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【灰の邂逅】

特異なことはありますか?

薄暗い、されど明るい。そんな曖昧が交差し目眩がするような光景の中に2つの影…否、光とも言える"存在"が言葉を交わす。


---声が聞こえる---



「ここから先はボクの管轄だよ」


「冷たいノね。私達が力を合わせれば良いんじゃない?」


---頭に響く---


「冷たい?見ない間に冗談も上手になったのかいフタフサ。世界たる我々が人間のような感情があるとでも?」


「ヒトフサ、あなたも昔と比べて随分変わったもノ。言ってることは分かるはずよ」


ヒトフサと呼ばれた存在が、自らの位を下げる発言に怪訝そうな声色でもう一方へと圧をかけている。


---誰だ?---


「降臨ノ媒体が人間であるあなたが感情を理解出来ないノなら、私ノ方が上位であるということかしら?」


フタフサはただからかっているだけだと言わんばかりにクスクスと笑う。


「聞き捨てならないな。ボクが人間の感情を理解出来なくて嘆くわけないだろう。理解した上で理解し難い存在なんだよ」


---まるで人間では無いかのような---


「でも、ここにあなたが来たということはそノ時が近いノね?」


「あぁ、そうだ。ボクを求めて人間が争っている。これで何度目だろうね。しかし、今回ばかりは違うようだよ。何故か人間の世界だけではなく全ての世界が繋がっているんだ」


「だからこそ私達が久しぶりにおしゃべり出来ているんじゃないノ?」


「わかった上でこの異常を正常へ導く必要があると言ってるのさ。"全ての世界が繋がる"のは初めてだからね。」


「面白くなりそうね。ふふ♪」


---途端に意識が朦朧としていく---


「ん?おや、どうやらボクの世界からお客人が来ていたらしい。ここに意識が来れただけでも凄いのに、波長が合うようだね。でももうお眠りなさい。星である君に負担がかかってはいけない」


じゃあ、また会おう


そんな言葉を聞いた気がした。直後、意識が溶けたような感覚が全身の重さとなってその光景から引き剥がす。


---ヒトフサ---


---ボクの願いを、君の想いを---




最近ニュースでは怪奇現象が取り上げられている。不思議な力を持つ人間の存在が時折語られているのだ。何も無い場所で大きな爆発が起きたとか、人が瞬間移動したとかの噂が広がっている。


どれもこれも環境や見る角度によってはそう見えるだけで、錯覚に過ぎないと専門家は煽る。

ここ、一星学園の学生である彼らもまた、噂を口にしていた。


「せつ、お前は超能力者の存在信じるよな?な?」


「あん?信じねぇよ。そもそも非現実的だろ」


せつと呼ばれた人物、遊雪 千晶は友人が頭のおかしい発言をした事を軽くあしらいながら否定する。


「んだよぉ!俺は目の前で人が飛んでるの見たんだってば!」


「太一、人は飛ばねぇってのがこの世の真実なんだよ。現実見ろ」


太一、このアホである村上太一はいくら突き放しても自分の目で見たものは必ず信じる癖があるからこうなると止まらない。


「辛辣だなおい!じゃあ今日の放課後に俺が浮遊人を見た場所に一緒に行こう!見たら分かってくれるだろ?」


「…暇だし付き合ってやるよ」


友人の熱い誘いが決め手…という訳では無い。否定はするし信じないが、太一と同じで見れば信じることは出来るし興味がない訳では無い。


「うぉお!?なんだなんだ!槍でも降るんじゃねぇかこれ!?」


「うっさいわ静かにしろ。明日から夏休みだから行くだけだ」


そういうことにしておこうと適当な理由を語りつつ、はしゃぐ太一を横目に夏休みへの期待が膨らむ千晶であった。



---------------------------------------


「夏だってのに何だか今日は肌寒い気がする。なぁ太一、カイロあるか?」


「あるわきゃねぇだろ!」


「ちょっとした眠気覚ましのジョークだよジョーク。」


あくびをしながらやはり家で惰眠を貪るべきだったと後悔する。


放課後、太一に着いていくことにした訳だが…眠いのだ。すごく眠い。学校から約1km離れた場所にある立ち入り禁止の山の中、午後7時を過ぎているがまだほんのり明るい。じきに暗くなり始めると同時に太一は浮遊人を見たのだという。


