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 薄っすらと霧の漂うリンデンのレストランでティアはパスタを食べていた。


「美味し~い」


 満面の笑顔で言うとケーゴがティアの機嫌を伺うように言う。


「ティアちゃん、機嫌なおしてくれた?」


「そんなに怒ってないですよ。もう、気にしないでください」


「いやぁ~、ティアちゃんは優しいわぁ~。ハクト、お前も共犯やぞ。謝れ」


 ケーゴに肘で小突かれたハクトは促された通り、頭を下げた。


「すまない。アレルトさんは礼儀にうるさい人だから、先に伝えるべきだった」


「そんなこと言って、どうなるか少し楽しみにしていたんじゃないんですか?」


「そんなことはない……わけでもないが。悪かった。許してくれ」


「素直に謝られたら、ちょっと反応に困るじゃないですか。大丈夫ですよ」


 怒っていないのは本当である。ただ、少しだけ意地悪をしたかっただけだ。

 アレルトのマナー教室を乗り切った後、ケーゴに聞いたところ、ファントムフェンサーに礼節は別に必要ではないと聞いた。

 礼節にこだわっているのはアレルトだけで、他の都市にいるファントムフェンサーのマスターは普通に戦い方を教えてくれるそうだ。


 じゃあ、あの時間はなんだったのだ。という思いをしたから、二人を困らせたくなり不機嫌なフリをした。

 そこでお詫びにということで、ケーゴの知っているお勧めのレストランでおごってもらうという話になったのだ。


「ここのパスタ、本当に美味しいですね」


「せやろ? わいもよく食べにくるんや。あ、でも、あんまり人に教えたらあかんで? 知る人ぞ知る、ってのがええんや」


 食事と会話を楽しんでいると、頭の中にピピピピピ、という電子音が鳴り響いた。

 視界の端にチャットの通知が出ている。チャット欄を開くと、思わず息を飲んだ。


<デビル出現。ペールテッドの森でデビル出現>


 ティアはチャット欄から目を話し、ハクトとケーゴを見る。

 二人とも、自分が見たものと同じものを見たのか険しい表情をしていた。


「ケーゴさん、これって?」


「銀の血盟のメンバーのシャウトやな」


「シャウト?」


「シャウトというのは、全プレイヤーに通知したい時にチャットするものだ。ただ、迷惑になることも多いから、こういう非常事態の時にしか使わない」


 ハクトが説明すると、さらに続けた。


「シャウト以外にもグループ、ギルド、周囲やパーティー、フレンド、個別とチャットの種類がある。まあ、慣れてきたら使ってみるといい」


「分かりました。……あの、お二人は行かれるんですか?」


「ペールテッドの森か……。少し遠いが行ってみるか」


 そういうと、ハクトとケーゴが席を立った。

 エクソシストとしてデビルと戦うなら、せめて見送りくらいはと二人について外へ行く。

 外に出るため門へと向かっていると、空を駆ける羽の生えた馬が四頭見えた。


「あれって、ペガサスですか?」


「銀の血盟のメンバーが出動したんや。わいらもはよ行かなな」


 門をくぐり外に出ると、二人は宙に指をさしていた。

 アイテムを使用しているのだろうか。そう思っていると、ボンッという音とともに煙が上がった。

 何事かと思っていると、煙の中から馬とバイクが出てきた。


 馬は大柄で、赤い肌に赤い毛並みだった。

 バイクはアメリカンのスタイルだが、タイヤが炎に包まれており、少し浮いている。


「これ、何ですか?」


「マウントってやつや。さっきのペガサスみたいなもんやけど、空は飛べへん。ただ、スピードはトップクラスやで」


「そうなんですね。気を付けてください」


 ティアが言うと、二人は頷きマウントに乗った。


「ティアちゃんは、アレルトさんのところで稽古に励むとええ。ほな、また後でな」


「頑張れよ」


 そういって、ペガサスが飛んで行った方向へとマウントを走らせた。



 ティアは二人を見送ると、修練場へと向かった。

 アレルトから街の外れにあると聞いていたが、分かる気がしないので道を行き交う人々に聞きながら向かった。

