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分裂したデビルの群体の数は、それほど多くはない。
だが、三人でやれるかと考えると、分からない。
エクソシストのモカ、高レベルプレイヤーのミフユならば戦えるだろうが、ティアはまだレベル10のひよっこだ。
まともに戦えるのだろうか。
一抹の不安を覚えていると、デビルが狙いを定めたように空からじわじわと高度を下げていく。
視線を彼方に向けると、そこには金色に輝く穀倉地帯が見えた。
あれを食べようというのか。バッタの群れが食料を食べつくすようなイメージが思い浮かんだ。
デビルとの距離はかなり縮まっている。
仕掛けることができる距離になったのか、モカの乗る狼が足を緩めると、モカが飛び降りた。
そうして、指揮棒を取り出すと、音楽を指揮するように空中で振るった。
「妖狐さん!」
ぼわっと火の手が上がると、そこから尻尾が三本あるキツネが姿を見せた。
「フレイムブラスト!」
キツネがデビルに向かって、口から大量の火を噴いた。
炎によって焼かれるデビルは、モカを敵と捉えて先頭の向きを変えた。
再び、モカが指揮棒を振った。
「フレイムショット」
キツネが口から三発の火球を飛ばした。
直撃したデビルが散り散りになって消えていく。
だが、まだ数は多い、
馬から降りたミフユがギターを手にすると、演奏を始めた。
ギターに電撃が宿る。
「ライトニングディフィンサー」
電撃がモカの前方に向かって飛んでいく。
そこに電撃のネットが広がると、そこに突撃したデビルがバチバチと音を立てて燃えていく。
さらに演奏は続く。
「ライトニングコード」
電撃がギターから飛ぶと、これもデビルの一群を感電死させた。
たまらず遠のくデビル。そこに追撃をかけるモカ。
「エクスプロージョン!」
キツネの口に炎が蓄えられると、その炎を一気に放った。
幾筋もの炎の線が伸びていくと、デビルに着弾したところから大爆発が起きた。
これで大部分が死滅した。
もう終わりか。そう思った時、爆発の煙を突破したデビルがモカに迫る。
まるで特攻だ
モカと刺し違えようとしている。
それにモカは対応できないのか、防御の構えを取った。
まずい。とっさにモカの前に飛び出したティアは、ファントムソードを出現させた。
だが、どうする。
シューティング・スターでは直線上の敵しか倒せない。
フェザー・スラッシュは横一列への攻撃だ。
面で迫ってくる相手にどう戦えば。
バラバラにファントムソードを飛ばしても、勢いを止められるものではない。
勢いを止める。先ほどのミフユの技のように面で防ぐことができれば。
ティアはファントムソードを自分の前に持ってくると、刃で面の盾を作った。
一つの形にして、一つの指示ならばシューティング・スターと同じ要領だ。
「回れっ!」
ティアはファントムソードを高速で回転させた。
それと同時にデビルがファントムソードの盾にぶつかった。
ファントムソードに切り刻まれるデビル。
だが、デビルの圧に耐え切れないのかファントムソードに亀裂が入った。
このままでは、ファントムソードが崩れてしまう。
耐え切れないと思った。しかし、ここで負けるわけにはいかない。
耐えて私のファントムソード。
ティアの願いが届いたのか、デビルの攻撃をしのぎ切った。
空に戻ったデビルの一群は少数となっていた。
デビルは不利を悟ったのか、元来た方向へと進路を変えて飛び去って行った。
「勝った?」
ティアが信じられないような口調で言った。
「勝ったね」
ミフユが確信したように言う。
「やったぁ! 私達でデビルを撃退できたんだ!」
「ティア、頑張ったね」
「勝てたのはモカさんとミフユのおかげだよ。ね、モカさん?」
問われたモカは満面の笑みを浮かべた。
「はい。皆さんがいてくれたおかげです。お礼を申し上げます」
「いいって。好きでやったんだからさ」
「そうだよ。食料を守れて良かったね」
三人で笑みを浮かべた。
思わぬ形でデビルと戦うことになってしまったが、今回は人助けだ。
エクソシストとして戦ったわけではないから、たぶん大丈夫だろう。
そう自分に言い聞かせた。
◇
銀の血盟の者たちもデビルを討伐したのか、去って行ってしまった。
残ったティア達も解散しようかという流れになろうとしていたが。
「あっ! エッグハントの続きをしなきゃ!」
思い出したようにティアが言った。
「デビルに夢中になりすぎてたね。じゃあ、エッグハント再開だね」
「うん! モカさんはどうするの?」
「私もエッグハントしていましたので、良ければご一緒させていただけないでしょうか?」
モカの言葉に二人はすぐに了承した。
「じゃあさ、フレンド登録しちゃおうよ」
「いいね。モカちゃんもいい?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
フレンド登録を交わすと、早速エッグハントを再開した三人であった。
◇
それから、ゲーム内でみっちり3日間をゲームに費やし、別の日にもゲームにログインしてエッグハントを続けた。
そのおかげで、ティアは60万ゴールドを手にすることができた。
衣装を買うという話をミフユにしていたので、一緒にマーケットプレイスで買うことにした。
「ん~、どれがいいかなぁ」
「せっかく貯めたんだし、似合うのが良いよね」
「だよねぇ。買える金額で似合いそうなものかぁ……」
ティアの目が一つの衣装で止まった。これが良い。値段もお手ごろだし、これにしよう。
◇
「ティアちゃん、めっちゃええやんか、その衣装」
「ああ。とても似合っているぞ」
二人に絶賛されたのは、赤を基調としたドレスアーマーだ。
見た目も可愛いし、機能性も申し分ない。お気に入りの一着となった。
ティアは褒められて笑みを浮かべた。
「頑張ったかいがあったな」
「はい。フレンドさんに助けてもらったお陰です。私一人だったら、モチベーションが維持できなっかったかも」
言ってみて、そう思う。
ミフユとモカがいたから、頑張れたのだ。あとでまたお礼のメッセージを送らなければ。
「なら、ぼちぼちメインストーリ―を進めるとしよか。なぁ、ティアちゃん」
「はい!」
ティアは元気よく答えると、メインクエストを進めるためにアレルトの所へと向かった。