「なぁ太一、なんでお前はわざわざ立ち入り禁止の場所にいたんだよ」


そもそも前提条件として立ち入り禁止区域に太一が1人で通っていることに驚きだ。


「せつ、お前は分かってないな。1人肝試しに決まってるじゃないか。」


「当たり前ですみたいな言い方すんな。そんな変態趣味持ってるやつはそう何人も居るわけないだろ。」


本人は真面目な顔してやがるのがまたムカつく!が…こんな暗い中でもここへ来るやつが他にいたようだ。俺たちのいる茂みから少し離れた場所に1人だけのようなのでもしかすると同じ変態趣味が偶然にも肝試しに来たのかもしれない。と、そんな楽観的な考えは次の瞬間には彼方へ消え去った。


「…まじ浮いてるじゃねぇか!」


「な!?あれだよ俺が見たのは!」


眠気なんて一瞬で吹き飛んでしまう光景に息を呑む。

暗い中で良く見える訳では無いが間違いなくシルエットは空中を歩いている。撮影?ドッキリ?色んな事が頭に浮かんで整理がつかない。

ふと太一の顔を見ると興奮して止まらないというのが口元から伝わってくる。


「だわぁぁぁぁあ!!!!!!!???」


「え!?なんだよ太一!?」


本当にそれだけだった。時間にして5秒も経たない間だけ浮遊人から目を逸らしていた。途端に大きな声を上げ驚き逃げる太一にびっくりしてしまい状況を飲み込めないまま浮遊人がいた方に力いっぱい振り向く。


「おわぁあ!?」


先程まで50mは先に居たはずの浮遊人の影はいつの間にか目の前におり、同時に空気が重くなる。顔は蒼白で唇は乾いている...恐怖から逃れる事を一心に考える。

だが腰を抜かしたのか足に力が入らない。何度も逃げる事が頭に過ぎるも足だけではなく体も言うことを聞かない。竦み、呼吸が不規則に荒くなり声すら出ない。


少しばかりの観察を終えたのか浮遊人は両手を首元へ近づけてくる。何も出来ない故の妙な冷静さがこのまま首を絞められるという現実を突きつけ、徐々に迫る両の手がやけにゆっくりに見えた。

その場から動けず声も出せない状況で静かに力強く首を締めあげられ、死の恐怖で多少手足が抵抗の意思を見せるものの時すでに遅い。虚しい程の足掻きに終わる。


死ぬ!?そんなの嫌だ!!誰か!!

内心で切に願う千晶の想いは…


「おりゃあぁあ!!!」


1人の勇敢な女性へと届く。

朦朧とする意識の中、女性の声と鈍い音を聞いた気がする。それを最後に遠のく視界が暗転したのだった。



目が覚めた時には見知らぬ部屋の中だった。気がついてから数秒、状況の把握をするために記憶を辿る行為は図らずとも自身のトラウマとなったものへ直通した。


「うぁあ!はっ…はっ…!」


心拍数が跳ね上がり、何もしてないのに息切れをしたような苦しさに落ち着きを取り戻すための深呼吸が混ざる。まだ締められていた感覚が残る首へ手のひらを運び、震える指でそっと脈を測ったことで確認をとる。生きてる…


しかし、よく見れば点滴に繋がれているし着用しているものはドラマとかでよく見る術後入院中の患者のような衣類だ。治療を必要とする事態に陥ったことを実感しつつ、何度目かの深呼吸は落ち着きを取り戻すと共にどっと汗をかいたことを感じさせる。シャワーでも浴びたい。その前に…ここはどこなんだ?太一はどうなった?

冷静になったら次は考えろ。そんなことを自分に言い聞かせ思考をさらに回転させる。


「まさか、連れ去られた?」


「人聞きの悪いこと言わないでよ」


「なっ!」


なんだこの女は!どこから現れたんだ!内心驚きを隠せないが続く言葉に耳を貸さざるを得ない。


「畑 太一は無事よ。組織で保護してる。あなたもだけどね。」


はたけ?太一の性は村上なのだが…しかし一緒に居たのは太一だ。偶然にも太一なんて名前の人があの場に居たとは考えにくい。そう考えるとちゃんと太一も無事なのだと安堵する。


「そ、そうか。保護ってことは悪い実験のために連れ去られたわけじゃないんだな?」


「そうよ。私が助けたのよ。そんなに怯えなくても取って食べたりしないわよ」


勝手に連れて来といて信用の薄い言葉だな。つい最近化け物に殺されかけてるからこっちは得体の知れないものは怖いんだよ!!

