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第6話 なんとか見逃してくれた、と思ったけど?!

  蒼汰はつぶやき頭を押さえながら、部屋のドアを開け、ため息をつき出て行った。それに続いて、楓も貰ったタオルで目の周りを再びぬぐうと部屋の外へと出た。


 「お、戻ってきた。それで、お前らの大事な話は終わったか?」

 「終わったともいえるし、終わってないともいえる」

 「なんだ? それ謎かけか? ……なんか心配だな、本当に颯太にいじめられなかった?」

 

 すると、淳史はポンポンと頭を叩き、楓の顔を覗き込む。


「なんか、目が潤んでる気が……? 泣いてた?」

 

 そう敦志はいうと、首に手を添える。

 至近距離で優しく頭を撫でられ、恥ずかしくなった楓は慌てて離れた。

 なるほど、距離感が近いとはこのことだろうか。


「い、いえ!違います、ほんと」


 ぐるりと振り向きざま大きく手を上げ、楓は全員に語りかけた。

 

 「何も、問題なかったです。むしろ、蒼汰さんはどちらかというと心配してくれてたみたいで……。蒼汰さん、いえ蒼汰は、とっても優しい人みたいで安心しました」

 

 「ええ、蒼汰が? あの蒼汰が、速攻で名前呼び捨てで許可したのか? 待て、お前は本当に蒼汰なのか? あの何もかもが堅苦しくて面白みにかける、ボキャブラリーゼロの?」

 

 「淳史……、ちょっと僕をなんだと思ってるわけ?」


 「まあ、確かに今日からとはいえ新メンバーだし、お互いの呼び方は大事だよな。俺も悠って呼んでくれるかな? 淳史も淳史呼びで構わない。だから俺たちも、楓って呼んで構わないよな」

 

 「あー、悠はまた俺の許可なしに勝手に決めちゃう感じ!? 別にいいけどさぁ。あと、俺は楓っち、って呼ぼうかな? いいよね?」

 

ニカッと爽やかに笑う淳史と、口角を上げほほ笑む悠の2人に、少しだけ安堵する。


「まあ、淳史のいうことは、くだらないことが多いから基本無視で構わない」

「酷い」

「わからないことは、俺か蒼汰にきいてくれ」

 「はい、大丈夫です」

 「……まだ口調が固く感じるけど、ひとまず敬語も外せる?」

 「性格上、いえ、ずっと年上の方には敬語が当たり前の生活でしたので。善処(ぜんしょ)します」

 

 「善処!? 今どきの若い野郎が使う言葉にしては固すぎだろ! あんた、一体どんな環境で育ったの!?」

 

 「それは、お前が緩すぎるというツッコミ待ちか?」


悠の返答に、淳史はニヤリと笑う。どうやら、わざともあるようだ。

ボケ役も兼ねているのかもしれない。


 「ひとまず、立ち話もなんだから座ろうよ。楓、こっちに」


 蒼汰に手招きされ、そのままソファーに座らされる。

そのまま蒼汰は真横に座り、ちらりと見やると「ま、一応ね」と、小さく伝えため息をつき、本を片手に読みだした。どうやらテレビは見るつもりがないらしい。


 「ま、それもそうだな。あーだこーだと語らうより、時間を共有した方が仲良くなるだろ、ってことでテレビでも見ようぜ、面白い番組やってるかも」


 そういうと淳史はソファーへ腰掛けた。続いて、悠と座る。 

 

 「この時間やってるのは、ワイドショーだけだろ。それでも観るのか?」

 

 悠は本を読んだまま淳史にリモコンをバトンのように渡す。

 

 「当然でしょ!俺たち以外の芸能人のことも知らないとな、いわゆる社会勉強ってやつ」

 「ただ単純に今は練習したくないだけだろ、物は言いようだな」


 つけたテレビ画面では、ヘリコプターが飛んでいる。どうやらホテルの周りを撮影しているようだ。ニュースキャスターがマイクを持ちながらなにやら騒いでいた。

速報、ライブ中継……とでかでかと表示されている。

 

『衝撃のニュースが舞い込んできました!なんと、都内の超有名高級ホテルから忽然と大富豪の令嬢が消えました。失踪か、誘拐か、はたまた事件の匂いもしますが……?警察は身代金目当ての誘拐事件の可能性も含め――』


 ニュースキャスターはヘリコプターの音にも負けじと、声をさらに荒げる。

  

『かの令嬢の失踪について、どうやら当時の防犯カメラがうまく機能しておらず、捜索は難航しており――……今の段階でも、西園寺家のご令嬢は見つかっていないようです』


 「「西園寺家のご令嬢?」」

淳史と悠の声がハモった。


「知ってる? 悠」

「当たり前だろ、現会長が一代で株だか不動産だかで屈指の財閥に成り上がったとかで、いまや日本でも五本の指に入るほどの富豪だよ……。その一人娘がやたら美人で婚約相手を募集してて、しかもそれがすごい条件で――つまり、めちゃくちゃ騒ぎになってた」


 その言葉をきき、楓は息が思わず止まった。

……騒ぎになってた?

いったいいつ?

条件って?

自分の知らないところで、何かが起こっていたようだと。


「これ俺たちがオーディションしていたあのホテルじゃん。すごいタイミング」

「ああ、俺も知ってる。……ってまさか!」

 

テロップと共に表示される洋装に身を包んだ女性――それはもちろん、失踪前の楓の動画だった。

 

 「……この捜索の女の子……? エレベーター前にいた女の子だよな? まさかあの子が本人!? なぁ、お前のファンっていってただろ? 蒼汰! 蒼汰ってば!!」


テレビをみて、声をかけられた蒼汰は「なに?」とそこでようやく本から目線を外した。そして表示されていたテロップを読み、珍しく顔を引きつらせた。

 

 「……西園寺財閥の一人娘?」

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