28
エッグハントのイベント概要はハクトに聞いた通りのものだった。
フィールドに隠された卵を探して手に入れる。
その卵の中にあるメダルを集めることで、交換所にてアイテムと交換できるのだ。
早速、ティアとミフユはフィールドの散策に出かけ、卵を探していた。
「あ! こっちにあるよ」
ティアが指さしたのは草むらに転がる卵だった。
卵を手にすると、ボンッと煙を上げてメダルへと変わった。
メダルは茶色であった。メダルには種類があり、茶色が1ポイント、銀が10ポイント、金が30ポイントとなる。
「ちぇー。1ポイントかぁ」
ティアが残念そうに言った。
「まだ始まったばかりじゃない。あっちの草むらも怪しそうだよ。行ってみよう」
フィールドをうろうろしていると、バッタリモンスターと出会うことがあるが、ほとんどミフユが退治してくれた。
ミフユのレベルは65で、カンストの70までもう少しのレベルであった。
高レベルプレイヤーのミフユと組んだおかげで、モンスターとの遭遇も怖くない。
その代わりと言っては何だが、卵探しを必死にやった。
「あ、また金が出たよ」
手にした金のメダルをミフユに渡した。
「また金が出たんだ。ティアはすごく運が良いね」
「えっ? そうかな。あはは」
ミフユには七星の加護を得ているとは言っていない。
話しても大丈夫かと思う反面、ウルブラッドと話してから、余計に七星について話しづらい気もしている。
ただ運が良いことにしておくのが無難であろう。
頭を切り替えたティアは卵探しを続行した。
◇
卵探しに熱中していると、気づけば夕暮れが迫っていた。
リンデンからだいぶ離れてしまっている。そろそろテレポートで戻るか提案しよう。
「ミフユ、そろそろ夜だからリンデンに戻らない?」
「あ、それならいいところがあるよ」
「え、どこどこ?」
「秘密。ついて来て」
歩き出したミフユの後をついて行く。
日が傾き、山並みに太陽が消えようとしていた頃、ティア達の前に大きな石がゴロゴロ転がっている場所があった。
無造作に置かれているように思えたが、よく見れば円を描いていることが分かった。
「ストーンサークルっていうところが、色々なところにあるんだけどね。そこの近くはモンスターが近寄らないの。だから、旅の途中とかでキャンプするんだ」
「えっ!? キャンプするの! やったー」
テンションの上がったティアを見て、ミフユが微笑んだ。
「キャンプでテンションあがってくれて嬉しいよ。じゃあ、テントとか用意するから、ティアも手伝って」
「うん! 分かった」
ミフユがアイテムを次々と取り出して、地面に置ていく。
ティアはミフユに指示してもらいながらテント設営を行った。
夜を迎える頃にはテントは完成し、夕飯のために焚火をすることになった。
キャンプ道具を使って、簡単な料理を食べた。お腹も満たされて、地面に寝転ぶと満点の星空が見えた。
「綺麗だね」
思わず口から洩れた。ミフユがくすりと笑った。
「だよね。星が降ってきそう」
「ミフユは旅に慣れてる感じだけど、いつもこんな感じなの?」
「そうだね。旅が好きで、このゲームをやっている感じかな」
「そっか。本当に色々な楽しみができるゲームなんだね」
ティアが寝返りを打つと、ミフユと目が合った。
優しい表情のミフユが問いかけてきた。
「ティアは、どうして『ユニティ』を始めたの?」
「お兄ちゃんの影響かな。昔からお兄ちゃん子なところがあったから、お兄ちゃんが熱中しているって聞いて興味が湧いたんだぁ」
「へー。どんなお兄さんなの?」
ティアは兄のことを思い出すと、渋い表情を見せた。
「すっごい意地悪」
「それはティアが可愛いからだよ」
「皆、そう言うけど意地悪される方の身にもなってほしいよ」
そういうとミフユは声を上げて笑った。
それがおかしくてティアも笑う。
兄はこのゲームでどんな楽しみを見出しているのだろうか。
いつか聞いてみよう。きっと、まだ自分が知らない世界を教えてくれることだろう。
いや、たぶん教えてくれない気がする。
◇
エッグハントを初めて二日目の昼。
卵探しは今日も続いていた。
モンスターを蹴散らし、卵が隠されていそうな場所を探す。
一人でやっていたら精神的にしんどかったかもしれないが、ミフユと一緒なので楽しく続けることができていた。
そろそろ休憩にしようと思っていたところで、遠くに大きな木が生えているのが見えた。
その周りには昨日見たストーンサークルと同じようなものがあった。
あそこを今日の拠点にしてもいいかも。ティアはミフユに話を持ち掛けた。
「あそこにストーンサークルがあるから休憩しない」
「いいね。早速、行こうか」
二人でストーンサークルへと向かう。
大きな木が立っているお陰で木陰ができていて、過ごしやすそうだ。
そう思っていると、木の傍に人影が見えた。
近づくと、可愛らしい恰好をした少女が一人で寝てる姿が見えた。
「あら? 先客がいたみたいだね」
「うん。起こしたら悪いから、少し離れた場所で静かにしておかなきゃね」
「そうだね」
少女から少し距離を取った場所に座り、昼食を取ることにした。
パンと乾燥肉を食べていると、少女が目を覚ましたようでむくりと起き上がった。
あくびをした少女とティアの目が合った。
緩くパーマのかかったような長い髪にお人形さんみたいなぱっちりした目。
これはすごい美少女だ。
「ごめんなさい。起こしちゃったかな?」
「いえ、そんなことありません。こちらこそ、気を使わせてしまったみたいで、すみません」
なんと礼儀が正しい子だろうか。可愛いだけじゃない。
「あなた、お昼はまだなんじゃない? 一緒に食べない?」
ミフユが少女に言う。
少女はパッと笑みを咲かせて、大きく頷いた。
「ぜひ、ご一緒させてください。自己紹介がまだでした。私はモカです。よろしくお願いします」
そういってモカが立ち上がった時、ジジッとノイズのような音が響いた。
モカは、その音にビクッと反応した。
すると、またジジジッと音が聞こえた。
そこでティアは思い出した。これはデビルが出てくる時に聞いた音だということを。
そして、ノイズ音が大きく鳴り響くと、空にヒビが入るのが見えた。
「ミフユ、デビルが来る!」
空が割れると、無数の羽音ようなものと共に黒い塊が穴から姿を見せた。
その黒い塊は南の方へと悠然と飛んでいく。
自分たちを狙ったものじゃないことに安堵した。
「皆さん、ごめんなさい。私、行かないと」
モカはそういうと、大きな狼を召喚した。
「え? デビルと戦うつもりなの?」
ティアの問いかけにモカは首を縦に振った。
「私、エクソシストなんです」