あんな恐怖体験は頭がおかしくなっていたから見た幻ならばむしろ良かったのかもしれない、なんて事を思いつつ目の前の女性へ質問を投げかけた。


「それで、ここはどこであなたは一体何者なのかとかは聞いてもいい感じなのか?」


千晶はこういう時に引かない性格を露わにし、なにか情報をひとつでも聞き出せるならと思考をめぐらせる。


「答える義務も義理もないからノーコメントよ。ただ、あなたの無事は保証するわよ」


余計信じられない無事の言葉だな。ここはつついてみるか?


「へぇ、記憶でも消して日常生活に戻してくれるってのか?」


「あら、どうしてわかったの?SF映画でも好きなのかしらね」


おいおいマジか勘弁してくれよ。さっきの組織というワードを含めて公にされていない連中の1人なのだろうとか、勝手な設定で妄想して適当なこと言ったらマジな感じでビビっちまうだろ!


「てことは、SF紛いな事を取り扱ってる組織さんのメンバーなのかあんたは」


「そうね。あなたが見たであろう特異持ちも一般的にみたらSFそのものよね。」


「とくい?」


得意…徳井?クラスには徳井は居ないが…いや、この場合は"特異"があっているのか?なんとなくオカルトな感じするし。あれは浮遊霊とかそういう類のものなのだろう。

じゃあこの組織は…


「陰陽師組織…とか?」


「んー、違うわね。まぁ方向性は間違ってないかもしれない。同じように特異を持つものが集まっている組織なのよ。力には力で対抗しなければならないという訳よ。」


何を言ってるのかさっぱりだがこの方の設定があって没入しているのだろう。やっぱり頭がおかしい集団、まだ個人しか見てはいないが…ともかくそれに助けられたということか?記憶を処理する的な発言してたしもしかして薬に漬けられる可能性もあるな。


「なんか失礼なこと考えてる顔してるけど?」


勘は鋭そうな女だ。そんな事を考えながら警戒しつつ、ある程度はこの部屋について観察が終わった。まずは扉はひとつで窓はない。地下なのかもしれないが特に何かある訳でもなく病室のような見た目だ。薬品の棚?もあるな。しかし、無駄に広い。俺一人で寝ていたのであろうに、公園くらい余裕で作れるレベルだ。


「ここは一体どこでなんなのか聞きたいな?」


「だからそれは言わないってば」


少し可愛い子ぶって見たが芯は堅いらしい。


「なんでだ?もしかして処理できる記憶には制限があるとかか?じゃないとさっきから話してる内容は一般的には聞かないことばかりなのにペラペラとお話しているように見えるぜ?」


「ふーん、私が油断してるって言いたいの?」


「まてって!そんなにじりよって来るなよ!」


じりじりと鋭い目つきで詰め寄られ、カマかける相手間違えたと反省する。

それでも、押し切られないようにするのと情報をなるべく集めるために心臓バックバクしながら時間をかけて話しているのだ。

頭はクールなはずだが心臓はSOSを出している真っ最中。せっかく落ち着きを取り戻しかけていたはずなのに!

大半を正直に語り、他を濁し悟らせないように時間を稼ぐ。それが今できる最善だと千晶は思考する。だが女はそんな様子を察してか否か…


「まぁこちら"も"時間稼ぎしてるのは変わらないからおしゃべりしてるだけよ」


なんとバレていた。全く俺の作戦は通用していない事がわかったので繕うことをやめ、知りたい部分だけに絞る。


「再度確認だが、俺と太一は無事に帰して貰えるのか?そして情報量の多さで聞きそびれてたけど、あの幽霊は一体なんなんだ?」


「えぇ、それは保証するわ。だから昨日のことはすっぱりと薬で忘れて…」


やっぱり薬漬けにするつもりじゃねぇか!

そんな恐ろしいことを確信した瞬間、頭上から感じたことの無い大きな衝撃が起こり部屋の天井を簡単に崩壊させた。



短いスパンで何度心臓を痛めたか分からない。

目の前には砂埃と瓦礫が広がり、素人目から見ても緊急事態である事がわかる。そしてそんな緊急事態に俺はいつの間にやらSF女に助けられていたようだ。そして気がつく…


「…あの浮遊霊から助けてくれたのもあんた、いやあなただったんですね?」


この感覚は覚えている。朦朧とする中、あの時俺を抱き上げたのはこのSF…いや、この恩人なのだろう。そしてありがとうございます!

