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 ミフユを残して、四人でピルレの洞窟攻略に挑むこととなった。


 洞窟を進んでいくと、骸骨のモンスターであるスケルトンが現れた。

 ティアはタンクであるザックの出方を伺う。

 だが、真っ先に飛び出したのはホルンであった。


「ファイアーボール!」


 火球が放たれるとスケルトンに着弾した。

 しかし、スケルトンを倒すまでには至らず、逆にヘイトを向けられることになった。

 スケルトンがホルンに向け斬撃を繰り出した。


「ぐあっ」


 まずいアタッカーは体力がタンクに比べて低い。早く回復をしなければ。

 ヒーラーのネーナが回復魔法を唱えた。


「ヒール」


 よし。これなら大丈夫。そう思っていると、奥から二体目のスケルトンが現れた。

 そちらに向けてザックが飛び掛かった。


「シールド・ストライク!」


 小ぶりの打突用の盾でスケルトンの胸を突いた。

 スケルトンはザックと切り結び始める。もう一体のスケルトンはホルンに斬りかかっていた。

 まずい。二手に分かれている。


 ティアは逡巡し、ホルンの戦うスケルトンへ向け、ファントムソードを向けた。


「シューティング・スター!」


 スケルトンはバラバラと崩れ落ちた。

 ただ、ホルンの体力が減っている。ホルンはそれを意に介することなく、魔法を唱えた。


「サンダーブラスト!」


 ザックの戦うスケルトンに雷が落ちた。ダメージを負ったスケルトンの視線がホルンに向く。

 スケルトンはザックの脇を抜けるようにして駆けると、ホルンへと接近した。

 ダメだ。ホルンの体力は減ったままだ。


 ティアはホルンとスケルトンの間に割り込むと、スケルトンに斬りかかった。

 ダメージは与えられたが、それでもスケルトンのヘイトはホルンに向いたままだ。

 スケルトンはティアを押し飛ばすと、ホルンへと突撃した。


 ホルンの腹部をスケルトンの剣が貫いた。

 体力がゼロになったホルンは、その場に崩れ落ちた。

 スケルトンが次に狙いを定めたのはティアであった。


 斬りかかろうとするスケルトン。そのスケルトンにザックが体当たりをした。

 壁に叩きつけられたスケルトンにティアはファントムソードを出して、シューティング・スターを繰り出した。

 やっとスケルトンの息の根を止めることができた。


 倒れたホルンにネーナが蘇生魔法を唱えた。

 光に包まれたホルンがむくりと立ち上がった。

 その開口一番。


「ヒーラーさぁ、ちゃんとHP回復してくれよ」


 え。お礼じゃなくて。

 ティアは呆気に取られていると、今度はネーナが反論した。


「したって。それでも回復量が足らないの。あなたがダメージくらい過ぎなのよ」


「僕が悪いっていうのか?」


「ま、待ってください!」


 ティアが話に割り込んだ。


「今のは攻撃がバラバラになったのがいけないと思います。次からは一体ずつ確実に――」


「だから、僕は魔法を撃ったじゃないか? そのあとをタンクがなんとかすべきだったんじゃない?」


「おい、なんだと? 俺のせいかよ」


 今度はザックが会話に割り込んできた。

 それぞれが自分の主張をぶつけ合う。パーティー内が険悪なムードに包まれた。



 その後もモンスターと戦うたびに、戦線が乱れては半壊しかけるということを繰り返していた。


 それぞれの不満もピークに達しそうだ。このままボス戦に行ったら、勝てる気がしない。

 ティアは考えていた。どうしたら、もっとうまく動けるのか。被害を最小限に食い止められるのか。

 ちょうど、先日の攻略で小休止をしたところに着いたので、ティアが声を上げた。


「ここで休憩しましょう」


 それに全員異論はなかったのか、各々地べたに座り始めた。

 会話がない。どうしよう。プレッシャーに押しつぶされそうだ。

 こんなとき、どうしたら。


 ティアの頭の中にハクト達との反省会での言葉がよみがえった。

 周りをよく見ること。そしてフォローをすること。

 ティアは自分を叱咤し、思い切って声を上げた。


「あの! 私、タンクのこと分からなくて。ザックさんは、どんな戦い方をするんですか?」


「お、俺か? 俺は大小二つのシールドでガードを固めながら、カウンターや突進を使うのが得意かな」


「ガードが硬いんですね。じゃあ、相手のヘイトを集めるのは、どんなスキルを使うんですか?」


「ヘイト? とりあえず、叩けばこっちに向くんじゃないの」


