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ティアが悲鳴を上げて、ハクトの背後に隠れた。
「む、無理無理無理です。生理的にダメです~」
悲痛な叫びを続けるティアに困惑する二人。
そうとは知らないモブゴブリンは、一番近くにいるケーゴに殴り掛かった。
だが、ケーゴとモブゴブリンではレベルの差が桁違いのため、何のダメージも負うことはなかった。
「見ようによっては可愛いんとちゃう?」
「いや、可愛くはないだろう。ん~、どうしたらいいか」
ハクトの背後に隠れるティアが、ケーゴを一心不乱に殴り続けるモブゴブリンを見た。
「ひ~」
「まあ、リアルに作られとるから、きつい子にはきついかもな。こればっかりは慣れやな」
「それしかなさそうだな。ティア、頑張れ」
あっさりと突き放したハクトの言葉で、ティアは愕然とした。
見た目がまったく可愛くない。いや、可愛かったら倒せるのかと言われる逆に倒せない気がする。
もっと程よい造形にしてくれたら良いものを。
ティアはハクトの陰に隠れながらなんとかモブゴブリンを観察した。
確かに強くはなさそうだ。これくらいなら、私でも倒せそう。
冒険者と対峙したくらいだ。できないことはないはずだ。
ハクトの背後からゆっくりと体を出した、ティアは細剣を抜いた。
「ケーゴさん、ハクトさん、私、やってみます!」
「ええぞ、ティアちゃん! ほれ、お前の相手はあっちや」
そういったケーゴはモブゴブリンを小突いて、ティアの前に押し出した。
ティアと目が合ったモブゴブリンが「シャーッ」と威嚇を始めた。
やっぱり気持ち悪い。でも、これを倒さなければ。
ティアは腹を決めた。
「ファントムソード!」
周囲に煌めく十本のファントムソード。
ティアは細剣を、すっと上にあげた。その動作に従うようにファントムソードが宙で一列に並ぶ。
そして、切っ先をモブゴブリンに向けた。
「シューティングスター!」
ファントムソードが一筋の流れ星のように煌めき、モブゴブリンを貫いた。
圧倒的な暴力にさらされたモブゴブリンは地面に崩れ落ちると、塵となった。
「やった? やりました! わーい」
「やりすぎちゃう?」
「なかなか容赦がないな」
喜ぶティアの横で、若干引いた二人であった。
◇
アレルトの依頼である、モブゴブリンの三体討伐はあっさりと終わった。
一度戦ってしまえば、次からはとんとん拍子に倒すことができた。
ティアも戦いに慣れたのか、上機嫌である。
リンデンに帰った三人はジョブ会館にいるアレルトに報告をし、次なるクエストを受けることとなった。
「次のクエストですが、リンデンの北にある集落にいる衛兵のミゲルという者へ、この手紙を持って行ってください」
「分かりました」
「もし彼から依頼があれば、それも受けていただけると助かります」
ティアは頷くと執務室を後にした。
リンデン以外の街に行くことができることにティアはテンションが上がった。
意気揚々とジョブ会館を出ると、東に向かって歩き出した。
「ちょーい、ティアちゃん、こっちこっち」
「あっ! すみません。北門からでないとですね」
「せや。移動はどないする? 馬車に乗るのも手やし、ボチボチ歩くのもええと思うけど」
「馬車も良いですね。旅って感じがします」
会話をしながら歩くと、気づけば北門の傍まで来ていた。
門の近くには馬車が何台か止まっており、その中の一台にハクトが交渉をしに行った。
話がついたのだろう。こちらに来るよう手招きしたので、その馬車に乗った。
馬に荷台が引かれて、ゆっくりと動き出した。
リンデンを出て、北へ向かって進む。
◇
荷台に揺られること一時間。
小さな集落が見えてきた。家が十棟程度のもので、こじんまりとしている。
「こういうところにも、衛兵さんがいるんですか?」
ティアがハクトに問いかけた。
「小さな村などにも、数名の衛兵を置くようになっているんだ。モンスターが出た場合に対応できるようにな」
「なるほど。確かにモンスターが襲ってくるかもしれませんもんね」
「おとなしいモンスターも多いが、好戦的な奴らもいるからな。それなりに熟練した者たちがいるんだ」
ちょうど集落の入り口に立つ衛兵と思われる男性が目に入った。
馬車はそこで止まり、次なる街へと向かっていった。
ティアは衛兵に声を掛けた。
「あの、ミゲルさんという方はいらっしゃいますか?」
「私がミゲルです。何か御用ですか?」
「アレルトさんから預かってきた物があるんです」
そういうと手紙を取り出して渡した。
ミゲルは礼を言って受け取ると、手紙の封を開けて中を読み始めた。
「う~む。これは困りましたね」
「何かあったんですか?」
「モンスターの討伐をお願いされたのですが、別に調査をしなければならないことがありまして。調査とは言っても、現地に確認しに行くだけなのですが」
悩ましそうにしているミゲルを見て、ティアは振り返ってハクトとケーゴを見た。
「これってイベントですか?」
「せやな。受けてもええし、受けんでもええやつやと思うで」
「う~ん……」
せっかくのイベントなら受けた方がいいのかな。
このままリンデンに帰るのも、もったいない気がする。
ハクトを見ると、小さく頷いたので二人とも嫌ではないということだ。
「あの、私たちがその調査に代わりに行きましょうか?」
「本当ですか? それはありがたいお話です。では、詳しい場所を教えしますので、詰め所までお越しください」
ミゲルに案内されて詰め所へと向かった。




