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モンドは爽やかな笑みを見せた。
「モンドさん!? お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ええ。ティアさん、早速で申し訳ありませんが、私のギルドのマスターとお会いいただけないでしょうか?」
「えっ? 私とですか?」
モンドはこくりと頷いた。
私とどうして話したいのだろうか。
まさかギルドに入ってくれって言われるんじゃ。
悩むティアにモンドが催促するように言う。
「ティアさん、ここにいては人の目につきますので、良ければギルドハウスにお越しください。話はそこに向かう間に詳しくします」
そうだ。ここで喋っていたら、また囲まれてしまうかもしれない。
ティアはモンドの提案に了承して、モンドについて行くことにした。
ヘリオットの街を足早に歩きながら話を続ける。
「あの、モンドさんのギルマスさんは、どうして私と話をしたいと?」
「すみません。そこまでは伺っていません。マスターは私から貴女の話を聞いて以降、ずっと興味を持たれていたのです。しばらくリンデンを探していたのですが、ヘリオットにいらっしゃると話を聞いて飛んできました」
「そうだったんですか。ギルドハウス? は、近くなんですか?」
「はい。幸い、ヘリオットの近くにあります」
ヘリオットの門を出ると、すぐ傍に大きなお屋敷が見えた。
モンドはまっすぐ、そのお屋敷へと向かったので、慌てて後を追う。
お屋敷の門に立つ衛兵がモンドに気付くと、扉を開けて敬礼した。
規律の取れた軍隊のようだと思っていると、さらにモンドは奥へと進んでいく。
お屋敷の玄関のドアを開けると、ティアを中に招き入れた。
玄関ホールに通されると、メイドが一人モンドの傍に来た。モンドはメイドに話をして、ティアに向き直った。
「ティアさん、あとはこの者に付いて行かれてください。お帰りの際にはまたお見送りしますので」
そういうと、モンドは後をメイドに託した。
メイドから、こちらへと言われたので、それに従い、メイドの後について歩く。
広いお屋敷を歩き、一つの部屋へと通された。
なかに入ると、執務室と思われる部屋のつくりをしていた。
執務机にいたのは、長いブロンドヘアの美しい女性だった。
ティアに目を向けた女性が立ち上がった。
「よく来てくれた。礼を言わせてもらう。私はギルド『スノーフレーク』のマスター、アンネマリーだ」
「私はティアと申します。今日はお招きいただき、ありがとうございます」
突然のお誘いではあるが、このようにスムーズに対応できるのは、アレルトの指導の賜物だと思った。
アンネマリーが応接用のソファに座るように促したので、ソファに小さく座った。
その様子を見ていたアンネマリーが小さく笑った。
「すまない。マスター・アレルトの教えを忠実に守っているのだな」
「アレルトさんのことを知っているんですか?」
「何度か話す機会があってな。噂に違わぬお人だった」
どんな噂が流れているのか分からないが、きっとマナーに厳しいということだと思った。
ティアは出された紅茶を一口飲むと、アンネマリーが会話を切り出すのを待った。
「今日来てもらったのは、他でもない。もしよければ、私のギルドのメンバーになってみないか?」
「ギルドメンバーへのお誘いでしたか。あの、嬉しいのですが、まだどこに行くかは決められません」
「そうなのか? 何か事情があれば話してもらえないだろうか?」
ティアは今日あったことを話して、今の考えに至ったことを伝えた。
その間、アンネマリーは静かに話を聞いていた。
話を終えると、「ふむ」と一言いった。
「それはタイミングが悪かったな。すまない。配慮が足りなかったな」
「あ、いえ、こちらこそ、お招きいただいたのにすみません」
「モンドから話を聞いたときに、すぐ動くべきだった」
「モンドさんからは何とお聞きしていたのですか?」
ティアの質問にアンネマリーがあごに手を当てて少し考え込んだ。
「才能に溢れた人物だと、べた褒めしていたよ。基本に忠実だが、機知に富んでいるともな」
「え? そんなことないと思います」
ティアは顔を赤くして、必死に否定した。
その様子を見て、アンネマリーが笑う。
「モンドは正直なヤツだからな。感じたままのことを言っただけだ。それで興味を持っていたのだが、まさかユニコーンを従えているとは。こんなに近くにいたのに、そのような話を聞き洩らしていたとは、私もまだまだだな」
「いえいえ。こんな大きなお屋敷を持たれているくらいですから、お仕事がお忙しいと思いますし」
「ありがとう。組織が大きくなるのは嬉しいが、厄介事も増えるからな。君のような有望な者に支えてほしいと思っていたのだ」
「いえいえいえ。そんなことはないです」
ティアの否定も謙遜と取られたのか、アンネマリーは優しく微笑んだ。
「もし、気が変わったら言ってほしい。君ならいつでも歓迎する」
「ありがとうございます。その時は、よろしくお願いします」
「ああ。その時が来てくれることを祈っているよ。これ以上、時間を割いてもらうのも申し訳ない。モンドを呼ぼう」
アンネマリーがそういうとベルを鳴らして、メイドを呼んだ。
しばらくすると、モンドが部屋に入ってきた。
「客人のお帰りだ。丁重にお返しするようにな」
「はい。承知いたしました。ティアさん、行きましょう」
モンドに言われて、ティアは部屋を後にした。
お屋敷の中を歩いていると、モンドが会話を振ってきた。
「マスターとのお話は何だったのですか?」
「ギルドへのお誘いだったんですが、お断りさせていただきました」
「そうでしたか。私もティアさんのような方に来ていただければ、さらに組織が盤石になると思うのですが、無理強いはできません。またの機会があれば、ぜひともご検討ください」
「ありがとうございます」
お屋敷を出て、門をくぐり、ヘリオットへと戻ってきた。
そこでモンドが思い出したように言う。
「そうだ。今度イベントで、4人1チームでのチーム戦がありますが、それに参加されてみないですか?」
「チーム戦ですか? 出てみたいです。モンドさんも参加されるんですか?」
「はい。誰と組むかは決まっていないですが」
「どんなイベントなのか楽しみです。あ、ここでいいですよ。送っていただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、お付き合いいただき、ありがとうございました。それではまた」
去っていくモンドに小さく手を振っていると、ティアに近づく女性がいた。
「あの、ティアさんですよね?」
「はい。そうですけど?」
女性はパッと笑みを咲かせた。
「良かった。うちのギルドに来てくれませんか!?」
「ひぇ~。ごめんなさ~い」
ヘリオット中を駆け回ることになったティアであった。




