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 ヘリオットを活動拠点としてクエストを進行していたティアのレベルは24まで上がっていた。


 今日はハクトとケーゴがログインできないという日だったので、サブクエストを中心に行っていた。

 お使いやモンスター討伐にいそしんでいると、レベルが25に上がったとの通知が届いた。

 その通知の次に届いたのが、『ギルド機能解放』という文字であった。


「ギルドって、あのギルドかな?」


 色々な人が集まってチームを作るようなものを、このゲームではギルドと呼んでいる。

 最大100人まで加入することができるらしい。そこまで人が集まれば、一つの会社のような規模になってしまう。

 ギルド運営って大変そうだなぁ。と他人事に思っていると、ティアの前に一人の男性が立った。


「あの、俺達のギルドに入ってくれませんか?」


「えっ? ギルドですか?」


 唐突の申し出に驚いていると、男性の横から女性が割り込んできた。


「抜け駆けしないでよ。私も待っていたんだから。ティアさんよね? 私達のギルドに来てみない?」


「ちょっと待って。こっちも聞いてほしいんだよ」


 ティアの周りにどんどん人が集まっていく。

 誰もがティアに自分たちのギルドに来ないかと、勧誘をしてきた。

 ギルドに入ることなど考えていなかったティアは、ひたすらあわあわとしていた。


 勧誘の声が一層大きくなった時、人だかりの奥にいる一人のローブを羽織った男の子が手招きをしているのが見えた。

 このままではギルド勧誘の人達に押しつぶされてしまうかもしれない、と思ったティアは謝りながら人だかりを抜けた。

 ティアが男の子の元へ行くと、男の子は小さく言う。


「こっちだ。付いて来て」


 小走りで駆け出した男の子の後を追う。ヘリオットの街中を歩き回ることで、勧誘の追手から逃げ切ることができた。

 建物の陰に隠れて一息ついたティアは男の子のにお礼を言う。


「ありがとう。助けてくれて。私は――」


「ティア、でしょ。知ってるよ」


「えっ? 何で知っているの?」


 ティアは面食らったような顔をすると、男の子はため息を吐き、首を横に振った。


「自覚なしか。君はここらでは有名人なんだよ?」


「有名人? どうして?」


「どうしてって……。ジョブマスターを超えるファントムソードを持ち、ユニコーンを従えた、新進気鋭のファントムフェンサーって君でしょ?」


「私のことかなぁ」


 新進気鋭と言われるとよく分からないが、事実としてファントムソードは十本だし、ユニコーンにも乗っている。

 だが、それでなんで有名人になるのだろうか。

 理解が追いつかないティアを見て、男の子は呆れ顔を見せた。


「本当に自覚なしってことか。一番怖い奴だね。言いかい? ジョブマスターを超える才能を持っているだけでもすごいのに、幻獣のユニコーンを従えているんだよ。そんな有力な新人がいれば誘いたくもなるもんさ」


「私、有力かな?」


 一緒にいるのが、ハクトやケーゴなどのレベルカンスト組だし、ミフユも高レベルだからお世話になることばかりだ。

 だから、飛びぬけて強いと思ったことはないし、まだまだという実感だけはある。

 それがここに来て、周りからそんな評価を受けていたなんて驚きだ。


「同レベルの人達とあんまり自分を比べたことないから、よく分からないや」


「まあ、周りにいるのが、銀狼と金狼じゃあ、そう思ってしまうのも仕方ないか」


「銀狼と金狼?」


「ハクトとケーゴの二人だよ。昔のあだ名さ」


「へー、知らなかった」


 男の子はこの言葉にも肩を落とした。

 なんど、この子をがっかりさせればいいのだろうか。

 ティアは変な心配をしてしまった。


「まあ、知らないのも無理ないか。昔は有名だった、だからね」


「そうなんだ。良く知っているね。プレイして長いの?」


「それなりにね。って、君の話をしていたんだった。なんかペース乱れちゃうなぁ」


 男の子は手で顔を覆って、頭を振った。

 仕切り直しのように顔を引き締めて言う。


「君をギルドに誘いたい連中がこれから、ごまんと来るだろう。どこかのギルドに入るか、ギルド勧誘設定を拒否にしておくといいよ」


「ありがとう。どうして助けてくれるの?」


「気が向いたからさ。ああ、あと、名乗っていなかったね。僕の名前はテトラだ」


 テトラはそういうと、わずかに口角を上げた。

 それを見てティアは、テトラを良い人だと思った。

 人を助けることは、下心なしではなかなかできることではないと思うからだ。


「ありがとう、テトラくん。あの、良かったら、そのギルド勧誘設定の拒否だっけ? どうしたらいいか教えてくれない?」


「仕方ないな。ほら、ステータス画面だして」


 言われるままティアは、ギルド勧誘の設定などを拒否に変えた。


「これで大丈夫だよ」


「ありがとう。テトラくんはギルドに入っているの?」


「いいや。僕は流れ者が性に合ってるみたいでね。でも、入ると恩恵が色々あるから、明確な理由がなければ入っておいた方がお得だよ」


「そうなんだね。ん~、悩むなぁ」


「ギルドに入ると人間関係ができるから、煩わしいと思う人もいる。ストーリーを楽しむだけなら、ギルドへの加入は必須じゃないしね」


 ティアはさらに困り顔を見せた。

 ギルドに入ることによるメリットと、入ったことによるデメリットがどの程度のものなのかが分からない。

 また申し訳ないが、ハクトとケーゴに相談しよう。


「私、ちょっとまだ考えてみる」


「いいと思うよ。それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。またどこかで会ったら、よろしく」


 そういってテトラは建物の陰から出て、大通りを歩き出した。

 ティアは大通りに出る前に辺りを確認して、歩き始めた。

 またどこで声を掛けられるか分からない。誘われたら、キッパリと断らないと。


 深呼吸をしていると、不意に後ろから声を掛けられる。


「ティアさん」


 早速見つかった。と思って、振り返ると、そこには見知った顔があった。


「武闘大会以来ですね。お元気にしてましたか?」


 モンドであった。


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