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3日で妊娠した女性の話

作者: Ryo

「妊娠しました。」


もし突然、そんなメッセージが届いたら、あなたはどう思うだろうか。


しかも、それがたった三日前にキスをしただけの相手からだったとしたら——。


この話は、そんな奇妙な体験をした俺の、ちょっとした思い出話である。


ある春の日、何気なく公園で鳩を眺めていたとき、ふと過去の出来事が脳裏をよぎった。軽い気持ちでナンパをした女の子。別れたあと、特に何の感情も持たなかったはずの相手。それなのに、三日後に届いた不可解な一言。


一体、あれは何だったのか。


真実は今も分からないが、少なくとも俺は、鳩の求愛ダンスを見ながら、そんな記憶を思い出していた——。

昼下がりの公園で、ベンチに腰掛けながらぼんやりと空を眺めていた。秋の陽気に包まれ、時間がゆるやかに流れていく。ふと視線を下ろすと、目の前の地面で鳩が二羽、向かい合っていた。一方の鳩がやたらと首を振りながら、もう一方の鳩に近づいていく。求愛ダンスというやつか。


「鳩でもナンパするんだな」


そんなことを思いながら、昔の記憶がふっと蘇った。


ーー


まだ俺が愛知県の岡崎に住んでいた頃。あの頃はよくナンパをしていた。成功率は2割ぐらい。たまたま上手くいった日、連れ帰った女の子と軽く飲んで、キスをして、帰らせた。連絡先は交換したものの、深く関わるつもりはなかったから、俺のほうからは何も送らなかった。


それから三日後。


突然、その子からメッセージが来た。


「妊娠しました」


一瞬、ケータイの画面を見つめる。次のメッセージを読む。


「あなたの子です」


冗談だろ。


たった三日で妊娠が分かるわけがない。そう思いながらも、「どういうこと?」と返信すると、彼女は淡々と話し始めた。


親が医者だから検査をした。間違いない。だから中絶費を出してほしい。


……いや、いやいやいや。


どう考えてもおかしい。そもそもキスまでしかしていない。何かの冗談か、もしくは別の誰かの子を押しつけようとしているのか。冷静になりながら「親と話させろ」と返した。


それから約一ヶ月、メールでのやりとりが続いた。


彼女は最初こそ強気だったが、俺が何度も「親と直接話す」と言い続けたせいか、次第にトーンが変わっていった。最終的に、ある日を境にパタリと連絡が来なくなった。


……まったく、何だったんだ、あれは。


ーー


気がつくと、鳩の求愛ダンスは終わっていた。どうやら、メスのほうが逃げたらしい。


ナンパってのは、そんなものだよな。


俺は軽く伸びをして、また空を見上げた。秋の風が心地よかった。

後書き


人生には時々、「説明のつかない出来事」がある。


三日で妊娠するわけがない。それは誰にでも分かる理屈だ。だけど、あのときの彼女は本気でそう信じていたのか、それとも別の意図があったのか——結局、真相は分からないままだ。


思い返してみると、あれはただのナンパの延長だった。深く考えず、軽い気持ちで関わった相手。だけど、そんな軽い出会いの先には、時に理解不能なドラマが待っていることもあるらしい。


あの公園で鳩を眺めていた日、俺は改めて思った。


ナンパっていうのは、結局のところ、飛び立つか逃げるかの駆け引きだ。そして時々、飛ぶはずのないものが、想定外の軌道で舞い降りてくる。


もう二度と、あんなメッセージは受け取りたくない——そう思いながら、俺はベンチを立ち、春の風を背に歩き出した。

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