19
デビルが去った後、しばらく沈黙が続いた。
先ほどまであった屋敷が丸ごとデビルだったなんて、想像すらできなかった。
ティアは屋敷の跡を呆然と眺めていると、ハクトが沈黙を破った。
「ティア、何があったのか分かるか?」
「私、あのお屋敷で人と……。いえ、デビルと言ってました。話をしたんです」
「話? デビルとか?」
「はい。そのデビルはウルと呼んでくれって」
「ウル!?」
大きな声を上げたハクトを見て、ティアは驚いた。
ハクトは首を横に振って冷静さを取り戻したようにして言う。
「すまない。おそらく、ティアが会ったのは四代悪魔貴族のウルブラッドだ」
「ウルブラッド……。すごい人なんですか?」
「デビルの親玉と言ってもいい存在だ。俺も名前だけしか知らないが、あれだけデカいデビルを従えていたなら、間違いないだろう。だが、何故、そんな大物が……」
考え込むハクトにティアは真実を伝えるべきか悩んだ。
一人で抱え込むには大きな問題だ。二人に話して、どうすべきか考えた方が良いだろう。
意を決して、ティアは言うことにした。
「ハクトさん、ケーゴさん。あの、屋敷で話したことを聞いてもらっていいですか?」
二人は互いを見合って、頷いた。
◇
ティアの話を聞いた二人は悩ましそうに眉をひそめていた。
「ウルブラッドがそんなことを」
「ティアちゃんが七星持ちって気づいてたってことか。難しい話やな」
悩む二人以上にティアも悩んでいた。どうしたら良いのか判断ができない。
ウルブラッドはゲームを続けるのならば、それでいいと言っていた。ゲームを楽しむ分には邪魔をしないということだろう。
では、エクソシストになった場合は何かしら仕掛けてくるということなのか。
まだ仮定の話だ。考えても答えはでない。それなのに悩んでしまう。
「ティア」
ハクトの問いかけに、ティアは我に返った。
「はい。なんでしょうか?」
「ゲームを続ける気はあるか?」
「えっと、やめたいとは思いません。でも、エクソシストには……」
ゲームはやめたくない。今まですごく楽しんでいたのだから。
もっと楽しいことが待っているはずだ。それを諦めたいとは思わない。
ただ、エクソシストになりたいかというと分からない。
「エクソシストになる必要はない。ティア、君は今までのままゲームを楽しめばいい」
「え? でも、七星持ちだから」
「ウルブラッドの話なら気にしなくていい。ティアはゲームが好きなんだろう? なら、ゲームを楽しむべきだ」
ハクトの言葉に甘えてもいいのだろうか。
七星持ちだからエクソシストになれば、二人の力になれる。それをしなくても良いと言ってくれているのだ。
「せやな。七星持ちだからなんてことは考えんでええ。純粋にゲームを楽しんでいこうや」
「ケーゴさん……。ありがとうございます。……あの、今まで通り、仲良くしてくれますか?」
「当たり前やろ。水臭いわ。なぁ、ハクト」
「ああ。一緒に楽しもう」
二人の言葉がティアの胸を打った。目に涙がにじむ。
必死にこらえようとすれば、するほど涙がこみあげてくる。
二人に背中を向けて、涙を流した。
暖かい涙が頬を伝う。
嬉しい時の涙の温もりをティアは知った。
◇
集落に戻り、衛兵のミゲルに屋敷がデビルであったこと、そして、それが去ったことを伝えた。
ティア達の報告を聞いたミゲルは本部に連絡を入れるとし、お礼を言われた。
依頼を終えたティア達はリンデンへの帰路に着こうとの話になったところで、ケーゴがポンと手を叩いた。
「帰りはひとっ飛びといこうや。テレポートができるから、楽できるで」
「テレポートなんてできるんですか?」
ティアの問いにケーゴが得意そうに言う。
「せや。行ったことがある大聖堂や神殿にはテレポートできるんやで。ティアちゃんはまだリンデンしか行けへんけど、帰るだけなら、そっちの方が楽や」
「そうなんですね。じゃあ、テレポートで帰りましょう」
「よっしゃ。なら、ステータス画面を開いてやな――」
テレポートのやり方をケーゴに教わる。
行先にリンデンが表示されたので、テレポートを実行した。
体が光に包まれると、ふわっと浮かぶ感覚を覚えた。次の瞬間、宙に引っ張られるように空を飛んだ。
◇
気づくとリンデンの大聖堂にある祭壇の前に立っていた。
「すごい! ふわってして、ビュンって感じで楽しかったです」
「ティアちゃん、語彙力が落ち取るで? まあ、気持ちは分かるで。わいも好きな感覚やからな」
「逆バンジージャンプって感じなんですかね? 面白かったなぁ」
和気あいあいと話しながら、ジョブ会館へと向かった。
霧のかかる街中を歩いていると、人だかりができているのが目に入った。
「あれ、なんでしょう?」
「なんやろうな。行ってみよか」
人だかりに近づくと、皆、建物の壁に貼られた大きなポスターを見ていることが分かった。
『武闘大会開催決定! 出場者募集中!』
ポスターには、そう書かれていた。
「おー、武闘大会かぁ。今回はリンデンでやるんやなぁ」
「ぶとうたいかい? 何をするんですか?」
「プレイヤー同士がガチンコで戦う大会や。わいも昔、出たことあるで」
「そうなんですか? 優勝できました?」
ティアが聞くと、ケーゴががっくりと肩を落とした。
「ティアちゃん、厳しいわぁ。残念ながらベスト4止まりやったわ」
「ベスト4でもすごいじゃないですか。さすがケーゴさんですね」
「いやぁ、照れるわ」
ケーゴはまんざらでもない顔をした。
ベスト4ということはまだ上がいるということだ。ケーゴよりも強い人というのが、あまり想像できない。
「ハクトさんは、出たことあるんですか?」
ティアの問いかけにハクトは首を横に振った。
「俺は対人戦があまり好きではなくてな。結局、今までやったことはない」
「そうなんですね。出ると、何かあるんですか?」
「だいたいはアバターとかが賞品で出るはずだ。ほら、あそこに載っているだろう?」
ハクトの指さした先を見ると、賞品の一覧が載っていた。
レベル別にランク分けされているようで、ランクごとに賞品が違うようだ。
その中の一つがティアの目に留まった。
レベル10までが対象となっているランクの優勝商品である髪飾りだ。
「あれ欲しいです! 私、参加してみてもいいですか?」
「お? ええやんか。予選までもう少しあるみたいやから、それまでレベル上げやな」
「はい! ……ちなみに私のレベルって」
ステータス画面を表示してレベル欄を見ると。
「4……」
ガクッと首を垂らした。
考えれば、まだクエストも序盤も序盤だ。レベルが上がってないのもしょうがないことだが。
「レベル10なんて、すぐやで」
「ああ。クエストを終わらせれば、すぐに上がる。予選まで十分な時間があるからな、大丈夫だ」
「分かりました。私、頑張ります! まずはアレルトさんの所に行って、クエスト完了報告しましょう」
意気揚々とアレルトのいるジョブ会館へと向かった。




