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アレルトにクエスト完了の報告をし、礼節についての指導を受けたあと、ティアはアレルトに武闘大会について話しをした。
「武闘大会ですか。ティアさんの才能でレベル10までのならば、十分優勝を狙えると思いますよ」
「本当ですか?」
「ええ。ただ、まだ戦い方を覚えたばかりですし、経験が不足しています。レベルを上げる、戦闘経験を積むということが課題かと思います」
アレルトは紅茶の入ったカップを持ち上げると、一口飲んだ。
ティアもそれにならって紅茶を飲む。
「レベルを上げることでティアさんのファントムソードはより強くなりますし、戦闘経験を積んでファントムソードをもっと操れるようになれば、勝機はあります」
「訓練をすれば良いということでしょうか?」
「いえ、今のティアさんには実戦が何より必要です。戦いという恐怖に打ち勝つことが必要なのです」
「じゃあ、モンスターを倒せば良いんでしょうか?」
モンスターとの戦いはある程度慣れては来ている。
ただ、まだ怖いという気持ちがあるから、モンスターと戦うことが重要だというのは分かる。
だが、アレルトは首を横に振った。
「モンスターと戦うだけでは学べないことがあります。普段、ティアさんはモンスターとはどのように戦っていますか?」
「えっと、近くに現れたモンスターと戦ってます。あ、でも、ハクトさんとケーゴさんと一緒ですけど」
「そこです。彼らは実力者です。一緒に戦って学ぶことも多いでしょうが、学ばせてもらえないこともあります」
「学ばせてもらえないこと?」
ティアの問いにアレルトは頷いた。
「彼らが当たり前にしていることが、他人には当たり前ではないのです。それを理解して動けるようにならなければなりません」
「教えてもらえばいいんでしょうか?」
「いえ、彼らも体に染みついている動きも多いでしょうし、説明は難しいかもしれませんね。だからこそ、ティアさんは彼らの動きを見て、学んで、考えて、自分の力にする必要があります」
「自分の力……」
ティアの呟きにアレルトは相槌を打った。
今まで当たり前だったことが、当たり前じゃないことを知る必要があるということだ。
では、どうやってそれを知ればいいのだろうか。
頭から湯気を出しているティアを見かねたアレルトが言う。
「では、次のクエストと行きましょう。レベル5から入れるようになる、ピルレの洞窟を野良パーティーでクリアしてください」
「野良パーティー?」
「ハクトさんやケーゴさん以外の方と組むことです。まったく知らない人達とダンジョンを攻略する。これが次のクエストです」
「知らない人とですか? 急にハードルが高いような」
「誰しもが一度は通る道です。このクエストを終えたら、次の技を教えますので頑張ってください」
「次の技ですか!?」
ガタッと立ち上がったティアを見て、アレルトが咳ばらいをする。
興奮のあまり立ち上がってしまった自分を恥じて、ソファに座りなおした。
「お二人と一緒にダンジョンに入って練習しても構いません。いえ、その方が勉強になるでしょう」
「分かりました。二人にお願いしようと思います」
「頑張ってください。……ところで、お二人は何故、部屋に入ってこないのでしょうか?」
「な、何ででしょうねぇ」
アレルトのマナー講座から逃げているとは言えなかった。
◇
ジョブ会館を出て、二人と合流したティアはアレルトと話したことを伝えた。
「なるほどなぁ。ピルレの洞窟を野良でクリアか。それは必要なことやな」
ケーゴが言うと、ハクトも頷いた。
「ああ。知らない相手と連携が取れるようになったら、一人前という風潮があるしな」
「そうなんですね。知らない人と行くって考えると緊張しちゃうなぁ」
「数をこなさないとなかなか慣れないものさ。まあ、まずは俺達と行って予習だな」
「はい! ありがとうございます」
ティアが鼻息を荒くし、意気込みを見せていると、ケーゴが何かを思い出したかのように言う。
「あかん、忘れとった。ヒーラーがおらんやんけ」
「ヒーラーですか? 必要なんですか?」
「ダンジョンは基本四人パーティーなんや。どんなジョブで揃えてもええけど、タンクとヒーラーは基本いないとあかんねん」
「なるほど。タンクはケーゴさんで、アタッカーが私とハクトさん。……ヒーラーがいませんね」
思わぬ事態だ。基本四人一組なら、あと一人足りない。
どうしよう。私のフレンドは二人しかいないし。
頭を抱えていると、ケーゴが自分の胸をポンと叩いた。
「こういう時は先輩に任せとけ。ヒーラーの知り合いなら何人もおるで」
「いいのか、ケーゴ? 後で大変なんじゃないか?」
「お前はフレンド少ないから仕方なしや。せっかくならちゃんとしたパーティーで行きたいやろ?」
「そうか。悪いな」
ハクトが申し訳なさそうに言った。どういうことだろう。
フレンドを呼ぶことって大変なんだろうか。いや、初心者に付き合わせるのだから、大変なことなんだ。
これは先にお礼を言っておかなければ。
「ケーゴさん、ありがとうございます」
「ええてええて。まあ、ちょっと癖が強い子が多いというか、なんと言うかやなぁ……」
珍しく歯切れの悪いケーゴを見て、ティアは首を傾げた。
「ま、会ってからのお楽しみや」
そういうとケーゴは誰かに通話を始めた。
◇
リンデンの東門で集合とのことで、ティア達三人は東門の横で待機していた。
誰が来るのだろうか。初対面の人にはちゃんと挨拶をしなくては。
妙な緊張をしていると、こちらに向かって手を振る人の姿が見えた。
「お~い、ケーゴく~ん」
声を掛けて近づてい来る人の姿を見て、ティアは胸を貫かれた。
愛らしい顔立ちに、フリルのいっぱい付いた洋服の可愛さ。これぞ、女子力。
「やぁ、サリぃちゃん、こんちわ」
「も~。最近、誘ってくれないから心配してたんだぞぉ」
「はは、すまんなぁ。色々と立て込んでてな」
「本当に~? あ、ハクトくん、久しぶり~」
「サリィさん、久しぶり」
ハクトが答えると、サリィの視線がティアに向いた。
その目がカッと見開いた。
「……ケーゴくん、誰、この子?」
「ひぃっ!」
サリィの目に暗い炎が宿っているのが見えたティアは小さく悲鳴を上げた。