……俺だって恩人に丁寧になることくらいできるってもんだ。


「そうよ、最初に言ったでしょ?そして今はそんなことを言ってる場合じゃないわ。奴が来た…こんなタイミングでね。」


奴?もしかして浮遊霊が俺を殺しに来たって言うのか!?トラウマの張本人が直に殺しにくるとかなんの恨みだよちくしょう!


「やあ、ヒトフサの小娘ちゃん。」


「灰島ッ…!」


どうやら俺のトラウマが推参した訳では無いらしいが、この灰島とかいう男が白髪で顔面蒼白で唇が乾いた感じなのトラウマ刺激してきて辛い!


「男を部屋に連れ込んでお楽しみ中だったかい?はは、ハハハハ!」


「気色の悪いこと言ってんじゃないわよっ!」


瞬間、さっきまで俺の近くにいたはずの恩人が灰島と呼ばれた男へと飛びかかりざまの蹴りを入れる。


「なにッ!?」


灰島と呼ばれた男、改め灰島は彼女の蹴りを容易くあしらう。思ったよりも手応えが無く動揺が隠せていない彼女であったが戦闘慣れしているのだろうか、直ぐに切り替え強く踏み込んでいく。


「しゃらあぁぁぁぁぁあ!!!!!」


ドゴォ!というSEが似合いすぎるくらいの頭部額への右ストレート、右手を引きつつ続け様に脇腹へ左フック、その反動を利用し右足を軸に反時計回りに左足での回し蹴り、そしてそのまま押し込むように身体を捻りながら加速回転し再度顔面へ完璧なコンボの蹴りが直撃する。わずか1秒程の激震コンボだが…


「んん〜痛い!でもねぇっ!!」


攻撃は完全に入ったはずなのにまるでダメージを負わせられていない印象が強い。現に灰島は消耗した様子を見せず彼女へ真っ直ぐ拳を叩き込む。


「その程度で負傷する僕じゃないよ甘井さん!!!」


咄嗟に彼女は守りを固めるもガードの上から全てを殴り飛ばし壁へとめり込ませる。

嘘だろ!?どこにこんな力が!?


見た目からしてもそこまで力がありそうでは無い灰島から放たれる一撃に千晶は驚きを隠せない。


「腕はもらったよ、次は足かな…?」


「なめんなや…ッ!」


左腕がだらんと、誰の目から見ても折れていることが確認できる状態でまだ戦闘を継続する意志を見せる彼女に、逃げる提案をしようとしたその時だった。


「うちの甘井が世話になってるね、灰島さんよ」


「半田さん!!…敵は灰島のパワー型クローン!スペックはB程度と予想!」


「おう甘井、サポート頼んだぞ」


恩人に半田と呼ばれた、サングラスに黒いコートの怪しい組織に1人は居そうな男が突然現れ即座に銃のようなものを構え発砲する。


「もてなしが手厚いねぇ!半田さん…ッ!」


半田さぁぁあん!?


おいおい!一般人がいるんだぞ!?俺とか!

まるで躊躇なく発砲するものだから流れ弾や跳弾が自分に当たれば間違いなく軽症で済まないと考え偶然にも灰島と一緒に大声で叫ぶ。


「あぁん?黙れ小僧!無駄口叩いてないでさっさと手伝えや!」


何を言ってんだこのおっさん怖い!口も悪けりゃ意味もわからない!俺に何が出来るっていうのだろうか。今しがた自分を一般人扱いしたばかりである。目の前の変なやつらのカテゴリに入れないで欲しい。


「甘井!そいつ"自覚"はあんのか!」


「いえ!運ぶ最中に違和感はありましたが今はなんとも!」


銃?で距離を取りつつ応戦する怪しい男と左腕をカバーしながらどうにか右腕だけで戦闘を続ける恩人。会話をしながらも半田は的確に灰島の攻撃を捌き攻撃にまで転じている。


ていうか、銃に対しているというのに灰島とかいう化け物は何故かダメージが少なく見える…なにか盾のようなものを持っているみたいだ。

そんな事を思いつつも、俺に出来ることなんて今ここでずっと叫び続けることだけだろう。自身が寝ていたベッドが倒れていたので今はそこの裏から激しい戦闘を見ると共に流れ弾から身を守っているのだが、内心はこの場からすぐにでも逃げ出したい。戦闘が入口付近で行われている為全く逃げられずにいる。


