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 ウルの発した言葉の意味が理解できなかったティアは返答に困った。


 私がエクソシスト。何からそう思ったのだろう。

 ハクトとケーゴはエクソシストだが、私は違う。もしかして、二人を知っている人なの。


「一緒にいた二人はエクソシストだよね。この界隈では名の通っている二人だ」


「この界隈?」


「こちら側の話さ。もう一度、聞こうか。ティアさん、君はエクソシストなのかい?」


 どう返事したらいいのだろうか。

 悩んだティアは現状を伝えた方が良いと思った。


「私は冒険者ですけど、エクソシストではありません」


 ティアの言葉を聞いたウルの表情が少しだけ硬くなった。


「本当にそう言えるのかい?」


「えっと、はい。今のところは」


「今のところは……か。君はデビルについて、どう思っているのかな?」


「デビルについて?」


 怖い。という印象以外ない。

 人々を襲う悪い存在というのが妥当なのだろうか。

 思案していると、ウルが言葉を続けた。


「人によって答えは違うだろうね。人々を襲う化け物、レアアイテムを落とす存在とかかな。君はこの世界にいるNPCは生きていると思うかい?」


 NPCは生きているのか。ティアは今まであった人たちを思い出した。

 生きているといっても過言ではないだろう。それほど、今の技術は進歩している。

 会話や行動を見ていても、人間と変わりないのだから。


「生きていると思います」


「なるほど。では、モンスターは?」


「う~ん、モンスターも生きていると思います」


「じゃあ、デビルも生きている?」


 デビルが生きているか。モンスターが生きているなら、デビルも生きていることになるだろう。

 ティアは頷いた。

 それを見て、ウルは満足そうに笑みを浮かべた。


「そうだよ。デビルは生きている。君達、冒険者以外の者たちも全て生きているんだ。感情や思想を持って生きている。では、生きている者を殺すのは許されるのか。たぶん、君達はこう言うね。人を襲うモンスターやデビルが悪いから殺すとね」


 思わずウルの言葉に頷きそうになった。

 このゲームの中では、モンスターもデビルも人を襲う。

 それから人々を守るためには、倒すしかない。それがいけないことなのだろうか。


「そう。これはゲームだから、それが正しい。殺されるモンスターやデビルは、人々を攻撃するようにプログラムされた存在だ。殺す以外に選択肢はないよね」


 ウルはしゃんと伸ばした背筋を少しだけ丸めた。


「では、殺される側は、それを甘んじて受け入れるのか。いいや、受け入れないから、抵抗するために必死で戦う。退ければ、それだけ長生きできるからね。生への渇望はモンスターにもデビルにもあるんだよ」


 生きたいという願いがモンスターやデビルにも存在する。

 生きているのであれば、生存本能が働く。ゲームの中の存在でも、それが同じということなのか。


「人々を襲う存在として作られた者達にも、生への執着がある。なんて面倒な生き物だろうね。作った奴らは性根が曲がっているのかもしれない」


「あの、何が言いたいんですか?」


「ごめんね、話が逸れてしまった。君が冒険者として物語を進めるなら、今日の話は忘れてほしい。思う存分、ゲームを楽しんで」


「え?」


「でも、もし、エクソシストになろうと思っているのなら、僕は君に命乞いをしなければならない」


「い、命乞い、ですか?」


「そう。だって、僕は――」


 ウルの瞳が怪しく光った。


「デビルだからね」



 モンスターを討伐したハクトとケーゴは、ティアと別れた屋敷の前にいた。


「ティアちゃ~ん、どこいったんや~?」


 屋敷の前にいるように言っておいたが、どこかに行ってしまったのだろうか。

 ハクトは胸騒ぎを覚えていた。

 その時、凄まじい悪寒に襲われた。鳥肌が全身に立つほどの寒気。


 ケーゴもそれを感じ取ったのか、強張った表情を見せている。


「ハクト、これはなんなんや?」


「分からん。だが、あの屋敷から発せられているプレッシャーのようなものだと思う」


「屋敷? あっ! おい、あれ!」


 ケーゴが屋敷を指さした。

 屋敷がグラグラと揺れ始めると、地面にヒビが入り、土がせり上がっていく。


「なんだ、あれは?」


 姿を見せたのは、屋敷を背中に乗せた、巨大な四足の化け物であった。



 家がグラグラと揺れ、下から突き上げるような衝撃に、ティアはソファの手すりにしがみついて耐えていた。


 その中でもウルは姿勢を変えず、ティアを見据えて言う。


「ティアさん、君がエクソシストになると、どうなるのか想像したことはあるかい?」


「ウルさん! これは!? デビルって、いったい?」


「君の加護は七星。間違いないよね?」


 ウルは確信を持った声音であった。

 ティアは加護については語っていないし、ステータスも非表示にしている。

 なのに、なぜ、加護が七星だと分かったのか。


「隠さなくても良い。ビヒーモスを仕留めた、あの一撃。あれは七星持ちの君がいたから、できた業だ」


「っ!? あれはあなたが?」


「僕が放ったやつではないよ。あれはグリードリッヒの仕業さ。でも、お陰で七星持ちを見つけることができた。まだ、エクソシストになる前の君をね」


「私に何をするつもりなんですか!?」


 ティアの問いにウルは首を振った。


「さっきも言った通りさ。君がエクソシストになるなら、命乞いをしなければならない」


「なんで、そんなこと」


「言ったろう。僕らには生への執着がある。エクソシストは恐怖の存在なんだよ。死んでも死なない君達を恐れるなという方が無理だよね。今はまだ君達と僕らでは、力に大きな差がある。だが、それも絶対的なものではない。時がたてば、その差は縮まるだろう」


 屋敷の揺れが収まった。ウルはソファから立ち上がり、ティアの前で膝をついた。


「でも、君の七星の力は、その差を一気に埋めるかもしれない。運という不確実なものを歪めて、力へと変える君の存在が僕らの死を早めるかもしれないんだ」


「でも、デビルは――」


「そう、倒さなければならない存在だ。僕はね、この世を楽しみたいんだ。一分一秒でも長く生きて、ね。だから、君にはエクソシストになってほしくない」


 そういうと、ウルは立ち上がり、窓を開けた。


「一度、考えてほしい。君が何を望むのかを……。できれば、もう二度と会いたくないな」


 すっと手を上げると、強烈な風をティアは感じた。

 窓に引っ張られる感覚。こらえることができず、ティアは窓の外へと放り出された。



 四つ足の化け物は姿を見せただけで、何の動きも見せなかった。


「ハクト、こいつ、デビルやないか?」


 ケーゴの問いかけにハクトは眼鏡を外して応える。


「ああ、間違いない。だが、これをやるには……。ん?」


 空から何かが振ってきているのが見えた。

 女性の悲鳴と共に、それが接近してくる。

 ティアだ。気づいたハクトは、落下するティアを抱きとめた。


「ティア! 大丈夫か!?」


「ハクトさん!? ありがとうございます。実は――」


 ティアが言いかけたところで、四つ足のデビルがゆっくりと動き始めた。

 それはハクト達に背中を向けると、大きな翼を生やして空へと飛びあがった。

 デビルは悠々と飛んでいくと、見えなくなってしまった。


 残ったのは、屋敷の跡に空いた穴だけであった。


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