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思わぬ出会いに声を上げたティアを見て、モカも声を上げた。
「えっ!? ティアさん、どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「ハクトさんとケーゴさんに誘われて来たんだけど、モカさんって、ここのギルメンなんですか?」
「はい。ギルド『スプーキー』のメンバーです。もしかして、ハクトさんとケーゴさんが最近一緒にいる方ってティアさんだったんですか?」
モカがハクトとケーゴを見ると、二人とも事態を飲み込めていないようであった。
「二人とも知り合いだったのか?」
ハクトの問いかけにティアが頷いた。
「はい。以前、一緒にデビルと戦ったことがあるんです」
「そうだったのか。世間は狭いものだな」
本当に、その通りだと思った。
モカはエクソシストと言っていたが、まさかハクト達と同じギルドのメンバーだと考えたこともなかった。
「モカちゃん、そんなところに立っとらんで、こっちにおいでや。アップルジュースでええか?」
「はい。ありがとうございます」
モカはティアの隣に座った。
「ティアさん、お元気でしたか?」
「はい。あの、モカさん、私のことお二人から聞いていたんですか?」
「はい。とても楽しい方だと伺ってました。まさかティアさんのことだと思ってなかったです」
すごく楽しいとは、どういうことだろう。
悪いように言っていないことは確かだが。
ハクトとケーゴに湿った視線を向けていると、ケーゴが乾いた笑い声を上げた。
「いやぁ、ティアちゃん、おもろいやん? その話をちょこっとしただけやで、ほんまに。なあ? ハクト」
「俺に振るな。面白おかしく話していたのはお前だ」
「ちょっ、お前、速攻で逃げんなや。ティアちゃん、ほんまにちょこっとやで」
本当にちょこっとか怪しい次第だ。
ケーゴに冷たい視線を向けていると、部屋の奥へ繋がるドアが開いた。
「騒がしいと思ったら、お客さんが来てたの?」
姿を見せたのは、黒髪をアップにして、眼鏡をかけた女性であった。
眠そうな目をした女性にケーゴが言う。
「カーミラ姐さん、来とったんか」
「今、インしたところよ。見慣れない子がいるわね。わたしはカーミラ。ここのサブマスよ」
カーミラがティアを見て言った。
ティアは席から立ってお辞儀をした。
「ティアと申します。いつもハクトさんとケーゴさんにはお世話になってます」
「ああ~、あなたが噂のね。いつも楽しく話を聞いてたわ」
楽しくって。
再びケーゴを睨みつけた。
その視線を無視したケーゴが言う。
「ここにギルマスを加えたら、『スプーキー』のメンバー全員になるんや。な? 小さいギルドやろ?」
ケーゴの言葉に反応したのはカーミラだ。
「小さいとは聞き捨てならないわね。少数精鋭よ」
「物は言いようやな。まあ、わいらが真面目にギルメン探さんのがあかんのやけどな」
「あなた達と合う人はなかなか出てこないでしょうけどね。あ、でも、ティアちゃんとは仲良くしてるってことは……」
ティアを舐めるような視線でカーミラは見ると微笑みを浮かべた。
「ティアちゃん、ギルドには所属してるの?」
「いえ、まだ未所属ですけど」
「じゃあ、ちょうどいいじゃない。『スプーキー』にはいらない?」
「えっ!?」
驚くティアに助け舟を出すようにハクトが口を挟んだ。
「カーミラさん、ティアはまだギルドのことをよく分かっていないんだ。勧誘するのは、まだ先でいいんじゃないか?」
「そんなこと言ってると、他のギルドに取られちゃうわよ? あなた達と仲良くできてるなら、入って欲しいって頭を下げても惜しくないわ」
的を射た言葉だったのか、ハクトはそれ以上の言葉を返さなかった。
ケーゴも悩ましそうな表情を見せている。
「ティアさん、私からも良いでしょうか?」
声を上げたのはモカであった。
「私はハクトさんとケーゴさんの後に入ったので、お二人の事には詳しくは無いのですが、ティアさんと遊ぶようになって、お二人に笑顔が増えたのは間違いないです」
モカがハクトとケーゴを見ると、二人とも照れくさそうな表情をした。
「ですから、ティアさんさえ良ければ、『スプーキー』に入って欲しいです。私もまたティアさんとご一緒できればと思っていましたので」
「モカさん……。ハクトさん、ケーゴさん、良いですか?」
二人は不思議そうな顔をしたが、こくりと頷いた。
「お二人はどうして、私をギルドに誘うようなことを言わなかったんですか?」
「それについてはケーゴと話した結果だ。ティアが望んで、本当に楽しめるギルドに入って欲しいと思ったからだ」
「では、『スプーキー』では、本当に楽しめないと?」
「そうは言ってない。カーミラさんも、モカもいい人だし、ギルマスも信頼できる人だ」
「じゃあ、誘ってくれても良かったじゃないですか」
ティアに押されまくりのハクトは口ごもってしまった。
むう、とティアは腕組みをした。
「お二人がいつも私のことを優先してくれるのは、とても嬉しいです。でも、本当の想いも言って欲しいです。私と一緒にいて楽しくないですか?」
「そんなことはない。楽しいから一緒にいるんだ」
「じゃあ、ギルドに入ってほしいって思わなかったんですか?」
「それは……」
ハクトが助けを求めるようにケーゴに視線を向けた。
そのケーゴも返す言葉を探っているようであった。
観念したようにハクトが一つ息を吐いた。
「入ってほしい……と思っていた」
「それなら、言葉にしてください」
「……そうやな」
ケーゴが重い口を開いた。
「女ん子に、そこまで言わせたらあかんわな。なぁ? ハクト」
「……分かった」
ケーゴの言葉を受けたハクトが、その真剣な眼差しをティアに向けた。
自分のわがままで、無理に言わせているのかもしれない。でも、素直に言ってほしい。
抱いている想いを言葉にして受け取りたかった。
「ティア、俺達のギルドに入ってくれないか?」
曇りのない瞳で発せられたハクトの言葉が胸に刺さった。
予想していた言葉だが、本当に欲しかった言葉だったと思った。
初心者の自分に気を使って一緒にいてくれているのかと思っていた時もあった。
二人の好意に甘えているだけなのではないかと思っていた時もあった。
でも、違った。楽しかったのは、自分の一方通行の想いではなかった。
目頭が熱くなり、一筋の涙が流れた。
「はい。よろしくお願いします」
こうして私は『スプーキー』のギルドメンバーとなった。




