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 ハクトの発した言葉の意味がすぐには理解できなかった。

 呪い。強運の持ち主なら、それは良いことなのでは。欲望の道具にされるって。

 様々な疑問が頭の中で反芻する。


 そのことが分かったのだろう。ハクトが寂しげな笑みを見せた。


「すぐには分からないだろう。だけど、今は俺を信じて黙って付いてきてほしい」


 信じて欲しいなんて、そんな卑怯な言葉を。

 切実な表情も相まって、断る言葉なんてでてくるはずもなく、ティアは黙って頷いた。



 二人はリンデンの街中を歩き回り、南門までたどり着いていた。

 ここに至るまでハクトはしきりに周りを気にしていたが、それが何に対してのものなのかも聞けずにいた。

 南門は堀に橋が架かっており、多くの人々が往来していた。


 その中で、子供たちが楽しそうにはしゃぎながら外へと駆けていく姿が見えた。

 加護の話をするまではティアも、そのような気持ちだったと思うと少し悲しくなった。


「すまない」


 暗くなった表情を察したのか、ハクトが言ってきた。


「いえ……。あの――」


「分かっている。ケーゴと合流したら話す」


 ハクトは言うと壁にもたれかかり、静かに目を閉じた。

 何を考えているのか。推し量ることのできないティアは、同じように壁にもたれかかった。


「おそなって、すまん。こっちは大丈夫そうや。そっちは?」


 ケーゴがこちらに向かってきながら声を掛けてきた。


「こっちも大丈夫そうだ。……街の外に出て話そうか」


 ティアは小さく頷いた。


「すまんな、ティアちゃん……」


 その様子を見てケーゴも思うことがあったのか、小声で言った。

 三人でリンデンの外へと向かう。橋を渡り終えると、整備された道を逸れたところで足を止めた。


「ここら辺でええか。ティアちゃん、あんな、君の加護は端的に言うとヤバいんや。加護の中で一番すごいんやけど――」


「呪われている……ですか?」


「……そうか。ハクトから少しは聞いとるみたいやな」


「皆の欲望を叶えるための道具とも聞きました」


 ケーゴに不満をぶつけるように言ってしまった。

 でも、言わずにはいられなかった。たったあれだけしか伝えられず、ここまで連れ回されたのだ。

 誰かに、このモヤモヤをぶつけたかった。


 額に手を当てたケーゴはため息を吐いた。


「そんな言い方したら、ティアちゃんが怒るのもしゃあないな。でも、ハクトが言う通りや。七星ってのは、隠しステータスの運を高める唯一の加護なんや」


「運って、運がいいとかの運ですよね?」


「そうや。基本的には運のステータスは人によってあまり変わらん。ただ、七星だけは別なんや。運が強いって言われたら、どんなことを想像する?」


 言われたティアは少し考えた。


「宝くじに当たるとか、事故にあっても怪我をしないとかでしょうか?」


「そんな認識でええ。この世界でいえば、クリティカルの発動率、レアアイテムのドロップやレアモンスターとの遭遇率も変わってくるんや」


「悪いことではないと思うんですけど?」


「せやな。でも、それが自分だけやなかったら、どうや?」


 どうや、と言われても。

 もし、自分だけでなく、他の人も運が良くなるなら、一緒にいたいと思ってしまうかもしれない。

 その考えに至った時、気づいてしまった。そういうことだったのか。


「欲望を叶えるって」


「そうや。レアアイテムが欲しい、レアモンスターと遭遇したいとか、欲望は人それぞれやろうけど、七星の加護を受けた人間の周りには欲望を抱えた人間でごったがえすで」


「じゃあ、ハクトさんが私に黙っていろって言ったのは……」


 視線をハクトに向けると、目を閉じて黙って聞いているだけだった。

 もし、大聖堂で七星の加護だったと声高に言ってしまい、他の人に知られてしまえば色々な人に、その力を利用しようと狙われるかもしれない。

 それが分かっていたから、ハクトは強引に大聖堂から連れ出したんだ。


「まあ、こいつの説明が悪かったってのも大きいけどな。ティアちゃん、すまんな。そういう事情やったんや」


「いえ、知らなかったとはいえ、ケーゴさんやハクトさんに失礼な事を――」


「ええてええて。こっちにも落ち度はあるんやし」


「ありがとうございます。ハクトさん、ケーゴさん」


「なんや照れくさいなぁ。ほれ、お前からも何か言えや」


 話を振られたハクトが閉じた目を開いた。


「悪かった。まさか七星が出るとは思ってなかったからな。君には怖い思いをさせた」


「あ、大丈夫です。心配してくれて、嬉しいです。あの、これから私はどうしたら?」


「ステータスの加護の情報を非表示にしよう。それで、他人からバレることはなくなる」


「分かりました。すみません、非表示のやり方って――」


 言いかけた時、頭の中にノイズのような音が聞こえた。


(ハロー、冒険者の諸君。ご機嫌いかがかなぁ?)


 気怠そうな男の声が聞こえた。

 女神イシュテムの時と同じように頭の中に響く声。

 一体、これは。


(私はひじょ~に悲しい思いをしている。君達は子供を失った親の気持ちが分かるかね? 私に子供はいないが、大切な存在はいる。もし、殺されでもしたら、世界を破壊するだけではすまない衝動に襲われるだろう)


 やたらと演技くさかった。何が言いたいのか分からないけど、ハクトとケーゴは眉を潜めている。


(それほど悲しい思いを抱いた者が、今まさに私の前にいる。言いたいことは分かるかね?)


 さっぱり分からない。

 そう思ったけど、ハクトとケーゴは思い当たる節があるのか忌々しそうな表情を浮かべた。


「ちっ! 今日の『デビル』が弱かったんは、ガキやったちゅうことかいな」


「ああ。ということは、本命が」


(さぁ、怒りを解き放ちたまえ。衝動のままに暴れまわるがいい! 悪魔・ビヒーモス!)


 男が言うと、ビシビシとガラスにヒビが入るような音が空から響いた。

 見上げると、空に大きなヒビが入っている。これはまさか。

 ひび割れが広がり、それが割れると空に大きな穴が出現した。

 

 その穴から姿を見せたのは、憤怒の表情をした仮面が顔に張り付いている、巨大な化け物。


「『デビル』!?」


 現れた巨大な『デビル』は咆哮を上げると、周囲に爆炎を巻き上げた。



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