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 ヘリオットでのメインクエストを終えたティアは、次なる目的地であるサハリに向かっていた。


 マウントユニットに乗るハクトとケーゴの後を行く。

 穏やかな森を抜け草原に出た。遠くなっていく森の都ヘリオットを遠目で見る。

 メインストーリーで関わった人々のことを思い出した。


 別れを告げることができた人。できなかった人。様々だが、いい思い出が残っている。

 こうして冒険者は旅を続けて行くのだろう。出会いと別れを繰り返して。

 そう思うと、少し感傷的になってしまった。


 一本の木の下で小休止を取る三人。

 話題は行先のサハリのことである。


「サハリって、ハクトさんが最初に選択した街でしたよね? どんな所なんですか?」


「そうだな。リンデンやヘリオットに比べると、騒々しいというイメージだ。各地の交易の中心地になっているから、活気に満ち溢れている」


「商売人の街っていわれるくらいやからな。金があれば、珍しいものが買えるで」


 ケーゴが指で輪を作って、金を強調した。

 残念ながら今はそんなにお金がない。メインクエストやフリークエストをこなしてはいるが、まだ十数万ゴールドだ。

 回復アイテムや装備の更新のことを考えると、そんなに余裕があるわけではない。


「金がなくても、良い物が見つかったりするのもサハリの良いところだ。思わぬ掘り出し物があったりするぞ」


 ハクトが言うと、自分のガンベルトを指さした。


「これはサハリで買ったものだ。あとで分かったことだが、有名な革細工師が作ったもので実際は買った時の数倍の値が張るものだった」


「へぇ~。良いお買い物をしたんですね」


「ああ。代わりにまがい物を掴まされたこともあったがな。今ではいい思い出だ」


 小さく笑ったハクトにつられるようにティアも笑った。


「せや。どうせサハリに行くんなら、ちょいと寄り道していかんか?」


「寄り道ですか?」


 ティアが問いかけると、ケーゴが頷いた。


「自由都市ホランド。冒険者が作った都市や」


 いきなり出てきた言葉にティアは理解が追いつかなかった。

 冒険者が作った都市。言葉通りなら、自分たちで街を作り上げたということか。


「ピンと来とらんみたいやな。ギルドハウスは想像できるやろ?」


 こくりと頷いた。


「『スプーキー』のギルドハウスは元々、ゲーム内で売りに出されていた物件を買ったものや。現実世界でいえばマンションみたいなもんやな」


 ふむふむといった具合に話を聞く。


「ただ、街中にあるギルドハウスの数には限りがある。そしたら、次は住宅地として用意された土地を買うてギルドハウスを建てるっちゅう方法があるんや」


「現実世界で家を建てる感じですか?」


「せや。NPCを雇って作ってもろてもええけど、自分たちで一から建てる奴らもおるからな。そんで、もう一つのギルドハウスの建て方が、街以外のところに勝手に建てるっちゅうもんや」


「勝手に立てて大丈夫なんですか?」


「ゲーム内では認められとる。ただ、制限のかかっとる土地もあるから、どこでもってわけではないんや」


「なるほど。確かにゲームの進行に関わる所とかに建てたら邪魔になったりしますもんね」


 ダンジョンの前にギルドハウスを建てられたりしたら、ダンジョンに入れなくなってしまうかもしれない。

 色々と細かい制限が掛けられているのだろう。


「ただ、街中とは違って、辺ぴな場所にギルドハウス立てても、街まで行くのも手間や。買い物なんかもでけへんしな。不便で仕方がないやろ?」


 確かに不便そうだ。アイテムの補充は必要不可欠なので、近場に商店があるのは非常に都合が良い。

 街中でないなら、テレポートなどを使用して街にいかなければならないが、テレポートには距離に応じたMPが消費されるという点がある。

 MPを回復させるためにアイテムを買ったりしていたら、余計にお金が掛かってしまう。


「人が集まる所に物が集まる。せやから、ギルド同士が連携し合ってギルドハウスを近くに立て合うんや。人が増えれば、そこにNPCが商売に来る。物が増えれば訪れる冒険者も増える。便利なところには他のギルドもギルドハウスを作る。そうやってデカなった都市を自由都市っちゅうんや」


