10
悲鳴に反応したティアは窓から外を見た。
見下ろすと人だかりができているのが見えた。
人だかりの中心に目を向けると、一人の大柄の男が若い女性の手を無理やり引っ張っている姿があった。
女性は嫌がっており、助けを求める声を上げていた。
「誰か、助けて!」
「黙れ! 良いから来い!」
女性をグッと引き寄せると、その頬を手で叩いた。
「酷い!」
思わず声を上げたティアは、自分の横にアレルトが来ていたことに気づく。
アレルトはその様子を見ると、一つ息を吐いた。
「冒険者ですか。では、私の出番ですね」
「え?」
ティアの呆気に取られていると、アレルトは細剣を手にして三階から飛び降りた。
地面にスタッと降り立つと、人だかりに近づいていく。
大柄の男は強そうに見えた。アレルト一人で対処できないかもしれない。
こうしてはいられない。ハクトやケーゴにも伝えて、女性を助けに行こう。
部屋のドアを開けると、二人が談笑している姿が見えた。
「あ、ティアちゃん、すま――」
「ケーゴさん、ハクトさん、一緒に来てください!」
そういうと、二人は顔を見合って頷いた。
ジョブ会館の階段を駆け下りると、騒ぎの起きている通りへと走る。
人だかりに着くと、人をかき分けて騒ぎの中心へと向かった。
そこには大柄の男とアレルトがにらみ合っている姿があった。
「なんだ、てめぇ! もう一度、言ってみやがれ」
大柄の男が姿同様に大きな声で言った。
アレルトはそれを意に介してはいない感じであった。
「聞き方がなっていませんね。人に物事を頼む態度とはとても思えません。仕方がありません。もう一度言います。女性を解放して、謝罪してください」
「なんで俺がNPCに頭を下げなきゃならないんだよ! 俺達を楽しませるのがNPCの役目だろう?」
「なるほど。あなたにとってのNPCとは、そのような扱いなのですね」
「はっ。そういうこった。だからよぉ、お前も俺を楽しませる側なんだよ!」
大柄の男が女性を突き飛ばすと、背負っていた斧を手に取った。
その斧を高々と掲げると、アレルトに向け思い切り振った。
空気を断ち切るような力強さの一撃を、アレルトは紙一重で避けていた。
「ちっ!」
舌打ちをした大柄な男は、アレルトにタックルを仕掛けた。
その攻撃をひらりとかわしたアレルト。顔を赤くした大柄な男が吠えた。
「殺してやるよー! パワーウェイブ!」
斧に光が宿り、男は渾身の一撃を繰り出した。
横一線に斧を振るうと、光が津波のようにアレルトに襲い掛かる。
光の津波に飲まれた。その瞬間、光の津波が両断された。
アレルトが細剣を構えた姿が見えた。
「その程度ですか?」
「くそっ! なら! パワーチャージ!」
大柄な男は叫ぶと、オーラのようなものが宿っていく。
「ぶっ殺す! アンガークラッシュ!」
また斧に光が宿る。今度は光が斧の形に変わり、斧を一回り大きくした。
まさしく全力。その一撃がアレルトに繰り出された。
だが、斧は空を斬り、地面を深くえぐっていた。
アレルトは。
ティアは探すと、空を舞ったアレルトの姿が見えた。
細剣から繰り出される突きが、大柄な男に刺さる。
「ぐあっ! くそったれ!」
大柄な男が振り向きざまに斧を振るおうとした。
その時。
「ファントムソード」
アレルトがそういうと、キラキラと光る剣が八本現れた。光る剣は、目にも止まらぬ速さで男に突き立った。
「ぐああーーーー」
男の絶叫が響く。
そのまま地面に倒れると、体が青い光に包まれた。その光は天に昇ると、どこかに飛んで行った。
アレルトは細剣を鞘に納めると、地面に尻もちをついている女性のもとへ行き、手を差し伸べた。
人だかりから歓声が響く。
「さすがはアレルトさんだ」
「ジョブマスター、ありがとう!」
アレルトを褒めたたえる声が至る所からあがった。
それに別に応えることなく、女性を立たせる。女性からお礼を言われ、二言程度言葉を交わした。
そうして、アレルトは会話を切り上げると踵を返した。
そこでティアと目が合うと、ツカツカと近寄ってきた。
「失礼しました。お話の途中でしたね。お話の続きはジョブ会館に戻ってからにしましょう」
そういうと、アレルトは先にジョブ会館へと向かった。
ティアは慌てて、そのあとを追った。
◇
ジョブ会館の部屋に戻ったティアとアレルトはソファに面と向かって座っていた。
「先ほどは失礼しました」
「いえ、すごくカッコよかったです。あの、アレルトさんは普段から、人助けをしているんですか?」
「冒険者の暴力沙汰には介入します。冒険者の力は街の衛兵よりも強い方が多いですからね」
なるほど。衛兵より強い冒険者を取り押さえるには、ジョブマスターのような強い人でないと難しいということか。
「あの、ちょっと質問があるのですが」
「なんでしょうか?」
「あの男の人はどこに行ったんですか? 光になって空に飛んで行っちゃいましたが?」
「冒険者は戦闘不能になり蘇生がなされないと、ホームポイントの大聖堂で復活するのです。彼はリンデン以外のところをホームポイントにしていたのでしょうね」
そんな仕組みだったんだ。まだ戦闘不能になったことがないから知らなかった。
ティアはアレルトの話に何度も頷いた。
アレルトは居住まいを正すと、じっとティアの目を見据えた。
「ティアさん、先ほどの話に戻します。私はあなたに可能性を感じております。ここで学べば大成するに違いないと。いかがでしょうか? ファントムフェンサーになってみませんか?」
可能性。冒険者を圧倒できるほどの力を持ったジョブマスターから、ここまで言われたら断る言葉が思いつかない。
もともと興味を持っていたジョブなのだ。自分を快く迎えてくれるなら、これ以上のことはない。
「はい。ぜひ、私に教えてください」
ティアの言葉に、アレルトは優しい笑みを浮かべた。
「では、まずはマナーからですね。ソファーに座るときは深く腰掛けず、浅く腰を掛けるのが――」
「ひえーー。やっぱり選択間違えたかもー」




