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ユニコーンが去った後、ティアは手に持っているブレスレットをハクトとケーゴに見せた。
「ユニコーンから、これを貰ったんですけど」
「これは」
ハクトが息を飲み、ケーゴは目をしばたたかせていた。
「ティアちゃん、これは信頼の証やで」
「それだけじゃない。ステータスの上昇と、ステータス異常に対する耐性付きだ。ユニコーンを倒した時に手に入るアイテムと同じ効果だ」
「えっ!? 信頼の証って、あの子を呼び出せるんですか?」
ティアは言うと目を大きくし、ブレスレットをもう一度見た。
細かな細工が施されたブレスレットは、見た目だけでも貴重な一品であることは分かる。
ケーゴがあごに手を当てて言う。
「せや。やけど、信頼の証にアイテムの効果が付くんやな」
「普通に倒して手に入れるアイテム以上のものだな。ティアがユニコーンに優しくしたお返しだろう」
「そんな貴重な物を貰っていいんでしょうか?」
返そうにも返す相手がいないが、さすがに自分の身には余るものだと思った。
ハクトは首を縦に振った。
「ティアだからこそ、貰ってほしいんだと思うぞ」
「分かりました。ありがたく貰おうと思います」
「マウントユニットとしても呼び出しが可能なはずだから、その時にも優しくしてやるといい」
「はい。優しくしたいと思います」
ティアが微笑むと、二人も嬉しそうな表情を見せた。
ふと、ティアが思い出したように言う。
「帰り道って分かりますか?」
「あっ……」
呆けた声を上げたハクトであった。
◇
マップを見ながら何とか元の道に戻った一行は、ヘリオットへ向かった。
旅は順調に進み、ついに森の都ヘリオットへとたどり着いた。
森の都と呼ばれる通り、都市の周りは木に囲まれており、開拓された土地には木造の建物が並んでいる。
リンデンと同規模の都市が、このような森の中にあることにティアは驚きを感じた。
道行く冒険者の数もリンデンと比べて多いことから、ヘリオットが人気の都市だということがうかがえた。
「すごい冒険者の数ですね」
ティアが周りの様子を見て言った。
「リンデンとはちゃうやろ? 『ユニティ』の中で一番人気の都市やからな」
「はい。でも、人気な理由も分かります。自然豊かで、いるだけで落ち着くというか、心地いいですよね」
「せやなぁ。わいも最初はここをホームポイントにしとったからなぁ。ここに来ると初心者やった頃を思い出すわ」
ケーゴは周りを見て懐かしむように言った。
すれ違う冒険者の中には初心者と思しき者たちも目立つ。
ここからスタートして、色々な冒険に出るのだろうな。と少し感慨深い思いをした。
「そういえば、ハクトさんは最初はどこから始めたんですか?」
「俺はオアシスの都サハリだった。流通の拠点となっている土地だから、ここ以上に人が行き交っているいるんだ」
「へぇー。そこにも早く行ってみたいです」
「活気があっていい街だ。楽しみにしていていいぞ」
言葉を交わしていると、ケーゴが一つの大きな建物を指さした。
「あれがヘリオットの冒険者ギルドや。早速、入ろか」
冒険者ギルドの中に入る。
外で見てきたことから、冒険者の数が多いと思ったが、中は予想以上であった。
多くのテーブルは、それを囲んだ冒険者たちで活気に満ちていた。
「中もすごい人の数ですね」
「まったくやな。前よりも人が多なっとるわ。ティアちゃん、絡まれんように気いつけえな」
「はい。気を付けます」
人にぶつからないように歩いて、カウンターで冒険者と話している女性の傍まで行く。
ティアの視線に気づいた女性は冒険者との話を切り上げた。
「初めて見る顔だね。何か御用かな?」
「はい。リンデンの冒険者ギルドにいるセーヌさんから紹介状を貰ってきました」
「セーヌからだね。ちょっと見せてもらうよ」
女性はティアの手から紹介状を受け取ると、封を破って手紙に目を通した。
「へぇ。リンデンでの亡霊騒ぎを収束させたのが、君なんだ。じゃあ、ここでもひと活躍してもらいたいね」
「頑張ります」
「ははは。私はハーネル。よろしくね」
「よろしくお願いします」
ハーネルは快活な笑みを見せた。
これからまたイベントが始まる。どんなイベントが私のことを待っているのだろう。
期待に心を躍らせ、ハーネルから話を聞く。
ティアはヘリオットでの活躍の第一歩を踏み出した。