 タンクがヘイトのことを理解していなかった。驚くことではないかもしれない。

 ケーゴに聞いたから自分は知っているのだ。初心者ではあまり理解できていないのかもしれない。


「ヘイトを取るスキルありませんか?」


「ちょっと待ってな。うーん」


 ステータス画面を開いて見ているようだ。しばらくすると、「あっ」と言った。


「あった。シールド・グロールってやつ。でも、これダメージ入らないぜ?」


「それでいいんです。ヘイトを一気に稼ぐことができれば、敵はタンクにくぎ付けにできるんです」


「あ~、マスターもそんなこと言ってたかなぁ」


「はい。最初に使ってヘイトを取る。他の敵が来たら、同じようにしてヘイトを取る。これの繰り返しなんです」


「なんか地味だなぁ」


 ザックが苦笑気味に言うと、ティアは首を横に振った。


「タンクが敵を一手に引き付けてくれるから、私達アタッカーは安心して攻撃ができるんです。いわば、チームの壁ですね」


「そっかぁ。殴るのより、そっちの方が良いんだなぁ」


「はい。ちなみに、ホルンさんは先手で魔法を使いますが、どうしてですか?」


 ホルンは少し考え込むようにして言った。


「僕は殲滅力があるから、先にダメージを与えておいた方がいいと思ってる。ダメかな?」


「ダメじゃないと思います。ただ、タンクがヘイトを取ってないとホルンさんが狙われちゃうんです。なので、次からはタンクがヘイトを取ったモンスターを狙ってみては」


「ふーん。分かった、やってみるよ」


 渋々了承したホルンを見て、ティアは胸を撫でおろした。

 タンクがヘイトを取って、次にアタッカーが戦う。これで安定すれば、ヒーラーも回復に集中できる。

 ティアはネーナに視線を向けて笑みを浮かべた。


 ネーナもそれの意味が分かったのか、笑顔で返した。

 

「では、今のことを踏まえて、これからやってみましょう! 私達なら大丈夫です」


 全員が頷くと立ち上がり、洞窟の奥へと向かった。



 そこからは不器用ながらも戦線を維持しつつ戦うことができるようになった。


 パーティーの誰も欠けることなく、ボスの待ち構える最深部へと到達した。

 赤い鱗の火を噴くトカゲ。サラマンダーが相手だ。

 ハクト達がいないと、ボスの存在感はこんなに増すんだ。


 ティアは飲まれそうになる自分を奮い立たせ、皆を鼓舞する。


「今まで通りに戦えば、きっと勝てると思います! 頑張りましょう!」


「おう。俺が一発、ヘイトを取ってくるぜ」


 パーティーでボスへと挑む。

 ザックのスキルでヘイトを集中させ、ティアとホルンで攻撃を加えていく。

 一撃の攻撃力はホルンが高い。


 ボスの視線がホルンへ向いた。


「ザックさん!」


「任せろ! シールド・グロール!」


 ホルンに向きかけたヘイトをザックが取り戻した。

 ネーナの回復魔法も問題なくザックに集中できている。

 気のせいかもしれないが、皆が生き生きしているように見えた。


 ダンジョンに入ったばかりの時は、あんなにバラバラだったのに。

 今では声を掛け合って戦っている。

 これがパーティー戦なんだ。これをアレルトは学んでほしかったんだ。


 サラマンダーと真っ向から挑むザック。

 アタッカーとして最高火力を出しつつ、攻撃頻度を調整しているホルン。

 回復を途切れさせず、皆のHP管理をするネーナ。


 たぶん、初歩も初歩だろう。

 だが、これがパーティー戦。皆で一つの目標を達成するための戦い。

 サラマンダーとの死闘はそれから数分続き、ホルンの魔法でとどめを刺した。



 サラマンダーが崩れ落ちた所に出現した宝箱をゆっくりと開ける。


 そこには複数の武具が入っていた。

 それぞれで話し合い、装備の分配を決める。ティアは自分の使う細剣をもらうことにした。

 ワープゲートを使って洞窟の入り口に戻ると、ミフユが出迎えてくれた。


「その顔、クリアできたみたいだね。やるじゃん、初心者のパーティーで一発クリアだなんて」


 ミフユの言葉に、全員が笑みを浮かべた。

 それぞれが別れの言葉を言うと、洞窟から去っていった。

 それを見送ったティアはヘナヘナと地べたに座った。


「疲れた~」


「お疲れ様。一番頑張ったのはティアかな」


「ううん。皆で頑張ったから勝てたんだよ。ねぇ、ミフユ?」


「ん?」


「パーティー戦って楽しいね」

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