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第42話 発覚と理由

「さて、コンサートが終わったからゆっくりと話そうか。どうして男装を? 楓」

「……!」

責めるように、というよりかは確認するようにの口調だ。


 想定外の「男装を」のずばりなキーワードに楓は動揺した。そうだ、霧崎はずっと”東野”と呼んでいた。それが今になって下の名前で――……突然「楓」と呼ぶのは妙だ。


 楓が黙りこくったまま動かないでいると、しびれを切らしたように霧崎は口を開いた。


 「お前は西園寺楓、だろう」

 「な、なんで――……」

 

 霧崎の射抜くような視線に震えあがり、困惑したまま、腕を払いのけ霧崎の後ろにある扉のドアノブへと手をかける。


 「待て、もう逃げるな」

 

 弾けたように、そのまま相応な力で搔き抱くように引かれ、背中に両腕を回される。

 

「……どうしてあの日、俺から逃げたんだ?」


 頭上から落ちる悲壮な、悲痛な声色。

なんのこと、だろうかと楓は思い返しやがて最初にホテルのエレベーター前のことを思い出す。 そうか、あの時のことだろうか――?と楓は判断した。

 

 腕はこれ以上逃さないように、とばかりにさらにキツくなる。

 

「あの、霧崎さん……苦しい、です」


 やっとのことで呼吸をすると声を発し、それだけを告げると、耳に届いたのか少しだけ腕を緩められた。体をなんとか少しだけ離され、対峙する。


「すまなかった――わざとじゃなくて。もうすでに二度も逃げられたからな、さすがに三度目は逃がさないよう捕まえねばと――」

 

「それは……何度も逃げてすみませんでした。あの時は事情があったんです。いまも、動揺してしまって。……話がしたいので……その、離していただけませんか……この態勢ではちょっとどうにも落ち着かず……」

 

「……逃げないなら、離してやるが?」

「大丈夫です。バレちゃったし、もう逃げませんから……!」

 

 しぶしぶ、といった露骨な表情を浮かべ離される。

楓はそこでようやく、かいつまんで逃亡した理由を話した。

 

 「なるほど、じゃあお前はお見合いについては知らなかったわけだ。要するに青春時代を謳歌せず婚約したくないとばかりにホテルから逃げ出した、と」


 「まあ、そうです。だから、霧崎さんがどうとか、誰がという理由じゃなくて……そこは理解していただきたいです。あの時、助けていただいた皆さんには感謝しています。なにぶん考えなしで飛び出してたので速攻で捕まっていたでしょうし……」

 

 「今の状況から考えるに家に保護された方がよかったのでは、とも思えなくもないがな……。ただこのまま、というのも……というか、この件、雪代は知ってるのか?」

 

「蒼汰ですか?一番最初にバレましたけど……」

 

「それなら構わん」


「いいんですか?」


「厳密にいえば、よくはない。全否定はしないというだけの話だ。この寮には俺の知るところ、後先考えぬほどの間抜けはいない、いくら女だとバレたとてお前に妙な手出しはないだろう。それよりも、だ」


 霧崎は楓の髪の毛を撫でる。

距離感の近さに楓は少しだけ下がった。

 

「そもそも、俺はあの日はお見合いというよりかは、お前に礼をいいに行くつもりだったからな」


「え? どういうことでしょう……」


「先ほどもいったが、俺を音楽の道に導いたのはお前だ。お前が小さな頃――誕生日会であっている。お前の誕生日会でピアノを弾いていたが、上手く弾けず泣いていた。一緒に弾いて、ピアノの楽しさを知ったんだ。その時にあの曲をつくり、作曲家を目指したからな。ずっと印象に残っていた。ここまでくることができたのは、お前のかけてくれた言葉があったからだ」


霧崎は目を伏せて話し続ける。

 

「お前は『とてもいい曲だと思う、いつか、また一緒に弾こう』と。あの時の事をずっと礼をいおうと思ってたんだ。ありがとう」


「いえ、そんな……でも、礼をいわれるほどの事では。今まで忘れていたわけですし。むしろ、覚えていなくて申し訳ないです……私のひとことが、霧崎さんのお役に立てたなら何よりです」


ほんのりと口元緩めると、霧崎は頷いた。


「それで、結局は今後どうするつもりだ? ああ、婚約の話の方だぞ。お前が望むなら、俺の方は別に進めても構わんが――……」


「ええ!? いえいえ、そんな、とんでもないです。私に気を使わないでください、霧崎さん。というより、そちらから辞退していただいた方が助かりま――……」

「辞退はしない。辞退するメリットが何一つないからな」


楓が話している途中で、かぶせ気味に即答されてしまう。

 

「うっ……そう、ですか。でも、そうなるとまた色々……少し、考えたいと思います……」

 

「そうか。では、おいおいだな。そのことはお前が西園寺家に戻ってからでも構わない。好きな相手ができたのであれば、その時こそきちんと辞退しよう」

 

「霧崎さん――……」

 

「まあ、雪代がお前の事を知っているなら、まだ少しは安心できるがな」


「雪代――って、蒼汰が? さっきからずっと何度も……蒼汰のことを気にしてるようですけど、どうして」


「……先ほどからお前とかみ合わない部分があるな。まさか、とは思うが知らなかったのか?」

 

その言葉の続きを楓は待つ。もしかして、が脳裏をよぎる。

 

「雪代蒼汰はお前の婚約者候補のうちの一人だ。しかも、最有力候補として推されていた。なにせあいつは――お前と同い年に加え、西園寺家と並ぶ雪代グループの御曹司だからな。あの日、辞退していたが」

 

 その言葉に、楓は言葉を文字通り失った。

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