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レベル10までが対象となるランクの武闘大会の日が来た。
なんとかレベル10まで上げることができたティアは、参加者の列に並んでいた。
ハクトとケーゴは観覧席に行っており、周りに見知ったプレイヤーはいない。
これをきっかけに同レベルくらいの人と仲良くなれたら。
そう思っていたが、誰もが周りを敵とみなしているのか、仲良くなれそうな人は見つからない。
そうこうしていると、参加者のグループ分けが行われ、ティアはDグループとなった。
武闘大会は予選を勝ち抜いたものでトーナメントをする形式で、予選はグループ分けされた参加者全員での戦いとなる。
その戦いで4名まで残ることができればトーナメントの参加者になれるのだ。
グループは二十名ほどの単位で分けられており、早速Aグループの予選が始まった。
手に汗握る攻防戦。あの中に自分が入るのかと思うと緊張してきた。
◇
ついにDグループの予選の番となった。
緊張の面持ちでリングに上がるティア。歓声を聞くとさらに緊張度が増してきた。
全員が揃うと、リングの各所に散らばって審判の開始の合図を待つ。
「始めっ!」
審判の声と共に、全員が臨戦態勢に入った。
ティアも細剣を抜くとすぐさまファントムソードを顕現させた。
その瞬間、会場にどよめきが走った。
「おい、あのファントムフェンサー、十本もあるぞ」
「このランクはあの子で決まりかもな」
会場の注目はティアに向いていた。
恐縮してしまいそうになるが、今は戦いの真っ最中だ。
気持ちを切り替えて、迫りくる脅威と戦わなければ。
ティアが身構えた。
だが、誰もティアと相対しようとするものはいなかった。
圧倒的な才能差を感じ取ったのだろう。ティアとやりあうのを悪手と考えたようだ。
「えっ? え~!?」
困惑するティアを他所に、一人、また一人とダウンしていく。
気づけば半数を切っており、勝手に戦いはクライマックスを迎えていた。
そうして、ティアは何もすることなくトーナメント進出を決めた。
◇
「ティアちゃん、トーナメント進出、おめでとう」
「良かったな。体力温存ができた」
ケーゴとハクトから祝福されたが、ティアは釈然としない様子であった。
「あの~、あれで良かったのでしょうか?」
「実力者を避けるのも戦術の内やで。強いと思われたんやから、胸を張ってええんやで?」
「そう思うことにします。そういえば、トーナメント表って出ましたか?」
「ああ。もう出ているぞ」
ハクトが言うと、掲示板を指さした。
十六名の参加者の名前がトーナメント表に記載されていた。
ティアは第一試合であった。
「ティアちゃん、一発目からやな。気張っていこうや」
「うぅ……。緊張します」
ティアはガチガチのままリングへと向かった。
◇
第一試合。ティア対リゲル。
相手のリゲルのジョブはアサシンだ。
二人は見合った状態で、それぞれの獲物を抜いた。
「始めっ!」
審判の声と共に、ファントムソードを呼び出すティア。
それと同時にリゲルが仕掛けてきた。
「火遁の術」
リゲルが印を結ぶと、ティアの足元に炎の円が広がる。
まずい。反応が遅れたティアを火柱が飲み込んだ。
すぐさま炎の中から飛び出したティアだが、その先にリゲルの次の攻撃が待ち構えていた。
「手裏剣乱舞」
複数の手裏剣が乱れ飛ぶと、ティアの体を切り裂いた。
「くっ!」
ダメージを負ったティアは反撃の構えに出た。
「シューティング・スター」
ファントムソードが一列になって一気に襲い掛かる。
だが、リゲルはそれをひらりとかわした。
反応が良い。ティアは渋い表情を浮かべ、再びファントムソードを出現させた。
◇
「あいつ、上手いな」
ハクトがリゲルの動きを見て、そう評した。
その言葉にケーゴが顔をしかめた。
「他のジョブの経験者やろな。初心者相手にえげつないわ」
「どうする、ティア……」
◇
シューティング・スターが避けられたとなると、残る技は一つだ。
リゲルと距離がある内に、次の攻撃に移った。
「フェザー・スラッシュ」
扇状に配置されたファントムソードが一斉に放たれた。
「くそっ」
一本のファントムソードがリゲルを貫いた。
残りのHPはこれで同程度となった。
ティアはファントムソードを呼び出さずに、リゲルに接近した。
細剣で戦いを挑む。ティアの判断は早かった。
怯んでいたリゲルにティアの斬撃が繰り出される。
「うぐっ!」
リゲルの腕を斬りつけたティアは細剣を引いて突きを放った。
それをすんでのところで回避したリゲルは、反撃に転じた。
両手に持つナイフでティアを何度も斬りつけた。
距離を取ろうと後ろに飛んだ。その時、リゲルがにやりと笑った。
ティアはそれが何か悟った。
「火遁の術」
再びティアを炎が襲う。
火柱に飲まれたティア。HPはほぼゼロになっていた。
◇
「あかん。ティアちゃん、押されとるやないか」
「戦い方は相手の方が上だからな。ティアのファントムソードは脅威だが、それに反応できるとなると厄介だぞ」
ケーゴとハクトが祈るような気持ちで見ていると、ティアが再びファントムソードを出現させた。
「ティアちゃん、どうする気や?」
◇
ティアは追い詰められていた。次、ほんの少しでもダメージを負えば倒れるだろう。
だからこそ、相手は慎重に攻めてくるはずだ。
それならば、意表を突く攻撃をするしかない。
ティアはファントムソードを扇状に並べた。
リゲルが先ほどくらった技。フェザー・スラッシュの配置だ。
だが、二度目はないとリゲルも身構える。
直線状に来ることが分かっているなら、飛んで避ければいいだけだ。
「フェザー・スラッシュ!」
一斉に放ったファントムソードに反応したリゲルは飛んだ。
直線に飛ぶと思ったファントムソードが、真っ直ぐではなく、バラバラに飛んだ。
思わむ攻撃に防御の構えを取ったリゲルが着地した。
その瞬間を狙っていたティアは、飛ばさず残していた一本のファントムソードの狙いを定めた。
「シューティング・スター」
着地際の硬直を狙ったティアのファントムソードが、リゲルの胸を貫いた。
「ごはっ!」
リゲルのHPがゼロになると、その場に倒れた。
「勝者! ティア!」
会場が沸いた瞬間であった。




