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 トカゲ人間と呼べばいいのだろうか。

 クシャール族を見たティアは、その外見からそんなことを思っていた。


「動かず、様子を見るか」


 シゲンの声に我に返ったティアは小さく頷いた。


 今のところ、視界に映るクシャール族は三体だ。

 何やら話しているようで、風に乗って微かに声が聞こえるが理解できる言葉ではなかった。


「シゲンさん、なんて言ってるんでしょうか?」


「あいにく化け物のお友達はいないものでね。何言ってるかさっぱり分からねぇ」


 しばらくクシャール族の動向を注視していると、会話を切り上げたのかバラバラに森の中に散って行った。

 

「ふぅ……。やり過ごせたようだな」


 そういったシゲンが中腰になって、周囲に目を向けた。


「大丈夫だ。また出くわす前にさっさと行こうぜ」


 ティアは緊張の糸が緩むのを実感した。

 クシャール族は体格が大きいのもあるが、にじみ出る凶暴さが遠くからでも見て取れた。

 あまり関わり合いになりたくない存在だ。


 シゲンを先頭にシルクスの森を抜けるため、再び前に足を進めた。



 何度か小休止を取りながら森を進んでいく一行。


 森の木々の様子が少しずつ変わっていることにティアは気づいた。

 木漏れ日がいくつも指しており、薄暗さがなくなってきていた。


「そろそろ、森を抜ける頃だな」


「はぁ~……。無事に抜けられそうでよかったですね」


 安堵したティアは深いため息を吐いたのを見て、シゲンが軽く笑った。


「戦いになったら俺の雄姿を見せられたんだがな。残念だぜ」


 カラカラと笑うシゲンにつられて、テトラ以外が笑みを浮かべた。

 その様子を見てティアがテトラに声を掛けた。


「テトラくん、どうしたの?」


「いや……。なにか聞こえる気がするなって思ってさ」


「なにか?」


 ティアは耳を澄ませる。

 遠くから微かに何かが聞こえる気がする。

 さらに注意深く聞いていると、響いてくる何かが声だということが分かった。


「――けて~」


 必死さが伝わる声色をしている。それがだんだんと大きくなってきた。


「助けてくれ~!」


 ハッキリと聞こえた。

 ティアは振り返ってシゲンを見ると、めんどくさそうな表情で頭をかいていた。


「すまねぇ。ちょっと寄り道しなきゃらなくなっちまった」


「え?」


「俺の知り合いだ。おそらく、クシャール族に追われているな」


「そんな!? じゃあ、急がないと!」


「そうそうやられるタマじゃねぇんだけどな。仕方ねぇ。行くか」


 駆け出したシゲンの後を追うように全員が走り出した。



 声の響く方向を目掛けてただひたすらに走った。


「た~すけてぇ~」


 悲痛な叫びが聞こえる。次第にその声が明瞭に聞こえるようになった。


「見つけた!」


 ミフユが声を上げると、森の先を指でさした。

 そこには迷彩柄のコートを着て、はち切れそうなリュックを背負った人がいた。

 いや、厳密にいえば人ではない。


 大きな獣のような耳が頭部にある。

 あれは一体。

 そう思っていると、その人の後を猛然と追いかけるクシャール族が目に入った。


 数は六体。こちらよりも多い数だ。


「アパッチ! 助けはいるか!?」


 シゲンが大声で言うと、獣の耳を持つ人が反応した。


「シゲンの旦那!? 頼んます、助けてくだせぇ」


「同業者のよしみだ。助けてやるよ」


 シゲンが言うと、刀に手を掛けて更に足を速くした。

 向かうのは先頭を走るクシャール族の一体。

 シゲンに気付いたクシャール族が足を止めて、威嚇する声を上げた。


「シャーシャーうっせぇな。斬っちゃうぞ、と」


 鞘から抜き放たれた刀がクシャール族の一体を斬りつけた。


「ギャー!」


 気持ちの悪い声が森に響く。

 手痛いダメージを与えたようだ。

 クシャール族の一団から鎧と兜を着けて、槍を持ったものが一体出てきた。


「あいつがボスだな。俺が敵を引き付ける。雑魚から先に始末してくれ」


 そういうとシゲンは刀を横に構えた。


「烈風」


 シゲンの刀が振るわれると、一陣の風がクシャール族を切り裂いた。

 だが、痛手を負ったようには思えなかった。あれは範囲攻撃で敵のヘイトを稼ぐためのものなのだろう。

 ティアは素早く細剣を抜くと、ファントムソードを出現させた。


 狙うはシゲンが切り付けたクシャール族だ。


「シューティング・スター」


 ティアのファントムソードが列になり、手負いのクシャール族に襲い掛かる。

 ファントムソードに斬り刻まれたクシャール族だが、倒れることはなかった。

 頑丈な皮膚を持っているのか、傷は浅いように思える。


 そのことにティアは少なからず驚いていた。

 今までのダンジョンやストーリーの雑魚相手ならば、自分のファントムソードで痛撃は与えてきた。

 それがどうだ。クシャール族には軽い手傷しか負わせていないではないか。


 ティアの攻撃でヘイトが移ったのか、クシャール族の一体がこちらに駆け出した。


「やらせねぇよ」


 シゲンが振り向きざまに、その一体を斬りつけた。

 クシャール族のヘイトがまたシゲンに向いた。


「ライトニングコード」


 ミフユのギターの音が鳴り響いた。

 ギターより発せられた電光がクシャール族に浴びせられた。


「ギャー!」


 再びクシャール族が悲痛の声を上げた。


「モカちゃん!」


 ミフユが言うと、モカが指揮棒を取り出して軽く振った。

 

「妖狐さん」


 モカの傍に現れたのは二股に尻尾の別れた狐であった。

 

「フレイムショット」


 妖狐の口から吐き出された火炎の球体がクシャール族に襲い掛かる。

 火炎が着弾すると爆発が起きた。吹き飛ばされたクシャール族の一体は倒れると塵になって消えた。


「ナイスだ、二人とも。テトラ、回復を頼む」


 シゲンの要請が飛んだ時にはすでに回復の光がシゲンを包んでいた。

 見れば、テトラが光を放つ石板を手にしている。


「ひゅー。反応が早くて助かるぜ」


 ご機嫌の声色でシゲンが言った。

 テトラはそれに応えることなく、攻撃のためのしもべを召喚した。


「レイス」


 ネクロマンサーの召喚できる亡霊であるレイスは、デュラハンとは違いアタッカーである。

 長いコートにフードをかぶった幽霊といった風貌のレイスが、その生白い手を伸ばした。

 その手に紫色の光が宿ると、次第にそれが燃え上がるように膨らんだ。


 レイスの手から放たれた光が、シゲンに襲い掛かろうとするクシャール族の一体に直撃した。

 その光から怨嗟のような声が聞こえた。

 強力な攻撃だったのだろう。明らかに、その一体の動きが鈍った。


 更にミフユの電撃とモカの妖狐の火炎がクシャール族を襲った。

 巧みな連携。それを見ていたティアは自分が蚊帳の外であることを実感した。

 今の自分の力では太刀打ちできない相手。


 初めての経験にティアに悔しさがにじんだ。


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― 新着の感想 ―
飄々としながらも、同業者を助けにいくシゲン。 漢と書いてオトコって感じで、私の好きなキャラです。 サムライというジョブも琴線に触れました。 出たばかりのキャラなのでどういう扱いになるかまだ分かりません…
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