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ピルレの洞窟を攻略したティアはテレポートを使用し、リンデンへと帰ってきた。
ミフユと一緒にジョブ会館へと向かう。
「そういえば、ミフユのジョブって何なの? エレキギターみたいなものを弾いてたけど」
「私はミンストレルだよ。魔法の加護を受けた楽器を使うんだ」
「あ~。アタッカーであったかも。サポート向きなんだっけ?」
「そうそう。一人でも戦えないことはないけど、パーティーで戦う時に光る感じかな」
会話を交わしているとジョブ会館に着いた。
三階のアレルトの部屋へと向かう。部屋の前に来たところでミフユを制した。
「ミフユはここで待機していて。中へは私一人で入るから」
「う、うん。分かった」
ドアを三回ノックしてドアを開けたティアは、部屋の中へゆっくりと入った。
アレルトが書類仕事をしている。目だけをこちらに向けた。
「アレルトさん、ピルレの洞窟の攻略が終わりました」
「ほお。もう少し時間がかかるかと思っていましたが、やりますね」
「ありがとうございます。それで、次の技のことなんですが」
「ええ。教えましょう。お昼を食べた後に訓練場へ来てください。私はまだ仕事がありますので」
ティアはアレルトの言葉に了承すると、部屋を後にした。
特に今日は指摘されることがなかったことに安堵する。
「お帰り、ティア」
「うん。午後から新しい技を教えてもらえることになったんだ」
「良かったじゃん。じゃあ、お昼一緒に食べようか」
「うん!」
リンデンの中にある公園の隅で屋台が出ているので、そこで昼食を買うことにした。
今日は霧が晴れており、珍しくいい天気だ。
「ミフユはリンデンがホームポイントなの?」
「そうだよ。最初は海洋都市へリオンだったけどね」
「海にあるやつだね。行ってみたいなぁ」
「ストーリーを進めたらすぐだよ」
他愛もない話をしていると、昼食を食べ終わっていた。
修練場まで一緒に行くことになり、ミフユと街の中を歩く。
その途中で武闘大会のポスターを見かけた。
「今度、私、これに出るんだ。レベル10までのやつだけど」
「武闘大会ね。PVPは勉強になるから、良いと思うよ。応援に行くね」
「うん。ありがとう」
話していると修練場へと着いた。
ミフユと別れ、修練場に先に着いていたアレルトの元へと小走りで行く。
「すみません。遅れました」
「いえ、まだ時間前ですよ。では、早速、技の伝授と行きましょう」
「はい!」
アレルトは細剣を抜き放つとファントムソードを出した。
八本のファントムソードがアレルトの前で扇状に広がる。
「フェザー・スラッシュ」
ファントムソードが一斉に放たれた。
思わず歓声を上げていた。
「今のが新しい技です。まずは真っ直ぐ飛ばすだけ。ファントムソードを操れるようになれば、複数の敵を同時に狙って攻撃できます。さぁ、やってみてください」
「はい! ファントムソード!」
扇状にファントムソードを並べる。これを一斉に発射する。
イメージはできる。シューティング・スターとは別の形だが、一つのファントムソードだと思えば一緒に動かすのは難しくない。
「フェザー・スラッシュ!」
ビュンッとファントムソードが飛んで行った。
思った通り、真っ直ぐ飛ばすのは難しくない。
アレルトが手をポンポンと叩いた。
「十分です。あとはファントムソードを操れるようになれば完璧です。今の状態で、何本ほど動かせそうですか?」
「やってみます。ファントムソード」
十本全部を動かす必要はない。まずは一本。
一本のファントムソードがティアの周りをクルクルと回った。
よし、もう一本はどうだ。
ティアは別のファントムソードを動かそうと念じた。
九本の中の一本が動き出した。一本目のファントムソードに比べると動きは悪いが、操作はできていた。
「ほお。二本目もそこそこ動くようになりましたね。上出来です」
「ありがとうございます。あの、あとはどうしたら良いでしょうか?」
「レベルを上げるために依頼をこなしていくのと、訓練あるのみですね。冒険者ギルドに行けば、様々な依頼を受注できますよ」
なるほど。ティアは自分のレベルを確認する。
レベルは6になっていた。あと4上げれば万全の状態で挑めるということだ。
「アレルトさん、ありがとうございます。私、依頼を受けてきます」
そういうと修練場を後にした。
◇
冒険者ギルドで受注できる依頼は様々なものがあった。
お使いからボディーガード、モンスターの討伐。この中で受けた方がいいのはモンスターの討伐だろう。
レベルも上がるし、お金も手に入る。戦闘の経験も積めると良いことづくめだ。
低級のモンスター討伐の依頼を受けることにした。
それからはクエストをクリアしては、また別のクエストを行い、レベル上げと戦闘の経験を積み始めた。
◇
一日中ゲームの世界に入りっぱなしだった紗友里は、げっそりした顔でヘッドセットを外した。
レベルは8まで上がった。武闘大会は明後日からだ。今日は休んで、明日もログインして。
「あっ」
思い出した。明日は美羽と出かける日だ。
今のうちに準備をしておかないと。慌てて明日、着ていく服の準備などを始めた。
◇
二人は買い物を終えて、カフェでお茶を飲んでいた。
「で、そんなに疲れた顔をしてんの?」
美羽から手痛い言葉をもらった紗友里は面目なさそうに頷いた。
「意外にレベル上げが時間かかっちゃって」
「メインクエストを進めたら、レベルって上がるんじゃないの?」
「ストーリーはしっかり楽しみたいから、今は地道に上げていくよ」
紗友里はテーブルに突っ伏した。
「ねー。早く、美羽もやろうよ~。楽しいよ~?」
「あんた、どんだけお金かかるか知ってるでしょ? 当分無理」
「ケチ。美羽がやるときには私、レベルカンストしてるかもしれないよ?」
「それはあるかもねぇ。今年、大型パッチが来るもんね」
紗友里はテーブルから顔を上げた。
「そんなのあるの?」
「知らなかったの? それでレベルキャップの開放があるから、もう少ししたら経験値ボーナスが付くようになるみたいだよ」
「もうちょっと早くしてほしかった~。レベル上げ、しんどいよ~」
「そのフレンドさんに強いところに連れて行ってもらったら?」
「やだ。自分で上げるから良いんでしょ。ただでさえ、お世話になっていることが多いのに」
紗友里には自分の美学があるようだ。
美羽はあきれ顔を見せた。
「強情だなぁ。ま、私をキャリーできるよう、しっかりゲームを進めておきたまえ」
「は~い。美羽も早くお金貯めてね?」
「はいはい。今年中には何とかするよ」
今は三月末なので、まだ半年以上あるではないか。
紗友里は再びテーブルに突っ伏した。
「まったく……。武闘大会だっけ? 応援してるよ」
「ありがと。頑張る」
そういって親指を立てた。紗友里のレベル上げは今日も続いた。




