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 アルバイトを終えた紗友里は自室に戻ると、部屋着に着替えてからベッドに寝転がった。


 携帯端末を取り出し、コミュニケーションアプリを使って大学の友人達のチャットに目を通す。

 当たり障りのない言葉を打ち込む。

 そうしていると、新着のお知らせが届いた。


 見れば美羽からだ。明日のお出かけのお誘いであった。

 了解、と打ち込むと、返信を終えた。

 そうして、一通りのことを終わらせるとヘッドギアをかぶり、『ユニティ』の世界にダイブした。



 先日、ログアウトをしたのが修練場だったので、開始地点も修練場だ。


 フレンドリストを表示すると、まだハクトもケーゴもログインしていないようなので、自分の訓練をしよう。

 細剣を手にし、案山子に向けて斬りかかった。

 声を上げながら突きや斬撃を繰り出す。昨日よりも確実に上達していることが自分でも分かった。


 あとはファントムソードをどれだけ使えるようになる必要があるかだ。

 しばらく剣の鍛錬を行ったところで、ファントムソードの操作の練習に取り掛かる。

 イメージ、集中。そして、顕現。


 現れたファントムソードに動けと念じてみる。

 すると、十本ともふわふわと浮かび、前にゆっくりと飛んで行った。

 次は戻れと念じる。


 これも、緩慢な動きでファントムソードが戻ってきた。

 がっくりと肩を落とした。もっと、機敏な動きをしてくれるものと思っていたのに。

 前に夢中で動かしたときは、まったく制御はできなかったが勢いは凄まじかった。


 あの勢いでファントムソードを制御できれば、ファントムフェンサーと胸を張って言えると思う。

 もっと集中しなければ。全部が無理なら一本づつ。一つの剣に意識を向け、案山子を貫くイメージを送る。


「行けっ!」


 ティアの声に応じたように、一本のファントムソードが案山子に突き立った。


「やった!」


 声を上げて喜んだ。思ったよりも早くできるかもしれない。

 残りのファントムソードも、一本づつ意識を集中し念じることで直線的に動かすことができた。

 ただ、一本動かすだけでもかなりの集中力を要するので、だんだん疲れが溜まってきた。


 修練場の端の方へ行き、木箱の上に腰を下ろした。

 ここから見ると、様々なジョブの人達がいることが分かる。みんなここで戦い方を学んで、外の世界に行くのだろう。

 外の世界を冒険するのは、どんな感じなのだろう。


 想像するだけでもワクワクする。まだ見ぬ光景が私を待ってくれているのだ。

 少しの休憩を終えると、再び案山子の元へ向かおうとした。


「ティアさん」


 呼びかけてきたのはアレルトだった。


「アレルトさん、こんにちは」


「ええ、こんにちは。どうですか? 訓練の進捗は?」


「はい! ファントムソードも一本ですけど、少しは使えるようになりました」


「ほう。では、見せていただけますか?」


「分かりました」


 そういうとティアはファントムソードを出現させる。

 そのうちの一本に集中し念じる。


「行け!」


 ファントムソードが案山子の胸を貫いた。さらに残りの九本も同じように飛ばした。

 アレルトが難しそうな顔を見せた。

 何を悩んでいるのだろう。少し不安になってきた。


「ティアさん」


「はいっ!?」


「何で、そんなに怯えるのですか? 今度は全部のファントムソードに意識を集中してみてください」


「分かりました」


 全部はできないんだけどなぁ。

 そう思ったティアは、意識を全てのファントムソードに向ける。

 十本全部となると、一本と違って意識が分散してしまうのか、イメージがどうもうまくできない。


「ゆっくりとファントムソードを一列に並べてください」


「はい」


 動け。そう念じると、フワフワとファントムソードが一列になった。


「いい感じです。どうですか? 今のファントムソードの配置なら、意識を集中しやすいのではないですか?」


 言われれば、そうだ。連なっているせいか、一本の剣のように思える。


「バラバラのものを動かすのは容易ではありません。それが十本になれば、尚更です。ですから、意識を集中しやすい形に配置することが大事なのです」


 なるほど。アレルトの言葉で何となくだが理解できた。

 まずは動かしやすい位置に持っていくことが大事ということだ。


「では、その一本の状態で、全てを一斉に動かしてください。標的はあの案山子です」


「はい。……行けっ!」


 ファントムソードが意思を持ったように動き、案山子に一斉に殺到した。

 十本のファントムソードに串刺しにされた案山子は、ズタボロになって、地面に転がった。


「今の技がシューティング―スターです。感覚を覚えているうちに何度かやりましょう」


 シューティングスター。ついに技を覚えることができたんだ。

 感動に打ち震えるティアは、今の感覚を忘れないようにするために、何度もファントムソードを操った。

 しばらくすると、アレルトが「止め」と言った。


「シューティングスターについては十分に使いこなせるようになったと思います。これは初歩の技ですが、会得したことには変わりませんので、次のクエストをお願いしても良いでしょうか?」


「えっ!? 良いんですか?」


「もちろんです。貴女の腕なら十分だと判断しました。依頼内容は、こちらに書いてありますので、後で読んでください。それでは私は書類仕事がありますので」


 そういうと、アレルトは修練場を後にした。



 ティアが修練場を離れたのと同時に、ハクトがログインしたとの通知が流れた。

 新しいクエストを受領したことを伝えようと、連絡をすることにした。


「ハクトさん、お疲れ様です。次のクエストを受注しました」


(おお。頑張ったな。ケーゴがもう少ししたらログインできるらしいから、少し待ってもらえるか?)


「はい。では、南門で集合しましょう」


(分かった。場所は大丈夫か?)


「何度も行っているから大丈夫ですよ。じゃあ、また後で」


 通話を切り上げたティアは鼻歌交じりで北の方へと歩き出した。



「すみません、すみません」


 何度もティアは頭を下げた。ハクトはあきれ顔を見せ、ケーゴは半笑いでそれを見ていた。


「言った傍から道を間違うとはな」


「すみません。またちょっとテンションが上がってしまいまして」


「まあまあ、二人ともええやんか。ティアちゃん、クエスト受注したんやろ? なんて書いてあった?」


 ケーゴの助け舟に乗ったティアは、渡された手紙を開く。三人でそれを覗いた。


「モブゴブリンを三体討伐?」


「あ~、最初はそんなもんやったな。ティアちゃん、安心せえ。楽勝や」


「そうなんですね。良かった。じゃあ、早速行きましょう」


 意気揚々とリンデンの南門を三人はくぐって街道を歩き始めた。


「街道沿いはモンスター少ないから、少し道から離れよか」


「はい。ドキドキしてきました」


「せやろ? 初めのころはドキドキとハラハラの連発やったわ」


 談笑している三人の前の草むらが、ガサガサと動いた。

 飛び出してきたのは、身長が五十センチもない大きさのモンスター、モブゴブリンであった。

 醜悪な顔をしたモブゴブリンを見て、ティアが声を上げた。


「ひえぇぇぇ~。怖い~!」


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