「甘井!ガキ連れて逃げろ!何もしないなら邪魔だ!」


「でも半田さ…」


「うるせぇ!怪我人が2人居て何が出来る!さっさと行け!」


半田さんのおかげで今は唯一の出入口から灰島が遠ざかっており迅速に行動へ移せばチャンスがありそうだ。彼女も上司の言うことには逆らえないのかほんの少し迷った様子をみせこちらへ向かってくる。


「逃がさないよ甘井さんんンッ!!!」


「なにぃ!?甘井!!避けろ!」


灰島は天井の瓦礫を弾除けのように使っていたようだがそれをこちらへ豪速で投げてくるものだから身体が緊張して反応が遅れてしまった。半田さんも自ら盾を放棄し投擲するとは思わなかったようで必死に叫んでいる。しかし反射的にその場で目を瞑り両手を前に交差させ受け止める姿勢を取ってしまった。



恩人が目の前にいる。

しかしまるで動かず拳を前に突き出した状態で…否、今しがた膝から崩れ落ち地に伏してしまった。


「甘井さん!!!」


この人がまた俺を助けたのだと、瓦礫に殴り掛かり相殺したのだと瞬時に悟る。彼女は両腕に大きなダメージを負い行動不能に近い状態なのは一目瞭然だった。

どこまで護られたら気が済むんだ俺は!

甘井さんをすぐにでも治療できる環境へ連れていく事が今の俺の精一杯の恩返しになる。ここで甘井さんを背負い逃げるのは不可能に近い。

ならばやれることは半田さんを徹底サポート!

助けられた命を無駄にはしない!!!




「無理無理無理無理ムリムリムリ!!!!!」


数秒前まで決意が硬かったのだがその場の勢いとノリで倒れている甘井さんを守るように前へ出たはいいものの…


「軽く死ねるっ!!!」


「ガキィ!叫んでないで戦え!!」


「嘘だろ!?非力な一般人だぞ!?」


鬼田さん……半田さんはどうも俺に力を求めているようだが浮遊人を見る前はごく普通の家庭で生まれ平和な世界で育ったガキに過ぎない俺にどうしろと!?

逃げ回りながらも部屋の棚にあった薬品みたいなものを投擲している。中身はなにか知らないが薬品なんていうものは適量を超えれば全て毒だ。戦う力も武器もない今は浅知恵で出来ることをするしかない。

今の間も半田さんは的確に射撃して俺と灰島が一定の距離を保てるようにしてくれている。


「はは!半田さン!ぼくは君達と遊びに来たんだよぉ!だからねぇ!死んでくれないかなぁ!」


「頭のおかしさはクローンでも同じなんだな灰島ぁ!出来上がったこいつで治してやるから喰らいなぁ!!!」


「イワクダキ!!」


10分ほどが経過しただろうか。いや、実際は5分ほどなのかもしれない。そんな時間も分からなくなるほどの光景の中で半田さんはどこから取り出したのか銃身の大きなマグナム?で渾身の一撃を灰島に叩き込む。


「グガッッッッ」


灰島はかなりダメージを受けた様子、しかも弾が大きなものだったため残像程度で軌道が見えたが頭に直撃したようだ。力なくその場で倒れる灰島を確認し内心助かった喜びに飛び跳ねたいが、先にすぐさま甘井さんへ近寄り抱える体勢を取りつつ声をかける。


「すぐに治療できる場所へ連れていきます!だからがんば…」


「避けろクソガキィ!!!!」


なんてことだろう。半田さんは一定の距離を保っててくれる代わりに俺から少し遠くへ離れていた。こっちへ来てくれている姿は確認できるが間に合うはずもない。灰島の死体からまさか肉塊が破裂し飛んでくるとは夢にも思わないことだ。最後の足掻きか!?くそ!!


だが、もう最後に恩人を守って死ぬならそれでいい!!だから全力で…


"受け止める"!!!!



ドゴオオオオオオオオ!っと俺の手の前で音が弾けて止む。痛みもなく衝撃による痺れがあるくらいで完全に肉片を受け止めて弾いていた。これは残り5mもない程に寄っていた半田さんが驚いた様子でこちらを見ていたことで理解する。



「あれ?なんか俺やっちゃいました?」



千晶はどこの無自覚俺強い系主人公なのだろうかと1人でツッコミをしつつも甘井さんという怪我人を半田さん指示・協力の元運び出せたのだった。





次回は今月中に出せたらと思います。1話目は個人的に長くなったので2話目からは短く読みやすく進化したいと思います!

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