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 大歓声の中、リングを後にしたティアを疲れが襲った。


 次の戦いまでまだ時間はある。

 休憩所でしっかり休まなければ。フラフラの足取りで歩ていると、一人のたくましい男性とぶつかった。


「あ、すみません」


 ティアが謝ると、男性はティアに熱い視線を向けた。


「先ほどの試合、素晴らしいものでした! 私も貴方に負けぬよう、良い戦いをしたいと思います」


 熱い口調で語る男性はティアに一礼するとリングへと上がった。

 どんな戦いをする人なのか興味が湧いたが、今は自分の疲れをとることが先決と考え休憩所へと向かった。



 試合は進み、第二回戦の時間となった。


 まだ疲れが取れていないが、リングに上がるしかない。

 次の対戦者は誰だろうか。掲示板を見ると、モンドという人が次の対戦相手らしい。

 リングに上がったティアの前に姿を見せたのは、先ほどの熱い男性だった。


 ということは彼がモンドということになる。

 メイスと盾を持ったモンドはティアの視線に気づくと、爽やかな笑顔を見せた。

 装備からタンクと思われる。相性的にはどうなのか分からないが、やるしかない。


 ティアがモンドと正対すると、審判が声を上げた。


「二回戦、第一試合! ティア対モンド!」


 会場が歓声に包まれた。

 緊張はするが、一回戦の時のような気負いはない。

 一戦経験したことで、ティアに自信がついていた。


 審判が手を高々と上げた。


「始めっ!」



 武闘大会はモンドの優勝で幕を閉じた。


 ティアとモンドの戦いは、一進一退の攻防戦だったが、モンドの鉄壁の防御を崩すことができず、じわじわとダメージを負ったティアの負けとなった。

 対戦後の記憶はあいまいだった。後でハクトからモンドが圧倒的な強さで勝利したことを聞いた。

 その相手と互角とまではいかないが戦えたことが、正直嬉しかった。


 優勝はできなかったが、自分の自信に繋がる結果に満足していた。

 感慨深い思いをしていると、ケーゴが心配そうに声を掛けてきた。


「ティアちゃん、残念やったな。でも、ティアちゃんが一番苦戦させとったで」


「ああ。誇ってもいい試合だった。相手も相当の才能の持ち主だったのは間違いない」


「ありがとうございます。私、なんか自信がついた気がします。これからもっと頑張れる気がしてきました」


 すがすがしい笑みを見せたティアが言った。

 その様子を見たハクトとケーゴは胸を撫でおろすと、一つのアイテムを取り出した。


「優勝賞品とは少し違うが、これを貰ってくれないか?」


 ハクトが差し出したのは、綺麗な髪留めだった。


「えっ? 良いんですか?」


「ああ。倉庫の奥にしまっていた物だから、気兼ねなく貰ってくれ」


「ありがとうございます。早速、つけても良いでしょうか?」


 ハクトは頷くと、ティアは髪留めを貰った。

 髪をまとめると、今までのロングヘアとはまた違った印象となった。


「どうでしょうか? 似合いますか?」


「ええやんか。ティアちゃん、似合っとるで」


「そうだな。似合っていると思うぞ」


 二人に褒められたティアは照れ臭そうに笑みを浮かべた。

 優勝賞品とは違うが、これはこれで大切な物になった。



 三人で談笑をしていると、こちらに近づいてくる女性がいた。

 ミフユだ。


「ティア、お疲れ様。残念だったね。すごいいい試合だったと思うよ」


「ありがとう、ミフユ。残念だったけど、すごく楽しかった」


「ティアはPVPに向いているのかもね。機会があったら、団体戦とかペアで出場してみようよ」


「うん! そのときはよろしくね」


 ミフユとの会話に花を咲かせていると、今度は男性が近づいてきた。

 熱い笑みを浮かべたモンドであった。


「ティアさん、今日は本当にいい試合でした。次にやる時も負けないように精進します」

 

「モンドさん、優勝おめでとうございます。こちらこそ、ありがとうございました。次は負けないように頑張ります」


「楽しみにしています。それでは失礼します」


 モンドの去っていく姿を見ていると、ケーゴが話しかけてきた。


「ティアちゃんも色々な人との縁ができてきたなぁ。これから、もっともっと面白なるから、頑張っていこうな」


「はい。もっとゲームを楽しみたいと思います」


「そろそろメインストーリ―を進めなな。忙しくなるで」


「望むところです」


「頼もしいこっちゃ。じゃあ、これからお疲れ様会と行こか。わいのおごりや」


 ティアとミフユが顔を見合って、大きく頷いた。

 こうして、武闘大会の幕は閉じたのであった。



 暗闇が支配する世界でウルブラッドは椅子に座り、目を閉じていた。


 考えているのは、ティアのことだ。

 あの会話で諦めてくれれば良いが。もし、エクソシストとなって立ち向かってきたら、どうしたら良いものか。


 考えても答えが出ない問題にウルブラッドは憂いた表情を見せた。


「そんな表情は良くないよ、ウルブラッド」


 闇から響く声がすると、暗闇の中から長髪で血色の悪い男が現れた。

 男は続ける。


「デビルの長たる者は、もっとどっしりと構えてなきゃなぁ。可愛い部下達が心配してしまう」


「言われるまでもないよ、グリードリッヒ。少し考え事をしていただけさ」


 ウルブラッドの返しに、グリードリッヒは小さく笑った。


「どうせエクソシスト共の事だろう? 考えても仕方がない」


「考えざるを得ないのさ。君のように部下を使い捨てする気にはならないんでね」


 厳しい言葉を吐いたウルブラッドだが、言われた本人はくくくっと低く笑った。


「デビルはいくらでも生み出す事ができるからなぁ。色々と試してみないと。エクソシスト共にやられっぱなしなのも癪だしな」


「君とは相容れないね。僕は部下のことを愛している。無駄に死なせる気にはならない」


「そうかい。それもいいだろう。我々は作られた存在だ。どう生きるかは、各々が決めるべきさ」


 グリードリッヒはそう言うと、不敵な笑みを見せた。


「ただ、黙って消される存在ではない。私はねぇ、楽しみ尽くしたいのさ。この世界を壊してしまうほどにね」


 これがこの男の本質か。つくづく分かり合えない者だ。


「僕も消されるだけの人生なんてごめんだね。だからといって、この世界を壊したいとも思わない」


「それもいいさ。だが、いずれは選択を迫られるだろう。死んでも蘇る存在。冒険者全てと対峙する日がね」


 問題はエクソシストだけでは無い。

 冒険者全体が強くなればなるほど、デビル側は追い詰められるのだ。

 その日がいつ来るかは分からないが、その時にどうすべきか。


「僕はこの世界を愛している。もちろんデビルもね」


「ああ、私も愛しているとも。お前とは愛のベクトルが違うだけさ」


 くつくつと笑うグリードリッヒは、暗闇に溶け込むように消えていった。

 冒険者のために存在するデビル。自分達に生きている意味はあるのか。

 考えても答えは出ない。だが、考え続けることに意味はあると思う。


 そうして導き出せた答えになら、従って生きていけるから。


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