表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/99

12

 ティアの周りを囲むようにして現れたファントムソードを見て、周りが唖然とし、次第にどよめきだした。

 

「十本って、マジ?」


「アレルト先生でも八本なのに。なんなの、あの子」


 先ほどまでの蔑んだ視線は、どこに行ったのか。

 周りのティアを見る目は、驚きと好奇に満ちたものに変わった。

 だが、一番驚いているのは、ファントムソードを出現させたティア自身であった。


「えっ? な、な、な、なんで、こんなに?」


 宙を漂うファントムソードの一本に、アレルトが触れた。


「私の見立てに狂いはなかったようですね。あなたにはファントムフェンサーの天賦の才があります」


「え~!? でも、私――」


「ファントムソードの数は才能と経験の二つで決まります。ですが、あなたはまだファントムフェンサーとしての経験はゼロです。となると、才能だけで私の本数を上回っていることになります」


「才能って言われても」


 何が何だか。


「困惑するのも分かります。ファントムフェンサーは、センスがものを言うジョブなので、こういうこともある。と思ってください。ただ、数におごってはなりません。例えば」


 アレルトは言うと、細剣を鞘から抜き放ち、ファントムソードを八本出現させた。

 そして、細剣を軽く振るう。

 その瞬間、アレルトのファントムソードが意思を持ったように動き、ティアのファントムソードを貫いた。


「え?」


 十本あったティアのファントムソードは瞬く間にバラバラにされ、キラキラと輝きを放って宙へ消えた。


「このように、まだ脆い。才能に溺れれば、あなたの剣は容易に折れます。一緒に研鑽を積みましょう」


 そういうと、手をパンパンと鳴らして、周囲の注目を集めた。


「さあ、訓練を続けましょう。まずは一本です。ファントムソードを一本操れるようになりましょう」


 それぞれが訓練の続きに戻るのを見たティアは、慌ててアレルトに問う。


「わ、私は何をしたら?」


「まずは皆さんの動きを見てください。その後に、私から手ほどきをします」


 ティアは頷くと、先輩達の剣の振るい方をじっと観察し始めた。

 ファントムソードを出現させた者も、それを操るのには苦労している者が散見された。

 どれくらい時間がたっただろうか。そろそろ自分も訓練に加わりたいとうずうずしていた時、アレルトが声をかけてきた。


「こちらへ」


 そう言われて向かった先には、藁でできた人の形をしたものがあった。いわゆる案山子である。


「剣を構えてください」


 ティアはアレルトに言われるまま、細剣を手に持ち、切っ先を案山子に向ける。


「突き」


「や、やあー」


 先輩達の剣の振り方にならって、ティアなりに精一杯の突きを繰り出した。

 切っ先が案山子の腹に突き立つ。


「恥ずかしさがありますね。まずは恥を捨ててください。突き」


「やあーっ」



 みっちり三時間の訓練を終えたティアは、くたくたになりながら修練場を後にした。

 今日の成果は何といっても恥を捨てて剣が振れたことだろう。

 ファントムソードについては、最初に出した以外は出すことはなかった。


 後は自主練と言われて、今日使用した細剣を持って帰っている。


「才能と経験かぁ……」


 才能があるというのは素直に嬉しいと思える。あとは経験。

 どれくらいの経験が必要なのだろう。

 今日の訓練を思い出すと、まだまだ訓練しないといけない気がする。


「頑張れ、私!」


 自分に活を入れた。


「それにしても、霧が濃くなってきたなぁ」


 こう霧が濃いと移動が大変だ。

 ハクトとケーゴから連絡は来ていないので、どこかで時間を潰そう。

 そう思い、向かおうと思ったのがケーゴに教えてもらったレストランであった。


 また人に道を尋ねよう。

 キョロキョロと辺りを見回すが通りに人はいなかった。

 これにはまいった。勘で行って、行けたためしがない。


 どうしようかと悩んでいると、霧の奥に人影が見えた。

 これを逃してはならないと、足早に人影を追い始めた。

 人影はどんどん先に行ってしまう。そうしていると、人影がただ歩いているだけではないように見えた。


 身をよじっているのか人影は奇妙に動いている。

 もしかして、人じゃない。怯んでいると人影は路地裏に入っていった。

 どうしよう。でも、周りに人もいないし。


 ティアの取った選択は、そのまま人影を追うことであった。

 路地裏を駆けるティア。路地裏は霧が薄いためか人影の正体が分かった。

 女性を羽交い絞めにして、無理やり連れて行こうとする大柄な男の姿だった。

 

 とてもまともな光景ではなかった。まだ二人はティアに気付いていない。

 誰かに助けを求めるか。でも、人は周りにいなかったし、ハクトとケーゴもいない。

 こういう時、どうしたら良いのか。


 さらに路地裏の奥に進む二人を見て、ティアは意を決してチャット欄を開く。

 シャウトを選択して、「助けて」と入れた。

 これで誰か来てくれるかもしれない。女性に何かあっては襲い。すぐに止めなければ。


 二人の姿が見えたところで、大声を上げた。


「何をしているんですか!?」


 霧の奥から見えた覗いた顔を見て、ティアは「あっ」と声を上げた。


「あなたは!?」


「ちっ! 見られちまったか」


 舌打ちしたのはジョブ会館の傍で、女性に手を上げた冒険者だった。では、それに捕まっているのは。


「アリアさん!」


 アリアは口を男に抑えられているため、くぐもった声で助けを必死で求めていた。


「アリアさんを放してください!」


「お前、初心者だな。今なら見逃してやるよ。大聖堂送りは嫌だろう?」


「人を呼びますよ!?」


 ティアが言うと、男は下卑た笑い声をあげた。


「こんな路地裏で叫んでも助けは来ねぇよ」


「くっ。なんでアリアさんを連れて行こうとしているんですか?」


「はっ! 決まっているだろう。あのファントムフェンサーの前で殺すんだよ。俺に恥をかかせたんだからな」


 そんな理由で人を殺すの。

 いや、NPCだから現実では犯罪にはならないのかもしれない。

 けど、みんな意思があるようにしか思えない。この世界ではプレイヤーもNPCも同じ存在だと思う。

 

 それなのに、この人はNPCだから何しても良いと思っているんだ。

 ティアの中に怒りの炎が燃え上がるのを感じた。


「そんなこと! 私が許しません!」


「ははっ。お前みたいな初心者に何ができる? いいぜ。お望み通り大聖堂送りにしてやる」


 男は背中にある斧を掴んだ。

 ティアは細剣を抜いて、今日学んだ剣の構えを見せた。

 そして、イメージと集中。それを魔石に流した。


 キラキラと煌めくファントムソードが十本顕現した。

 勝てる勝てないではない。この男は許してはならないのだ。

 必ずアリアを助けて見せる。


 ティアの戦いが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