表情を浮かべていた。


「ティアちゃん、トーカちゃん、ハルアキくん。行こう」


 くるりと男に背中を向けるとカゲツは歩き出した。

 それに従うように、トーカとハルアキもついて行く。

 ティアも男の動向を気にしつつ、三人の後を追った。


「良かったの、あれで?」


 トーカがカゲツに向かって言った。


「冒険者と戦っても時間の無駄さ。あいつの言葉を鵜呑みにするわけじゃないけど、助けるなら早い方がいいしね」


「ま、それもそうね」


 トーカは納得したようだ。

 ティアは抱いていた疑問をカゲツに投げかける。


「何であの人、アムール族と手を組んだんでしょうか?」


「アムール族は蛮族の中でも頭が良くてね。人の言葉も話せるし、駆け引きもできる。あの口ぶりからすると、レアアイテムをもらう代わりに監視をしていたんだろうね」


「そんな……。でも、連れて行かれた人がいるのに、そんなこと」


「誰もがティアちゃんみたいに優しくはないよ。NPCだから何をしても良いって思っている奴らはごまんといるからね」


「そうなんですね……」


 ティアは自分の気持ちが沈んでいくのを感じた。

 同じ冒険者でもこんなにも価値観が違うものなのか。

 NPCであっても生きている。以前、シゲンが言っていた言葉だ。自分もそう思っている。


 それなのに、人を人とも思わないような人達がいることを知った。

 なぜ、そんなことができるのか。ティアは口から出そうになった言葉を飲み込んだ。

 それは背中越しだが、カゲツから伝わる静かな怒りを感じたからだ。


 彼もNPCを大事に思っている人なんだ。自分と同じ憤りを覚えている。

 そんな人がいる。それが分かって嬉しかった。



 山間に近づくと、ほんのり光が灯っているのが見えた。

 慎重に歩みを進め、その場所に近づいた。

 岩陰に身を潜めて様子を伺う。そこには簡素な木の柵が設けられており、その前にアムール族が二体立っていた。


「どうやら、ここのようだね」


「どうします? こっそりと近づいて――」


「いや。その時間は惜しいかな。トーカちゃん、行ける?」


 カゲツの言葉を聞いたトーカは槍を手にして、姿勢を低くした。


「当たり前じゃない」


 そういうと、ビュンッと空中に飛び上がり、アムール族の直上に到達した。

 その瞬間、高速で落下するとアムール族の頭を槍で貫いた。

 アムール族が崩れ落ちる前に、その体を蹴って再び宙を舞ったトーカは次の獲物に狙いを定めた。


 風を切るような速さでアムール族の脳天に槍を突き刺した。

 あっという間の出来事にティアは唖然としてしまった。

 呆けて見ているティアの肩をカゲツが叩く。我に返ったティアは手招きをするトーカの元へと急いだ。


「すごいね、トーカ」


「当然。これくらい余裕よ」


 一行はそのまま奥へと進んでいく。

 大きな岩があったので身を隠して顔を覗かせた。

 そこには広場と大きな洞穴が見えた。その広場にはアムール族がたむろしていた。


 洞穴を見ると、中から袋を担いで出てくる人達の姿があった。


「イソゲ! ヤスムナ! ハタラケ!」


 怒声を上げるアムール族。間違いない。ここで働かされている人達が連れて行かれた人達だ。


「数もそんなにいないし、今なら行けるんじゃ――」


 ティアがカゲツに言ったとき、低い地鳴りが聞こえた。

 それは次第に大きくなり、地面を震わせるほどとなった。

 洞穴からアムール族とNPCの人達が慌てて広場に出てきた。


 一体、何が起きているというのか。

 洞穴の周囲にヒビが入り、岩肌がボロボロと崩れ始める。

 山に大きなヒビが入ると、岩肌が爆発したように吹き飛んだ。


 大きな岩が広場に降り注ぐ、慌てて逃げ惑うアムール族とNPC。

 土煙が晴れると、そこには十メートルはあろうかと思われる機械式の巨人が立っていた。


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