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テレポートでリンデンに到着したティア達は、ハクトとケーゴの所属するギルドのギルドハウスへと向かった。
ヘリオットに行ってしばらくたっていたため、リンデンの霧がかった街並みに懐かしさを感じた。
リンデンの市街地の外れに到着すると、先導するケーゴが一つの看板の掲げられた店の前で止まった。
看板には『スプーキー』と書かれている。
「ここがわいらのギルド、『スプーキー』の根城や」
「お店じゃないんですね。ギルドハウスって言うくらいだから、家だとばかり思ってました」
「せや。街中にもギルドハウスを構えることができるんや。まあ、値が張るんやけどな」
そういったケーゴがギルドハウスのドアを開けて、ティアに入るように促した。
ぺこりと頭を下げたティアは中に入ると、ギルドハウスの内装を見て感嘆の声を上げた。
「わぁー、すごい。バーみたいですね」
「せやろ。ギルマスの趣味なんやけど、なかなかええもんが揃っとるんや。飲み物だしたるから、カウンター席に座っとき」
「ありがとうございます。こういうお店、来たことないから憧れてたんですよね」
ケーゴはカウンターの内側に行くと、グラスと瓶を手にした。
瓶から注がれたのはアップルジュースであった。
「ティアちゃんはジュースで我慢してな。わいらは酒を飲ませてもらうわ」
「ありがとうございます。いただきます」
全員で喉を潤すと、今日のイベントの話になった。
「あんなに暴れることになるなんて、思ってもみなかったですよ」
ティアの言葉にハクトが頷く。
「そうだな。お祭り的なイベントとはいえ、やるなら真剣に、と思うやつらが多いからな」
「次にやるときは、もっと慎重にやってもいいですね。次もテトラくんを誘おうかな」
「それがええ。ティアちゃんも、少しづつフレンドが増えとるみたいで良かったわ」
うんうん、と頷くケーゴ。
ティアはフレンドリストを出して、今の関係を思い出す。
ハクトとケーゴと一緒にいることが多いが、ミフユとも一緒に遊ぶこともある。
モカとはデビルの事件以降、会ってはいないため、今度、メッセージを送ってみてもいいかもしれない。
テトラは一見不愛想だが、気づかいのできる優しい男の子だ。
こうやって色々な人と、色々な思い出を築いていくのだろう。
思い出といえば、テトラが言っていたことを思い出した。
「ハクトさん、ケーゴさん、テトラくんが言っていたんですけど、金狼と銀狼ってなんですか?」
そう聞くと、二人ともグラスを傾ける手が止まった。
「また懐かしいあだ名やな」
「ああ。久しぶりだ。まだ知っている奴がいるなんてな」
グラスをカウンターに置いた二人は、昔を懐かしむように遠い目をした。
その目は少し悲しそうに見えた。
「あの……、悪いこと聞いちゃいましたか?」
「いや、実際、そう呼ばれていた時期があったからな」
ハクトがグラスに目を落としながら言った。
「わいが金狼で、ハクトが銀狼や。髪の色からつけられた名前やな」
なるほど。たしかに金髪のケーゴに銀髪のハクトだから、そんな名前がつけられたんだ。
妙に納得していると、ハクトが言う。
「他には赤鬼と青鬼とか呼ばれていたやつもいたな」
「白猫に黒猫もな。久しゅうおうてないわ」
「ログインはしているようだな。懐かしいな」
ハクトがフレンドリストを見ながら言った。
二人は今まで見たことのない表情をしていた。
思い出に浸っている二人に掛ける言葉が見つからないティアは、ジュースを一口飲んだ。
「すまない。面白い話ではないな」
詫びるハクトに、ティアは首をぶんぶんと横に振った。
「そんなことないです。お二人の昔の話って聞いたことがなかったから、嬉しいです」
「そうか。ギルドが解散して、もう二年になるのか。早いものだ」
「あの、もう少し聞いていいですか?」
ハクトは目を丸くしたが、すぐに頷いた。
「どんなギルドだったんですか?」
この言葉にハクトとケーゴは唸り声を上げた。
そんなに言葉に悩むギルドなのかと、少し心配になった。
「思い返すと、あんまりええ思い出ないなぁ」
「ああ、俺もだ」
「そ、そうなんですか?」
思わぬ回答にティアは若干引いた。
言葉をひねり出すようにハクトが言う。
「一言で言うと、ギルマスがわがままだったな」
「わがままですか?」
「ああ。自分の生き方にわがまま、だったと言えばいいかな。なんでも思い通りにしてみせようとするんだ。それも周りを巻き込んでな」
ハクトの言葉にケーゴが同調する。
「せやな。その代わり、努力家でもあったんや。あいつに引っ張られて、皆が振り回されとったわ」
「俺たちがエクソシストって言われるようになったのも、ギルマスが言い触れ回ったからだ。最初は恥ずかしい思いをしたものだ」
「そうやったな。今でこそ浸透したからええけどな」
そういうと、二人は笑った。
口ではいい思い出はないと言っても、心の中ではきっと輝いた思い出があるに違いない。
そう思わせる笑顔だった。
「その人って、今は――」
ティアが言いかけたところで、ドアの開く音がした。
「ただいま、帰りました」
そこには見たことがある人物がいた。
ティアは思わず声を上げる。
「モカさん!?」