「すごい。冒険者が作る都市の意味が分かりました」


「そういう都市がこの世界にはいくつもあるんや。ストーリーとは関係あらへんけど、社会勉強で行ってみようや」


「はい。行ってみたいです」


「よっしゃ。なら、進路変更。向かうは自由都市ホランドや」


 休憩を切り上げると、一行は自由都市ホランドへ向けて進みだした。



 乾いた風が吹く荒野に辿り着いた一行の前に、街並みが見えてきた。

 

 リンデンのように高い壁があるわけでもなく、ヘリオットのように自然と調和した建物が並んでいるでもない。

 無秩序に建物が乱立し、景観など微塵も考えていないような街であった。

 大勢の人々が街の中を行き交い、喧噪が響いてくる。


 活気にあふれているといえばそうだが、今までの都市と比べるとどこどなく粗野な感じが見て取れる。

 街に入ったティアは、その人々の熱に圧倒された。

 商売人たちが声を上げて商品の宣伝をしており、客引きのような真似をするものもいた。


 人の波を避けて一本路地に入ったティア達は一呼吸をついた。


「いやぁ~、相変わらずここは人が多いわ。暑くてかなわんな」


 ケーゴが手で顔をパタパタとあおいだ。


「どうだ、ティア? リンデンやヘリオットとはまた違う賑わいだったろう?」


 言ったハクトは額に浮かんだ汗をぬぐった。


「はい。思った以上のすごさでした。こんなすごい場所を冒険者が作ったんですね」


「そうだな。最初は少ないギルドが集まって作った自由都市だったが、今ではゲームで一番の自由都市だ」


「ホランドの街にはコンセプトっちゅうもんがないから、こんなカオスみたいな街並みになったんやけどな」


 笑いながらケーゴが言った。


「路地裏に入ったら、よりディープなホランドを体験できるんやけど、ティアちゃん、どないする?」


「い、いえ、もうお腹いっぱいなので遠慮します」


「残念やなぁ。これから移動するのもなんやし、少し早い気もするけど今日はここらで休もうか――」


 ケーゴが言いかけた時、シャウトの通知音が耳に響いた。

 ウィンドウを開きチャット欄を見ると、デビル発見の報告であった。

 ハクトとケーゴも同じようにチャットを見ているのか悩ましい表情を浮かべていた。


「出現場所はここから割と近いな」


「複数体確認ってのも気になるわ。どうする、ハクト?」


「そうだな。行けるなら、行った方がいいかもだが……」


 その表情を見て、ティアは理解した。

 自分を置いて行っていいものなのか思案している顔だ。

 エクソシストのハクト達の助けを待っている人たちがいるかもしれない。それならば。


「ハクトさん、ケーゴさん、行ってください」


「良いのか?」


「はい。今日は切り上げる予定でしたし大丈夫です」


「そうか。すまない。行ってくる」


「ティアちゃん、すまんな。行ってくるわ」


 二人はそういうと人混みの中に消えていった。

 見送ったはいいが、これからどうしようか。素直に今日は切り上げて。

 そう思って何気なく通りを見ていると、一人の女性が体格のいい男に突き飛ばされるのが見えた。


「知らねぇって言ってるだろ! 他を当たんな」


 体格のいい男はそう吐き捨てるように言うと、人波に消えた。

 ティアは慌てて倒れた女性の傍に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


「は、はい。ありがとうございます」


 倒れた女性に手を差し出そうとすると、ティアの横からスッと別の手が伸びてきた。

 振り向くと、そこには黒髪を伸ばした中年の男性が立っていた。

 口周りにひげを生やした男性は、白色の長い羽織ものを着て、その下には黒い袴を履いていた。


「まったく、酷い男もいたもんだねぇ。お嬢さん、大丈夫かい?」


「あの、ありがとうございます」


 女性はその手を取ると、ハッと思い出したような表情を浮かべた。


「そのチョーカー。冒険者様ですか?」


 女性はティアだけでなく、男性の首元も確認した。


「はい。冒険者ですが」


「良かった。あの、お願いがありまして……。夫を探してもらえないでしょうか?」


 目に涙をにじませた女性が切実そうに言った。


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