34
闇に覆われた部屋の中には丸い大きなテーブルと、四つの華美な椅子が置かれていた。
その一つの椅子に、もたれるように寄りかかっているウルブラッドがいた。
この部屋に来ることができるのは悪魔四大貴族だけである。あとは、その四大貴族の誰かが呼びつけたときだ。
今回、ウルブラッドは呼ばれた側であった。呼びつけた者はまだ来ていない。
ウルブラッドの息遣いだけが聞こえる中、コツコツと音が響いた。
音のした方を見ると、小柄で人の良さそうな老人が近づいてきていた。
「ブブルゼム。久しぶりだね。元気にしていた?」
「うむ。ぬしは優しいのぉ。他の奴らにも気づかいというものが欲しいわい」
老人もウルブラッドが座る椅子とは別のものに座った。
「老人を呼びつけるとは、さぞかし面白い話があるのじゃろうな」
「どうだろうね。世間話をしたい面子じゃないことは確かだしね」
「ぬしもなかなか言うではないか」
ブブルゼムは楽しそうな笑い声を上げた。
会話が一区切りすると、気取った足取りでグリードリッヒが姿を見せた。
「やあ、諸君、ご機嫌いかがかな?」
「グリードリッヒ。今日は何の用だい?」
「いや、今回は私ではないよ。ここにいる者たちでないのなら、残るは――」
グリードリッヒが言いかけた時、ガチャリガチャリと金属が触れ合う音がした。
全員の目が一点に向く。そこには、2メートル以上の大男が立っていた。
燃えるような赤い髪の大男が周りを見回す。
「全員いるようだな」
「ヘルダイン、君が呼び寄せたんだね」
「そうだ。今後のことについて、貴様らに話だけは通しておこうと思ってな」
ヘルダイン。悪魔四大貴族の中で一番好戦的な者だ。
何を企んでいるのか。ウルブラッドは静かに話を待った。
「俺は今、デビルの軍団を編成している。練度がまだまだだが、完成の暁にはエクソシスト共に遅れは取らんだろう」
「デビルの軍団? ずいぶん大変そうなことをしているじゃないか。デビルに団結精神が宿っていたとは知らなんだ」
ヘルダインを小ばかにするようにグリードリッヒが言う。
デビルは基本、個々で勝手に動くことが多い。生み出した親の四大貴族の命令は聞くには聞くが、軍団を作れるほどとは考えてなかった。
「無論、他の者と足並みを揃えて動けるデビルは少ない。だからこそ、難航しているが、実現が不可能ではない所まで来ている」
「その口ぶりから、随分と苛烈なことをしたんじゃないか?」
低く笑うグリードリッヒを、ヘルダインがギロリと睨みつけた。
「見せしめというのは必要なものだ。少数の死で多数がまとまるなら、それは無駄な死ではない」
「見せしめ? ヘルダイン、君はデビルを殺したのか?」
「ああ。殺した」
ヘルダインはウルブラッドに事も無げに言い放った。
同胞を簡単に切り捨てたと聞いて、苛立ちをウルブラッドは覚えた。
「君から生まれたデビルだったんだろう? 心は痛まないのかい?」
「そんな甘っちょろい考え方をしているから、デビルはエクソシスト共に葬られるのだ。戦いは数だ。それも規律を守れる者達によるな」
「デビルは許しを乞うたんじゃないのかい?」
ウルブラッドの言葉を聞き、ヘルダインは鼻で笑った。
「俺が生み出した存在だ。どうしようが俺の勝手だ」
これがヘルダインの考え方だ。
デビルは四大貴族から生み出されるものである。いわば、自分の子供。または、自分の分身と言ってもいい。
そのデビルをどう扱うかは、個々に委ねられるが、ヘルダインは毛ほども気にはしていないようだ。
「お前の意見に私は賛成だなぁ。なんてったって我々はデビルだからね。人を苦しめることが存在理由なのだから」
ヘルダインの考えに同調したのは、グリードリッヒだ。
また楽しそうな笑みを浮かべた。
「考えてもみたまえ。悪魔の軍団ができあがれば、世界を焼き尽くせるかもしれない。我々に欠けていた団結力をヘルダインが見せてくれようとしているんだ。ありがたい話じゃないか」
「もとより、お前たちを信用はしていない。世界を滅ぼすのは俺だ」
「大言壮語にならないように気を付けなければなぁ。なら私は今まで通り、冒険者共の苦しむ顔を見て楽しんでいるとしよう。ウルブラッドとブブルゼムはどうするんだ」
試すような目をグリードリッヒは見せた。
先に答えたのは、ブブルゼムだった。
「わしもぬしと同じじゃな。もとよりわしのデビルたちは災害や災厄をもたらす者達ばかりじゃからの。軍団向きではないわい」
「ブブルゼムのデビルの方が質が悪いと思うがねぇ。ウルブラっド、最後は君だ」
「僕はどちらでもないよ。この世を破壊したくはないけど、壊そうとするのも止めない。好きにやってくれて構わない」
ウルブラッドの言にグリードリッヒが声を上げて笑った。
「相変わらずだな。お前だけだぞ? デビルで人を襲っていないのは」
「そうだね。私は彼らを愛している。死なせたいとは思わないね」
「ふっ。まあいいさ。やらなければいけない時がきっと来るだろうよ。その時が楽しみだ」
ウルブラッドが常に考えていることを言われた。
その時が来たら、自分はどうするのか。まだ答えは闇の中だ。
これ以上の議論はなさそうだと判断したウルブラッドは席を立った。
「それではお先に失礼するよ。ヘルダイン、君の軍団ができあがると良いね」
心にもない言葉をウルブラッドは放つと、部屋から消えた。