 そうして数人に声を掛けながら着実に修練場へと近づき、次に声を掛ける人を探した。


「あっ」


 一人の人物に目が向いた。それは先ほど、大柄の男に連れていかれそうになっていた女性だ。

 あの時はちゃんと見ていなかったが、こうして見るととても綺麗な女性だった。

 ティアの視線に気づいたのか、女性から声を掛けてきた。


「どうかしましたか?」


「えっと、修練場の場所を教えていただけないでしょうか?」


「いいですよ。ちょうど私も行くので一緒に行きましょう」


「ありがとうございます」


 お礼を言うと一緒に修練場へと向かった。

 何も喋らないのも気まずいので、修練場に何をしに行くのか聞くことにした。


「私はティアと言います。修練場に何をしに行くんですか?」


「遅くなりました。私はアリアと申します。私は修練場に差し入れに行く予定なんです」


 言うと、手に持っていたバスケットに目を向けた。


「ティアさんは訓練に行かれるのですか?」


「はい! 私、ファントムフェンサーになるんです」


 少し鼻息を荒くして言うと、アリアは少し驚いた顔を見せた。


「ファントムフェンサーということは、アレルトさんの元で学ぶのですか?」


「はい。めちゃくちゃ厳しそうですけど、頑張ります」


「そうなんですね。アレルトさんには先ほど危ういところを助けていただきました。お返しに差し入れを持っていくことにしたんですよ」


「なるほど。お礼をしに行くんですね」


 談笑をしていると修練場に着いた。

 二人で修練場の中に入ると、アレルトが数名の冒険者に細剣の手ほどきをしていた。

 ティアの存在に気付いたアレルトが近づいてきた。


「予定よりも早く来るのは、とても良い心がけです。おや、あなたは?」


「先ほどは、ありがとうございました。お礼にこちらをお持ちしました。お口に合えばよいのですが」


「それはありがとうございます。後程、いただきたいと思います。それではティアさん、早速、訓練と行きましょう」


「はい!」


 ティアは意気込みを見せると、アレルトが一本の細剣を差し出した。


「練習用です。刃引きをしているのでご安心を。では、ファントムソードを出現させて見ましょう」


「え? もうできるんですか?」


「その剣にはめられている魔石に魔力を流せば、ファントムソードを出すことができます」


「あの、魔力の流し方って?」


「イメージと集中です」


 あっさり回答されたが、さっぱり理解できない。

 イメージと集中と言われても。

 ティアは先ほどアレルトが見せたファントムソードをイメージし、集中する。


 細剣の柄にある魔石に力を集中させる。

 ティアの目が見開いた。


「……な、何も起きませんね」


 ティアが困惑気味に言った。すると、それを周りの冒険者が見ていたのか、クスクスと笑う声が聞こえた。


「やだ。あの子、一本も出せてなくない?」


「うわっ。恥ずかし~」


 心無い声が聞こえた。穴があったら入りたい気分になってきた。

 しょげているとアレルトがティアの手にそっと触れた。


「ふむ。……少し待っていてください」


 アレルトは言うと、修練場の奥の部屋へと向かった。

 その間、ティアは好奇の目にさらされることになった。

 そんなに簡単にできることなんだ。それができない私って。


 自分を責めていると、アレルトが部屋から出てきた。

 手には先ほど渡してもらった細剣よりも、華美な装飾が施された細剣を持っていた。

 その剣をティアに渡したアレルトが言う。


「もう一度やってみてください」


「え? でも……」


「大丈夫です」


 また恥ずかしい思いをしなければならないのか。これでダメだったらファントムフェンサーは諦めよう。

 再び光る剣をイメージし集中する。それを魔石へと流していく。

 すると、魔石がまばゆい光を放った。


 ティアの周りを囲むように現れた光の剣。それが十本。

 アレルトを除く者たちが呆気に取られ、大口を開けて、それを見ることしかできなかった。


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